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ジョセフ・コンラッド「闇の中」

船乗りマーロウは、19世紀末に経験した、「コンゴ自由国」での冒険を雄弁に語る。
彼はコンゴ川を遡る旅を続けるのだが、その過酷さは想像を絶するものだった……。

後年、F·コッポラが「地獄の黙示録」として翻案し、映画化することになる小説である。

作者·コンラッドの実体験に基づいた作品らしい。

マーロウは、青年のロマンティシズムから、船乗り(実質的にはアフリカ探検家)の道を選ぶのだが、コンゴの現実は現地人の酷使も含め、当のヨーロッパ人においても劣悪な状況で地獄のようだ。

これは帝国主義が生み出した地獄なのだろうか……確かにそうではあるが、もう少し俯瞰すれば、文明と野生の衝突、人間の暗黒面といった普遍的なテーマが見えてくる。

そしてコンラッドは、この作品を空想で書いたわけではなく、本当に自分の目で見て、現地で経験した記憶に基づいて書いているのだ。
この迫力、臨場感は、否が応でも読者の精神をアフリカの奥地へと誘う。

ヨーロッパからアフリカは意外に近い、むしろアジアより近いくらいだ。

しかし、アフリカの奥地は、ヨーロッパ文明とは徹底的に異なる文法を持ち、そこに存在し続ける「異界」なのである。

「実体験に基づく」というドキュメンタリー的な仕組みを外枠に保ちつつも、核心(ハート)部はダンテの「神曲」にも似た形而上学的で神話的な内容で満たされている本作が色褪せることは、「人間」が存在する限りないだろう。

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