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中国茶のある暮らし――9月のお茶「鉄観音」

長い歴史に磨かれた豊かな中国茶の世界。
四季折々の甘味や食に合わせるお茶を、中国政府公認高級評茶員・茶藝師の澄川鈴が提案します。
心に余裕がなくなりがちな日々だからこそ、めぐる季節を愛で、自分を癒すひとときを。
そして、お茶を通して見える中国の人々の素顔と暮らしにも、ほんの少し触れていただけたらと思います。

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9月のお菓子「月餅」

 旧暦8月15日の中秋節は、中国では「団圓節」とも呼ばれます。団圓は中国語では「团圆(túanyuán)」と書き、団欒だんらんする、集まるなどの意味をもっています。
 満月を観賞しながら、親族や友人が集まって月餅げっぺいを食べる。これは秋の風物詩で、新暦に直すと2021年は9月21日が中秋節にあたります。

 月餅は横浜の老舗菓子舗「和昌」の豆沙(黒小豆の餡)を。お茶は私が福建ふっけん省の安渓アンケイで入手した鉄観音てっかんのんの秋茶を選びました。
 満月の形を模した甘くて香ばしい月餅と、同じく丸々として香り高く味がまろやかな茶葉。
 今年はおおぜいで集まることはできませんが、こんな時だからこそ、季節感を大切に、秋の夜長を楽しみたいものです。

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 ところで、団圓(团圆túanyuán)の圓は、縁(缘yuán)と発音が同じです。団圓節は家族や人間関係を親密にするイベントですから「団縁」と記すこともできます。こういう〝漢字遊び〟のできるところが、中国語の醍醐味でもあります。
 お茶の世界でも、茶でつながる縁という意味の「茶縁」(茶缘cháyuán)を人々は大切にします。私自身、中国滞在中、まさに何かに導かれたような体験を幾度もしました。
 人と会うことが制約される鬱々とした時期を過ごしていると、中国でのさまざまな「縁」を思い出します。
 今回は、そのなかからまさにこの鉄観音茶を買った2018年11月の福建省安渓への「茶旅」について書こうと思います。


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