見出し画像

翻訳家のエヴァンゲリオン

書評、というわけではないけれど、本の紹介をしたい。

大瀧啓裕氏のエッセイ、『キー・ライブラリー/翻訳家の蔵書』である。

この本は大瀧啓裕氏の生い立ちから翻訳稼業に至るまでが書かれたエッセイで、二段組みの400頁という大著である。
私はこの本が大好きで、折を見ては読み返している。そして、印刷の匂いを嗅ぐ(私は印刷の匂いが好きだ。紙とインクに恍惚とする。ジャンプ、サンデー、マガジン、汎ゆる雑誌の匂いは異なる。そして、たまさか似通った匂いを感じることがある。変態かもしれないが、皆そうじゃないの?)。

大瀧氏は恐ろしいほどの読書家で、また蔵書家でもある。

若かりし頃の海外のパルプ小説誌を船便で取り寄せるエピソードや、海外の数多の幻想小説文学誌の蒐集、日本の推理作家や文豪関連の書物の蒐集に、日々進化していくパソコン関連の話、そして英単語が文章中に出る度に、繰り返される正しい発音(例:フラワー(英語としたはフラウア))など、飽きさせない本である。

翻訳家の日常という項目では、本当に楽しそうな仕事の日々が書かれる。
憧れの作家生活を絵に描いたようだ。小ネタで挟み込まれる集めているものや、煙草の話(私は吸わないが)なども、非常に楽しい。
氏は仕事の合間にいつもe-buyを覗いている(今ならばセカイモンやメルカリもだろうか?)

大瀧氏は昨今の編集者の読解力のレベルに疑問を抱いていて、長文の原文を短文の羅列にしたがることに対して憤っていた。誰のためかというと、頭の貧弱な読者の為らしく、ここから翻訳とは何か、ということと、最近の流し読みばかりしている読者に対しての怒りや、それに相乗りした手抜き翻訳家に対しての怒りも書いてあった。

氏の文体修行も書かれていて、久生十蘭狂いから日夏耿之介狂いへの転身など、私にも身に覚えがある。私の場合は、谷崎や川端が大好きな時期もあったが、今では別の芸術家に心酔している。

とにかく恐ろしい程の蔵書で、海外の本が多い。蒐集家というのは、望外の出会いに感動し、或いは狩猟したいとものを手に入れるまでが一番楽しかったりもする。つまり、ジン・フリークスであり、クロロ・ルシルフルである。

氏の代表作は翻訳作品の他に、『エヴァンゲリオンの夢』なども書いている。

これまた超大著で、編集者から借りたエヴァのビデオを眠気覚ましに見ているとハマってしまい、自身の持つ天使と悪魔、宗教に関する汎ゆる知識を動員して作品を読み解くためのライブラリーを完成させた。
これまた2段組の400頁超えである。
エヴァに関して、正しいかどうかは不明だが、相当に深い考察(或いは妄想)がなされている。

これは旧劇場版の辺りはそこまで触れていない、TVシリーズに重きをおいた作りの本だが、新劇場版はどう思われたのだろうか。

私は新劇場版よりも、旧劇場版、即ち『旧世紀エヴァンゲリオン』の方が好きである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?