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#観光文フリ 博多包丁と螺鈿紫檀五絃琵琶〜2015年10月「第一回文学フリマ福岡」

 2013年の大阪開催を皮切りに、文学フリマは日本の各地で開催されるようになりました。「文学フリマ百都市構想」のもと、2019年までに9都市で開催されています。
 いつの頃からか「#観光文フリ」という言葉も使われはじめました。文学フリマに参加しながら旅を楽しもう、というわけです。
 2003年から文学フリマ東京の主催者を務める私にとっても、この期間で「文学フリマ」の意味合いが大きく変わりました。まさしく、文学フリマにかこつけて全国各地に旅ができるようになったのです。
 これまで文学フリマのイベント時のエピソードを語る機会はあっても、その前後の観光文フリについて紹介することはありませんでした。ここでは、そんな私の、文フリ旅の記憶を綴ってみましょう。

 今回は2015年10月25日「第一回文学フリマ福岡」のお話しです。

(執筆:文学フリマ事務局 望月倫彦)

■博多包丁

 二泊三日で訪れた福岡の地。1日目は飛行機で現地入りをしてから福岡市内を軽く回り、夜は現地の事務局メンバーと会食をしました。二日目は「第一回文学フリマ福岡」の開催当日です。朝から会場で動き回り、夜は打ち上げでぶりしゃぶを食べたことを覚えています。
 さて、福岡滞在の三日目。私はなるべく遅い時間のフライトを予約して、この最終日を観光にあてることにしていました。薬院のホテルを出て、徒歩でとある鍛冶屋さんに向かいました。ちょうどこの一ヶ月ほど前にNHKの「ブラタモリ」で博多が取り上げられており、伝統工芸品の博多鋏が紹介されていました。それで興味を持ったのですが、ホテルからすこし歩いたところに博多包丁を作っている鍛冶工場があることをネットで知り、のぞいてみようと思ったわけです。
 行ってみるとそこは小さな鍛冶工場でした。老夫婦が応対してくれました。テレビの町ブラロケでたまたま取り上げられてから注文が殺到して、最近は対面の販売はしていない、とのことでした。しかし、職人の旦那様が「一丁だけなら売れますよ」とおっしゃいました。おそらく、私が遠方からの旅行者であることを察して、気を遣ってくれたのでしょう。お言葉に甘えて、一丁の博多包丁を購入しました。
 刃に独特の角度がついた逸品です。いまでも大切に使っています。

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■太宰府天満宮、九州国立博物館、螺鈿紫檀五絃琵琶

 刃物は飛行機に持ち込むことができませんから、購入した博多包丁を近くのコンビニで発送した私は、続いて太宰府へ移動しました。こちらはいたって典型的な観光コースと言えましょう。
 太宰府駅から天満宮へと歩いていた私は、案内板に貼られていた九州国立博物館のポスターを目にしました。「美の国 日本」という特別展が開催中で、しかも二週間限定で正倉院宝物が公開されているというのです。実はその時まで九州国立博物館が太宰府天満宮と近接していることすら認識していなかったのですが、そのポスターを見てすぐ計画を変更し、博物館へと足を運びました。
 この特別展は九州国立博物館開館10周年記念ということで非常に力が入っており、火焔型土器や法隆寺の多聞天立像など、誰もが教科書で見たことがあるような国宝が目白押しでした。
 しかしなんと言っても私の目的は正倉院宝物、中でもひときわ有名な「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」です。中学生の頃から趣味でアコースティックギターを嗜んでいる私にとって、この約1,300年前の弦楽器は一度でいいから実物を見たいと願っていた一面でした。
 広い展示室の中央に、「螺鈿紫檀五絃琵琶」は展示されていました。回りをぐるりとベルトパーティションが配置されていて、その導線に列に並んで観賞するかたちです。列と言っても、そこには20人ほどしかいません。奈良の正倉院展は数時間待ちにもなると聞いていましたが、拍子抜けするほど空いています。私はベルトパーティションの導線を2周もして、憧れの逸品をじっくりと観賞することができました。
 有名な“ラクダに乗って琵琶を弾くペルシア人”の意匠はもちろんのこと、側面や裏面やヘッドに施された精緻な装飾は感嘆するばかりです。夜光貝の輝きはとても千年以上も前のものとは思えません。そして間近で目を凝らしてもほとんど傷が見られない保存状態にも驚かされました。
 この特別展は他にも素晴らしい展示物が多く、私は大いに満足して博物館を後にしました。文学フリマ福岡のおかげで、「螺鈿紫檀五絃琵琶」をこの目で見ることができるとは。思わぬ幸運に感謝しました。
 ただ、九州国立博物館でかなりの時間を使ってしまいました。フライトの時間が決まっているため、太宰府天満宮は足早に見て回ることしかできませんでした。またもう一度、文学フリマ福岡にあわせて、訪れてみたいと考えています。

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※この日に撮影した太宰府天満宮の手水舎で水を飲む猫。

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