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文学フリマ"Xバナー"はなぜ生まれたか

Xバナーはなぜ生まれたのか

昨年秋、文学フリマ事務局では "Xバナー" というものを初めて作成した。
Xバナーというのは、印刷された布素材をスタンドにぴんと張って立てる、自立式の看板のようなもの。下の写真に写っている、縦長のこれである。

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(2019/11/24 第二十九回文学フリマ東京見本誌コーナー入口/撮影:山本純)

このXバナー、裏側から見ると布とスタンドの接点が布の角にあたる4点になっていて、少したわんだ2本の棒が交差し、布をぴんと張っている。その2本の棒が交差した形が、ちょうど「X」の形に見えるわけだ。見本誌コーナー以外にも、会場入口や受付など要所要所のものを作って配置した。
これらのXバナーは、昨年(2019年)11月24日の第二十九回文学フリマ東京に合わせて作成したものだ。そのあと、2020年1月19日の第四回文学フリマ京都、2月23日の第二回文学フリマ広島でも使用したため、そちらに来場された方も現物をご覧になったかと思う。

さて、このXバナーをなぜ作ることになったのか。
単純に言えば、何がどこにあるか分かりやすくするため、標識としての機能を求めて、ということになる。
しかし、改めてなぜ作成したのかという理由を考えてみると、道案内という表面上の機能を超えて、文学フリマ事務局がここ数年で考えてきたこと……直感的に理解できる会場づくり、それなりに魅力的な装飾、全国への効率的な展開、といった方向性を体現するものだと気付いた。
そこで今回の記事では、なぜXバナーを作るに至ったのか、その本質的な理由について振り返り、作成の道のりを書き残してみたいと思う。

迷子の多いイベント

そもそもの話として、かつての文学フリマはとても迷子が多かった(ここでいう迷子とは子どもが親とはぐれて居場所がわからなくなることではなく、トイレの場所がわからないとか、ごはんを売っている場所や手続きの場所がわからないという、年齢を問わない迷子のことだ)。目当ての出店者のブースが見つからないという質問も時々あるが、圧倒的に多いのはお手洗いの位置や見本誌コーナーの場所、宅配便搬出の受付所の場所などだった。
勿論、ある程度の規模の催事や、それなりの大きさの施設であれば迷子はつきものである。地図が張ってあったとしても、全員に地図が配布されていても、それでも迷う人はいる。どんなにデカデカと地図に書いてあったとしても、必ず一定数の人は迷う。迷ってしまう理由は様々だろうし、迷うこと自体を責める必要は全くない。
ただ迷子の数をゼロにするのは不可能とはいっても、さすがに多すぎる。それはスタッフの共通見解だった。具体的に1日何人が道を聞いたのかカウントしたわけではないが、反省会で複数のスタッフが "道を何度も聞かれて業務が進まなかった" と報告することは珍しくなかった。

迷子が多いとなぜ困るか

そもそもなぜ迷子が多いと困るのか。
まず、迷う人自身が困る。地図を見るのに苦戦したり間違った場所に何度も行ったりするよりも、素直に目的地にたどり着けたほうが楽なのは間違いない。たとえば、文学フリマではイベントの終了間際ごろから、出店者が自分の荷物を自宅宛に宅配便で送れるサービスの受付を行っているのだが、この宅配便搬出の受付場所がどこか迷う人が多かった時代は、けっこうな数の人が大きな段ボールの荷物を抱えて真逆のほうへ向かい、向かった先にいるスタッフに場所を聞いて真逆だと言われ、悲しげな表情で汗をかきながら引き返していく……という光景を頻繁に目にしていた。皆さんイベントを1日終えただけでも疲れているだろうに、什器や作品を詰め込んだ大きな荷物を持って引き返していく姿を見ているとスタッフのほうも残念な気持ちになる。

次に、スタッフが困る。
文学フリマというイベントは、通常の即売会に比べて、かなり少人数で運営されているイベントである (なぜ人数が少ないか、という部分は話し始めると長いので今回は割愛する)。人数が少ないという特性上、道案内をするだけの専任スタッフというものは存在しない。皆さん、受付か、別の業務をしているスタッフを捕まえて道を聞く。スーパーマーケットや量販店で売り場を聞くときと同じような具合である。
しかし、先述の通りあまりに多くの人に道を聞かれると必要な業務が進まなくなる。スタッフとしては道案内をしないわけにもいかないので丁寧に説明するのだが、一方で早く向こうのスタッフに伝えなくてはいけないこともあるし片付けるものもあるしなんならトイレにも行きたいんだけどどうしよう……といったジレンマに陥ることもしばしばだった。
そして、年々イベント規模が拡大するにつれ、訪れる人も増え、したがって迷う人も増え、道案内をする場面も増えた。だが、スタッフの増加はそのペースにまったく追いついていなかった。ほとんどのスタッフがトイレの場所の案内や見本誌コーナーの案内を1日に何十回と繰り返し、そのために他の業務が遅れていく。スタッフの増加もむろん必要ではあったが、迷う人の負担を減らすためにも「道案内の件数を減らすこと」自体が、近年とくに喫緊の課題となりつつあったのである。

迷子が多い理由

迷子が多い理由として事務局が考えたことはいくつかある。
まず、文学フリマというイベントは、アンケートおよび統計によると、かなり出店者の入れ替わりが激しく、毎回半分以上の出店者が初めて文学フリマに出る、という状況がほぼ全国で続いていた。さらにいえば、他の即売会を経験しておらず、文学フリマが初めて出るイベント、という方も多い。
年々出店者が増えていけば、それだけ初出店の方の絶対数も増えていく。
初めての方が多いというのは一長一短あるが (これについても語り出すと長いので別の機会にゆずる)、ともかく必然的に、会場のレイアウトやイベントの仕組みに慣れていない人が多くなる。(ただ、出店経験がある人でも会場が変わったりレイアウトの変更があったりすれば、勝手が違うので迷うということは十分ありうる)

次に、会場によっては必ずしも会場施設自体の案内表示がわかりやすいとは限らないということが挙げられる。たとえばトイレがかなり奥まっている会場もあるし、トイレのピクトグラムが数十年前に流行ったおしゃれではあるものの見つけづらい意匠になっている、という会場もある。

もう1つ、人は必ずしも案内や張り紙に書いてあることをちゃんと読んで認識できるわけではない、という根本的な理由も存在する。これはイベント運営をしているとつくづく感じることだ。しかし自分自身も、日常生活の中で張り紙に書いてあることに気づかない、なんてことは当然あるので、これはいってみれば前提として考えなくてはならない点だ。参加案内やカタログや事前公開される地図、当日会場に張ってある地図にも当然トイレや宅配便搬出や見本誌コーナーや休憩室の位置は書いてあるが、書いてあるだけでは人はそれを必ずしも認識するとは限らない。

このほか様々な理由を勘案した上で、事務局では、Xバナー作成以前からいくつかの改善策を打っていた。

ピクトグラムの活用

迷子を減らすために最初に手をつけたのは、会場内の地図にピクトグラムを追加してもらう、ということだった。

ピクトグラムについて詳しく話すと長くなるが、たいてい施設のフロアマップというものでは、トイレの位置には「トイレのピクトグラム」がある。「トイレ」とか「化粧室」とか「お手洗い」とか文字で書いてあることよりも、ピクトグラムを描いてあることのほうがずっと多い。地図の中でトイレを探すときは、まず文字よりもトイレのピクトグラムを思い浮かべながら探す人も多いのではないだろうか。そのため、まず何よりも先に、お手洗いの位置にはお手洗いのピクトグラムを付けてもらった。
同様にして、試し読みができる見本誌コーナーには開いた本のピクトグラムを、宅配便搬出受付には段ボールのピクトグラムを、休憩所には休憩のピクトグラムを、フードやドリンクの販売を行う店のところには食事や飲み物のピクトグラムを追加するようになった。以下の図のような具合だ。

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しかし、これが効果を発揮するのは地図を確認してくれた人と、地図を見ればものの場所が簡単に分かる人だけに限られる。迷子になる人のパターンはさまざまだが、地図をよく読まなかったり、読んでも上下左右が一致しないとうまく認識できなかったり、というケースは、さほど珍しくない。

そこで、次は現場に手をつけることにした。

張り紙の増加+ピクトグラム

地図の次に着手したのは、張り紙を増やすことと、張り紙自体にピクトグラムを利用するということだった。

元々の文学フリマの張り紙はけっこうシンプルで、白地に黒いゴシック体で場所の名前などを書いたデータをプリントして、ラミネートしたものだった。元データはMicrosoft Powerpointで作成されており、Microsoft Officeのある環境であればだいたい誰でも編集可能だ。効率と汎用性が高く、低コストで、誰でもすぐに作れる。急な必要が生じれば、当日であってもコンビニのコピー機やモバイルプリンタなどで増産できる。

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だが、当日非常に問い合わせの多いいくつかの場所については、既存の張り紙ではシンプルすぎてそもそも目に入りづらいのではないか、という仮説がもちあがっていた。また、会場の元々のピクトグラムの視認性が悪いということもあった。そこで、ピクトグラムを利用した張り紙を追加して、誘導性を高めるように随時差し替えを行っていった。毎回、反省会の結果を踏まえて足りない物を少しずつ足していったため詳細な記憶が定かでないが、たしか最初に差替・追加を行ったのは3年ほど前のことだったと思う。
ただ、この追加で作成したときは多くがAdobe Illustratorで作成され、追加編集できる人間が限られてしまうという問題があった。ラミネートしてあるので一回作ってしまえば使い回せたが、作成する種類は限定された。

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道を聞かれやすい場所にこのようなピクトグラム入りの張り紙を追加し、かつ増やしていくことで、スタッフにも道案内の回数が減ったという実感が出始めた。

さらに2019年11月24日に向けては、一念発起して大規模な張り紙のカラー化を行った。Illustraotorで作った種類もPowerpointで作り直すのはもちろん、できるかぎりカラーバリアフリーに配慮しつつ、デザインも一新した。また、ほとんどのスタッフが利用可能なUDフォントを採用して、より視認しやすい張り紙を目指した。

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これらは全てMicrosoft Powerpointで作成したので、かなり多くのスタッフが編集できるようになっているし、多くの種類を一度にまとめて印刷することができる。もちろん各地で専用の案内が必要な場合、追加作成も容易だ。ただ、このカラーの張り紙はまだ全国でも3回しか運用されておらず、しかもXバナーと同時に運用を開始したので、張り紙カラー化そのものの効果のほどははっきりしていない。既存の張り紙とのマージについても作業半ばであり、今後も会場内の様子を見ながら、内容や種類などの改善を重ねていくつもりだ。

地図・張り紙による案内の限界

さて、ここまでの地図や張り紙などによる改善策には、1つ問題があった。それは「小さい」ということである。
文学フリマの規模は、ある程度地域によって違いはあるものの、100ブース規模から1000ブース規模の間で推移している。そのため、どの会場もそこそこ面積がある。すると、ちまちまとした張り紙をたくさん張っても案内の効果は限定的になってしまう。A3くらいまでのサイズでは、人波にまぎれて張り紙が埋もれてしまうこともざらにある。一方でA2以上のサイズの張り紙を増やすには作成業務や輸送についても新たに考えねばならずコストがかかるし、ラミネートが難しいので一度きりで破棄する可能性も高い。そもそも張れる場所自体が限られているので、誘導のためと考えればあまり現実的ではなかった。

さらに、正直文学フリマは、事務局が装飾する部分についいて、視覚的な華やかさがほとんどないイベントだった。特にモノクロの張り紙しかなかった頃は、イベントカタログの表紙を使ったポスターなどの本当に必要最低限の装飾で、よくいえばシンプル、悪く言えば素っ気なかった。

この辺りの話はまた別の機会にも深めたいと思っているが、各ブースの装飾を出店者の皆さんがどんなに頑張ってくださっても、入口や案内表示などの基礎的な雰囲気を作るのは事務局のほうである。
もちろん、いっそ完全に"事務的"な見た目のままでも、機能上はいいのだろう。だがイベント自体の間口を広げ、あらゆる地域で多くの人に気軽に入って来てもらえる雰囲気を作るためには、もう少し目をひき、入口の時点で "イベント感" が感じられ、写真に映ってもそれなりに見栄えのするような、大きな装飾もあったほうがよいだろう。予算の限度はあったが、今後のイベントの成長のためには欠かせない施策だろうということで、これまで作らなかった立て看板系の案内を作ってみよう、ということになった。

Xバナー

とはいえ、文学フリマではほとんどの事務局が宅配便だけでイベント運営用の荷物を送っている。さらに、全国共通で使えるものについては全国8地域の文学フリマで同じ備品を使い回す仕組みをとっていて、共用備品は毎回東京から各地域に宅配便で送っているため、実質的には宅配便に入るサイズのものしか準備できない。
そこで出会ったのが、Xバナーである。

あるとき、文学フリマ東京と同じ会場(東京流通センター)を使っている音楽系の即売会を訪ねた。そちらのイベントは文学フリマ東京(2019年時点)のほぼ2倍の会場を使っていて、動員数もはるかに多いイベントだ。東京流通センターに2棟ある展示場を両方使っているため会場が2箇所に分かれるということもあって、道案内のために、金属と木の板でできた案内看板をはじめ、かなりしっかりした作りの目立つ看板を屋内外に設置していた。観察する限りでは、イベント装飾の専門会社さんが施工しているようだった。
こういった案内看板が欲しいとは思ったが、入場料をとっていない文学フリマの予算規模では、毎回いくつもの看板を装飾会社に発注して入れ替えるというのは少々難しい。しかも全国で使うとなれば、会場によっては搬入が困難になる。できるだけ自前で、しかも全国すべての会場で使えるようなものはないか、と長い間探していた。

そして最初にXバナーと出会ったのは、たしか2019年の春に技術書系の同人誌即売会を視察したときだ。
そちらのイベントでは、会場内の要所要所に布製のバナー状の看板が設置されていた。そのときは製品名も知らなかったが、見るだに組み立て式のようで、たためばそれなりにコンパクトになりそうだった。この形のものなら、文学フリマでも導入可能なのではないか、と思えた。

一度インスピレーションを受けるといろいろなものに目が向くもので、たとえば、あるとき本屋さんに併設されたカフェで、ソフトクリームの宣伝に使われているのが、ほぼ同じ形のものだと気づいた。サイズはより大きく、また素材が普通の布ではなく、耐水性のありそうなビニル系のものだった。普通の布だと褪色や劣化が心配だったが、より耐久性の高い素材であれば、全国に運んで繰り返し使っても難しくはないだろう。そして検索を繰り返すうちに、ようやくそれがXバナーという名で呼ばれる自立式看板だということが分かった。名前が分かってから、今度は予算に見合う値段で、スタンドもついていて、かつ耐久性の高い布で作成してくれる業者さんを探していった。

Xバナーの作成発注まで

ここからは実作業の説明になる。
まず最初の導入時に必要と思われる看板の種類は何で、どこに設置するかを計画した。手書きでラフをいくつか作成して、カラーリングも素案を作ってみた。初期のころから東京開催のトレードマークであった水色に統一するという方法もあったが、実地での感覚を踏まえると、道を聞かれやすく重要度の高い場所については、より目立つ色を採用した方がいいだろうと考えた。そのため見本誌コーナーは赤地に白、宅配搬出受付は黄色に黒という、強めのカラーリングを考えた。カラーバリアフリーへの配慮から、色相だけでなく明度でのコントラストもできるだけ付けるようにした。

無事に発注業者さんが見つかると、布のサンプルを取り寄せた。実際に触った上で耐水性・耐久性の高い布を選択し、見積もりをとって、全部で何本発注するのかを決める。
その後、発注用のデータをAdobe Illustratorで作成した。いくつかデザイン案は作ったが、最終的には下部に白い部分をもうけてイベントのロゴを配置した、比較的シンプルなデザインに落ち着いた。
(以下の画像は上のものが最初に作ったデザインの素案。入口案内が特にそうだが、統一感がなくうるさすぎると感じたので途中でボツにして、画像下の案に変更した。見本誌コーナーはXバナーの設置場所と部屋との位置関係を考えて、矢印の向きが異なるパターンを増やすことにした)

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そして1本テスト発注を行い、実際に代表宅で組み立てをしてもらった。
組み立てた状態でのサイズはほとんどの人の身長よりも高く、幅もあるため、ある程度の人ごみになってもこれなら目に入りやすいはずだと考えた。

また、実際に分解してみてもらうと、何本かまとめて宅配便で送れるサイズと重量だった。組み立ても難しいものではなく、これなら問題なさそうだと残りの分を発注した。当日までに、どのXバナーをどこに配置するかを示した図面を作成し、会場内の動線を思い浮かべながらシミュレーションを行った。
そして、第二十九回文学フリマ東京の当日早朝、何人かのスタッフで組み立ての練習を行い、実際、会場に配置した。第二十九回文学フリマ東京での初運用時は、道案内の回数がゼロとはいかないまでもずいぶん減ったという体感があった。また、写真に映ったときの見栄えもこれまでよりかなり改善されたと思う。
ただ、なにぶん当日初めて使ったため、宅配便搬出のバナーを組み立て忘れ、出し忘れるというケアレスミスがあった。そこで、約2ヶ月後の京都開催では朝の時点で全てのバナーをあらかじめ組み立て、使用する時間までは所定の場所の近くに裏返して置いておくことにした。これによって出し忘れは防止することができた。
以下の写真が、京都・広島開催の入口付近でXバナーを使用した様子である。

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(2020/1/19第四回文学フリマ京都 会場入口付近/撮影:大阪スタッフ)

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(2020/2/23 第二回文学フリマ広島入口付近/撮影:広島スタッフ)

Xバナーそのものも、まだまだ配置や種類を改善する余地はあるし、矢印の向きを変えるような什器を作成して汎用性を高められないかなど、検討すべき部分は多々ある。
初回からもうすぐ18年目を迎える文学フリマだが、2014年末の文学フリマ百都市構想を経て5年以上の歳月がたってみても、新しい課題はまだまだたくさん待ち受けている。


……と、思っていたら、なんとまあ歴史上でも大きな出来事になるであろう新型コロナウイルス感染症の登場で、2020年3月の前橋開催、5月の東京開催、 6月の岩手開催は、いずれも中止を決断せざるを得なかった。もちろんこの記事で生誕までの記録を記したXバナーも、活躍の機会なく、今のところは暗いカバンの中で眠っている。
中止はむろん断腸の思いというほかなかったが、関係者の皆さんの安全や、文学フリマがイベントの"継続開催"を大切にしてここまでやってきたことを考えれば、未来のためには重要な決定だったと今は考えている。そして、開催か中止かをめぐる議論や、ぎりぎり開催できた広島での対応や、これから先とりうる対応についての検討もまた、現在進行形でイベントとしては大きな経験になっていると思う。
今は、いってみれば、文学フリマ事務局がこれまで自分たちに課してきたミッション、文学フリマにとって強みだと考えていた要素、改善すべきと考えていたポイントなどが丸ごとすべてひっくり返されたような状況である。この状況下で、事務局はどんなことをやっていけばよいのか、あるいは"しないこと"を選択すればよいのか。まだまだ、私たちも模索の途中である。

しかし2019年11月24日に目にした、文学という言葉のもとに6000人を超える人が集った、あの圧倒的な光景をもう一度目にしたい。全国各地で、文学という言葉がなければ一生出会わなかったであろう人々と出会いたい。
だからこそ、この禍いも一つの機会としてとらえ、このnoteを通して普段はなかなか業務に追われて腰を据えて書けないような考えや裏舞台についても共有することで、皆さんとゆるやかなつながりを保っていけたらと思う。いつかまた会えるように、と願いを込めながら。

2020/5/18(月) 宮沢 著季

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