マガジンのカバー画像

エメ

4
ネコが旅に出るお話
運営しているクリエイター

記事一覧

4 エメ

 目的の家のドアの前で、エメとディアは並んでいた。
「ほんとに行くのか?」
「もちろん。ついでに、今夜はここで泊まらせてもらおうぜ」
 顔が引きつるエメをよそに、ディアは後ろ脚で立ち、前足で玄関ドアをトントンカリカリし始めた。
「トゥインクル〜、オレだぁ〜。ディアだぁ〜。入れてくれ〜」

サッ…

 玄関の右隣にある部屋の窓辺から光が漏れてきている。その枠の中、下から跳んで現れた1匹の猫が、ディア

もっとみる

3 エメ

 ディアは、ベンチの下に転がったままのパンを咥えて、ベンチの上に戻った。
「来いよ、エメ」
 運んでもらったパンのところに、エメはジャンプした。
「痛っ」
衝撃で傷口が痛んだ。
「後で手当してもらおうな」
 傷は痛むし、パンは食べかけだが、エメにはこっちの方が気になる。前脚をディアの背中に伸ばし、翼の下に差し込むと、くい、くいと押し上げて、上下した。
「お前、飛べるのか?」
「いや、飛べない。残念

もっとみる

2 エメ

 彼は痛む足で走り、誰もいない公園にたどり着いた。パンを咥えたままで。
「ンンッ…」
 開いた扉に驚いて跳んだ時に、誤って、自分で自分の足を踏み、爪で引っ掻いてしまっていたのだ。少し落ち着いてきた今、血が流れていることに、ようやく気が付いた。モフモフの言う通り、彼はケガをしていたのだった。
 あいつは一体何だったんだろうと思いつつ、ベンチの下へ潜り込む。パンを下ろして、傷口を舐めた。すると。

もっとみる

1 エメ

 それは少し前にあったお話。夜の街、薄暗い路地に、音も無く歩く影がひとつ。

カサカサッ
 
 彼はその物音を聞いて、ピクリと足を止めた。
 美味しそうな香りが漂うこの一帯の壁際には、私たちの目にはわからない、小さな獣道があるようだ。
「……」
 キョロキョロクンクンと辺りを確認しながら、用心深く早歩きする尻尾の長いその子を、エメラルド色に煌めく瞳が捉えた。
 スッスッと静かに近づいていく。その暗

もっとみる