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白湯と酒とシルクと女と

「さっき、ここに置いた水が無くなったんだけど」と優子が慌てて、皿に浮かした切り花の花にあげた水が空っぽだったのに気付いた。人間が飲むわけがなく、ほっておいたら、どうやら雄猫のみーちゃんがたっぷりとあった水を飲み干したようだ。

怪奇現象かと思った謙也は、大笑いしている。「そんなことってあるんだね」と皿を覗くと、花だけが残って、空っぽだった。花に魅せられて飲んだのか、香りなのか、花の色なのか、猫にしか分からない。実際に飲んでいる最中の姿を見て無いので、分からない。飲み干した皿を見ただけだ。

綺麗に飾った皿が、無惨にも水無しの鉢のようになってしまった。「そう言えば、睡蓮鉢や池の水を旨そうに飲んでいるな」と謙也が言うと、優子も「そうなのよ。汚そうだけど、飲んじゃうのよ」と頷いていた。

謙也は、気になったので、ネットで調べたら。みんなのペットライフというサイトに「猫は祖先が砂漠で生活していたせいか、少ない水分でも生きていける体になっています。一日に猫が必要とする水分量は体重1kgあたり50ml程度です。」と書いてあった。なるほど、と納得した。

謙也は、毎晩のように酒を飲む。時には、日本酒を5合飲んでしまったり。ビールの500mlを3本くらい飲んでいたりする。「猫に比べれば、とんでもない量を飲んでいる」訳だ。起きた時に、白湯を飲むことにした。毎朝のように七輪で薬缶に湯を沸かす。滾ったその湯をポットに入れて保温する。家族の誰も飲まないので。インスタントラーメンを作る時に使っていたが、ある日、白湯を飲むことにした。「結構うまい」と気づいた謙也は、飲み始めた。毎朝の湯沸かしが役立った。

白湯は、無味無臭のような気がするが、僅かだが、味がある。水の中に含まれているミネラルがあるためらしい。どのサイトでも白湯の飲み過ぎは良くないとある。だが、謙也は口当たりが良いので、コーヒーやお茶より、好きになってしまった。「大量に飲むアルコールより、身体に良いことは確かよ」と優子が後押しする。

最近、手足が冷たく感じる。優子の手を触っても、冷たい。冷え取りが静かなブームだそうだ。1時間ほどの半身浴で毒だしをしている謙也。優子は、2〜3時間湯船に浸かっているから年期の入った毒だしのプロだ。毒だしをすると冷え取り効果がある。もう13年も続けている。コロナの影響ではないが、身体のメンテナンスをしようと半身浴を始めた。冷え取りには、靴下を10枚履き、シルクの靴下と綿の靴下を交互に履く。五本指ソックスを下の方に履き毒を取るそうだ。

流石に、そこまではしないが、「下着もシルクにする方が効果がある」と優子に言われた。「シルクは、蚕(カイコ)の繭から作られるタンパク質でできた天然繊維です。アラニン・グリシン・チロシンなどの、お肌の成分に近い約20種のアミノ酸が数百~数千も結合した純粋なタンパク質繊維で、繊維素材としてだけではなく、ひとの皮膚や健康にもよい多くの機能を持ち合わせています。」と片倉工業と言うサイトに書いたのを謙也が見つけた。天然繊維の持つ効能は、化繊や合繊では味わえない肌感や触感で素人でも分かる心地良さがある。

健康に気を遣いはじめたのは、歳のせいでもある。「昔のように動かない。こんなはずじゃない。老いるという事実を突きつけらてしまった」と謙也が感じている。過去がどんどん離れていく実感。現実を認めなければ、生きていけない時が来ている。周りと比較する必要もない。自分のできることだけを淡々とやることしかない。謙也は、今年になってから、世帯主を息子に譲った。世代交代をうたった。それが正解だと思う。妻も息子も素直に認めた。人のためにできることを模索している最中だ。

世間から遠ざかるかもしれないが、自分の中に入り込み、自分の中を探索する時間も必要かなとも思った謙也であった。巣ごもりと人は言う。巣があるだけ幸せだと思う。いいじゃないの籠ったって、幸せに感じているんだから。居直りも時には必要だ。


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コミックの小説家でデビューしました。笑いをお届けしたいと思います。ペンネームは文豪乃冬目創玄てす。 こちらにも https://note.com/bungo_3/