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薄情な猫の話。

実家には猫が二匹いる。
一匹はタマ。

プライドが高く、どことなく気品を感じさせる猫だが頭が悪い。

問題はこいつ。
名はミケ。
タマのときもそうだが、私が名前を考えているときに祖父がミケと呼んでいたから名はミケとなった。

タマとは私が小学生のときから一緒に過ごしているが、ミケとは高校3年生の冬に出会った。

大学入試まで数ヶ月と迫った時期のこと。

ど田舎にある私の実家は玄関や縁側の戸などの鍵をかける習慣があまりなかった。田畑に囲まれた百姓の家から盗るものなど何もないだろうという楽観的な考えによるものであったが、我が実家は幾度となく盗難の被害に遭ってきた。

犯人は野良猫。

彼らは器用にも玄関をカラカラと開け、するりと家に不法侵入する。そしてガツガツと食料品を貪り食う。テーブルの上にラップして置いておいた料理などは格好の餌食であった。
焼き魚はもちろん、カレーや茹でたブロッコリーなどありとあらゆるものが野良猫の餌食となった。輪ゴムで止めたかっぱえびせんがぶち撒けられていたときは笑いが止まらなかった。
そんな極悪極まりない野良猫たちだが、そのほとんどが成猫であった。しかしある時、まだ幼い三毛猫が我が家にやってきた。

私はこの三毛猫のことをよく可愛がっていた。タマの餌やおかきなど、タマがよく食べるものをあげていた。幼い猫というものは絶対的に可愛いものなのだ。
そんなことをしていたからか、三毛猫は頻繁に我が家に入ってくるようになった。
最初のうちは
「この化け猫が!あかんぞそげな猫うちにいれちゃあ!」
と言っていた祖父は
「ノミを取ったらなあかんな」
と私に言うようになった。

父はというと
「うちはタマがおるで十分。」
と言っていたが
「ミケ用のブラシと餌皿と、いろいろ買わな」
と言い始めた。

まぁそんなこんなでうちの家族に愛されるようになった野良猫のミケは、いつのまにか父の布団で寝るようになった。
それ以来、完全にうちの飼い猫となった。放し飼いなので野良猫のままと言えばそうなのだが。

そして現在。

ミケはブクブクと太りスイカのようになってしまった。

裕福な生活をしているミケだが、

なんと家に招き入れた私のことを一切覚えていない。

高校3年生の冬に私が家に入れ、春に私は引っ越した。そのためミケとの空白期間はある。帰省した際にしかミケとは会わない。しかし恩人を忘れるとは如何なものか。いったい誰のおかげで食うに困らない贅沢な生活ができていると思っているのだ。私の計らいがなければ、貴様などそこらの野良猫と同じぞ。

本当はこんなこと思いたくないのだ。なんと恩着せがましく下品で汚い心であろうか。

しかしこの薄情な猫の前では、私の心はかように下卑たもののように腐ってしまう。

恩を忘れた薄情な三毛猫の話。

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