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題名 「コードGR」 第三話 創作大賞2024漫画原作部門

#創作大賞2024 #漫画原作部門

第三話

 車は洒落たバーの前に止まる。
 活気がある酒場では、客はゲームや巨大モニターに映し出されるレース、賭博などに興じている。
 カウンターに行くと薄着の若い女性が注文を聞いてきた。ミノクはビールを四つ頼む。
「ジョーは何を飲む? 未成年だから酒は止めとおけよな」
「俺はいらない。食べ物も水も飲めない」
 少し暗がりのソファーにエンゾたちは座る。
「じいさん、家が焼かれる前に特別な注文を受けなかったか?」
「そういえば、特注の人形を作っていた」
「誰からかの注文かしってるか?」
「ぜんぜん。黒服のスーツ着た男達がきて、仕上がった品もって、金を置いていった。じいちゃんの仕事場には俺は入ることあまりないから、その客となにかトラブルがあったのか?」
「じいさんは北のボスの注文を受けていたんだよ」
「俺を誘拐してバラバラにしたのはギルダタウンの奴じゃないのか?」
「ジョーをばらした奴は正直しらね。ただな、じいさんの家焼いたのは北の連中臭い」
「てっきりミノクがやったのかと。俺が行方不明になる前によくじいちゃんの家に来てたじゃないか」
「じいさんには恩があってな。じいさんが生きてるうちに孝行してみたくてな」
「恩って?」
「じいさんはな俺が孤児院にいたとき。十三歳から十五歳までの間引き取って育ててくれたんだよ。跡継ぎに考えていたみたいだけど、案の定、俺は道を誤ってギルダタウンのちんぴら。素直にじいさんの言う事聞いていたらなまっとうな道歩んでいたものをな」
 ふっと、風が店の中にながれ込んだ。ざわっと店の雰囲気が変わる。一斉に客達の会話が止まった。皆の視線が入り口に注がれる。
 狭い入り口の扉の前に立っているのは、黒いベールをかぶったクリーム色のロングドレスの女性。落ち着いた物腰からすると若い女性ではない。
 次に目に入ったのは、その女性が引き連れている三体のロボット。ミリガンベータ、ファリガ、PT801。
 
 機種の名前を認識した瞬間、エンゾはグラスを床に落した。ガラスの割れる音が店内に響く。
「なにグラス落してんだよ」ジョーが口を尖がらして言う。
 全て軍事用に開発されたロボットだった。ずっと昔に中東の戦争のニュースで見た事があった。
 2150年、中東砂漠戦争で殺戮の限りをつくしたミリガンベータ。
三本の足が、砂漠地帯ではキャタピラに変更可能。すらりと背の高い人型と蛸(タコ)の混じったような鋼鉄のボディには吸盤のような突起が無数にある。この突起からの波動は半径100メートル以内の人間の肉体を瞬時に肉片と血に変える。または鋭いレーザーでターゲットの人間の身体を真っ二つに切ることも可能。
 ファリガはアフリカの内戦地帯でゲリラ同士の戦いでよく使用された、ロボット型火炎放射器。1200度の灼熱の炎を口から吐き、大抵のものなら瞬時に焼き尽くす。サルの様なデザインなのは機敏な動きができるようにだった。
 PT801。これは破壊のためのロボットではなく、防御のため。
白いセラミックの卵の様なロボットで磁気で空に浮いている。攻撃されたときはプラズムバリアで、瞬時に保護する人物または特定のエリアを保護し、敵の攻撃を防ぐ。
 何故、軍事用のロボットがこんなスラム化した地域に? この女性は何者なのだ?
 女性はハイヒールの音を響かせながら歩み寄る。
「私のことを調べているのはあなた達?」
 ベールを頭から首にずらすと四十歳ぐらいの黒い髪の聡明な女性の顔が現れた。美しくマドンナを思わせる微笑。
ミノクは真っ青になって口をぱくぱくさせる。
「すみませんでした! ゆ、許して下さい!」
「迷惑だからやめてくださらないかしら」
「わ、わかりました!」
 大男のミノクがまるで母親に怒られた小さな子供のように謝る。
 バーの客が煙に巻かれる蜂のように慌てふためいて出入り口から逃げ出していく。
 バーの店内にはミノクとジョーとエンゾだけが残された。
「分ったならいいわ」母親の様な微笑を三人に向ける。
 彼女はエンゾの顔を見ると、ハッと何か思い出したように驚いた。
「ドクター・エンゾ、こんなとこであなたに会えるとは。近々、会いに行こうと予定していたものですから」握手を求め右手を差し出してきた。
エンゾは彼女のことなど知らない。
「人は私のことを北の女王と呼びます」


 握手の後、女性は言った。
「話は早い方がいいですから、私についてきて下さい」
エンゾはもどかしそうに断りの言葉を言い出すがミノクの分厚い手が背中を押した。
「つべこべ言ってないで、命が惜しいなら行け!」

 エンゾは彼女についてバーを出た。外の空気はどんよりとして基本色は灰色。この町には木が無い。

 北の女王の後ろをとぼとぼ歩く。背後からロボット達が威勢するかのようについてくる。

「ドクター、怖がらなくても大丈夫。この子達は私のガーディアン・エンジェル」
守護天使? 一体は別にして、後の二体は人殺しのための兵器じゃないか。

 突然、背後からジョーの大きな声が飛んできた。
「先生! 俺もついていくぜ!」
バーのドアをいきおいよく開けたジョーの姿があった。

 北の女王が微笑む。
「あら、先生もガーディアン・エンジェル持ってるんですね? 面白いわ。あの娘(こ)も連れてきてもいいわよ」

 少女の姿が近づいてくる。不安で現実感が消失しているエンゾはジョーが歩み寄る姿を立ち尽くし見ていた。
「先生。泣きそうな顔してんじゃないよ」一メートルの距離まで近づいたとき、いつもの調子で笑いながら言った。

 目がじわっと熱くなった。同時に胸の中にもその温度が広がり、緊張の鎖に囚われていた体を開放する。
 アンソワープを抱きしめていた。顔を柔らかい金色の髪に埋める。 (ごめん、アンソワープ。君をこんなに危険な目に合わせてしまって。追ってきてくれて、ありがとう。)

「もしかしてドクターの恋人なのかしら?」北の女王は驚いた声で尋ねる。このまま、時間が止まって欲しいと願う気持ちを少しも察せず、ジョーは乱暴に僕の腕を振り解いた。
「こ、恋人!? 冗談じゃねぇ。お、俺はそんな趣味なんかねーよ」
「あら、男の子なのね。ビックリしたわ。ずいぶん奇麗な子ね」
 くすくす笑い出す北の女王はどこか少女の様な雰囲気をまだ残している。なぜかこの女性は悪い人ではないという不思議な気持ちが沸いてきた。

***

 前世紀風の地下鉄駅の入口の階段を下っていく。ステップにはホームレスが眠っている。階段を下った所は巨大な駐車場だった。防弾鋼鉄の大きな黒いバンが止まっていた。運転席には誰か座っているが暗くて姿は見えない。後部座席に北の女王と乗り込む。

 車は走り出すとトンネルの様な通路へと出た。地下ハイウェイ。暗いトンネルの横には電光で数字が表示されている。【ルート304】左に左折すると、緑の文字で【ルート901】。

 三車線もある地下道路。耳をつらぬく高速音を発てながら、行き交う車は去っていく。目に見えるのは車のライトと壁の電光のみ。

 車は大きな鉄のゲートの前に止まった。ゲートが静かに開く。車が中に入るとゲートは大きな金属音をたてて閉まった。

 車から降りるように言われる。車から降り、薄暗い狭い駐車場を十メートル歩いた所にエレベーターの入り口があった。大きなエレベーターで、ロボット三体、人間二人、サイボーグがのりこんでも十分に余裕があった。

 エレベータが四階で止まった。扉が開いた前にあったのは明るい大きな部屋だった。

***

 エンゾが先に降りると、部屋の中にあった小さな青いドアが開き、頭に包帯を巻いた二歳ぐらいの男の子がちらりと顔を覗かせた。

 病院だった。青いドアの病練は小児病棟兼孤児院だった。広い病室に子供達がいた。ゲームやおもちゃで遊んでいたり、ベッドで寝ていたり。子供達は彼女の姿をみつけると、ニコニコ笑って嬉しそうだ。
「みんな元気だった?」北の女王が子供達一人一人に、明るく話し掛けている。子供達はみな障害者だった。車椅子に乗った子、目が見えない子、腕が無い子、火傷で髪が無い子、赤ん坊のように小さな子。
「私が面倒をみてるんです。面倒って言ってもたまに遊びに来て、余分なお金があれば施設に寄付するぐらいなもんなんですけどね」
「依頼って子供達の治療のことでしょうか? 専門は脳外科とロボット関係で整形関係ではないのですが」

 彼女は目をそらし沈んだ顔をして口に手を当てる。
「上の階に行ってから説明します」

 四階にジョーを残して最上階に案内された。何重にもロックされた扉を五つもくぐり、最終的に暗い特別集中治療室の様な部屋に通された。

 中央にあるメタリックなベッドの上にチューブに繋がれて誰かが寝ている。生命維持装置からの重低音、酸素吸入装置の定期的な圧迫する音。

「私の兄のマックスです。ギルダタウンの人々は兄のことを帝王と呼んでいます。先月の手術のミスで兄は植物人間です。依頼とは兄のことなんです。この事は絶対に誰にも漏らしてはいけません」ベッドの上に横たわる人物を凝視し冷静な口調で言う。
「手術のミスとは?」
「兄は度重なる抗争の怪我がもとで、肢体、内臓のいくつかは人工でした。人工腎臓と昔の脊髄の怪我の後遺症で支障がでだしたので、先月サイボーグに脳移植手術をしたのです。実際は手術のミスというよりも、サイボーグ自体がそれほど精巧に作られていなかったのが一番の問題だったのです。兄は生きています。兄と言っても双子なのですが……」
 彼女は眠っている患者の髪を優しく撫でる。
サイボーグの患者の顔立ちは彼女と良く似ている。
「兄の脳を私の身体に移植して欲しいのです」


続きの話↓

https://note.com/bun03/n/nead752057166


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