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ディザインズとウムヴェルト

五十嵐大介の漫画が好きである。

五十嵐大介はアニミズム的な世界を描く漫画家だが、画家でもある。
好きな作品はたくさんあって、私が一番好きなのはやはり代表作の『海獣の子供』か、『魔女』だろう。そして、『ディザインズ』。

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『ディザインズ』は、装丁がウルトラに美しい。漫画の単行本で一番美しいとすら、私には思える。
『ディザインズ』は策謀や陰謀のことである。

五十嵐大介の作品は、説明が不十分である。それは、意図的に説明を排除し、断片的に情報を与えることで、読者をよりその世界へと引き込む乃至は興味を抱かせるためだろうか。
一事が万事、説明をされないと理解できない人もいるが、僅かな情報を少しずつ提示していく手法は、エンタメの必須であろう。
今作も様々な謎が散りばめられていて、それは完結までに回収されないものものあるが、世界の醸成に一役買っている。人生もそんなもので、あの人のしていた行動は、結局私には死ぬまでわからない。

いきなり世界観を説明してしまうのは駄目なのである(どうでもいいが、私が一番キライな小説は、一行目で主人公のフルネームを書く作品である。例えば、突然の雨に、山田愛子はついてないなぁと舌打ちをした、的な感じのやつである。私は、その時点でそれは芥箱に捨てる。そのような糞みたいな出だしを書く作者の作品は、最後までまともではないと推察できるからである。)

五十嵐大介の絵は空気を纏っていて、絵から湿気を感じる。あれはすごいなぁと思う。湿り気があるし、熱帯の感じがある。奄美大島とか沖縄の熱とか、或いは北海道とか乾燥した寒さ、そのような空気を絵が纏っている。

『ディザインズ』は全5巻の漫画で、アフタヌーンで連載されていた。今作は、合成生物学のような話で、天才科学者の作り出した人間と動物の特性を持つ(それは、豚の母から産まれる)ヒューマノイズアニマルたちが、政府に利用されたり、利権争いに巻き込まれたり、そういう話である。

この前身が『ウムヴェルト』で、これも同様のモティーフが使われている。

五十嵐大介の世界には、八百万の神、それも人間が考えるような神ではない、そのような自然のチカラが満ちていて、人間はそれに抵触して、然し、神の片鱗のみに触れ、その神秘性を改めて感じ入る、というような作品が多い。
人間は、神にはなれない。然し、神に近づこうとするのは人間の性であり、ユヴァル・ノア・ハラリも著作で、人間は疫病を克服し(これは外れたが)、飢餓を克服し、戦争を克服したため、今度は神聖の獲得を目指すと書いていた。
人は、太古のエジプトでは威光を識らしめるために凄まじい墓を作るし(どうでもいいが、ピラミッドを作る奴隷の仕事は結構労働条件が良かったそうな)、サイエンスが発展すると、今度は生物の仕組みを弄くりだして、新しいものを作ろうとする。その発展途上で医療は進化してその恩恵を賜るわけだが、然し、一線を超えるとどうなるのか。
一線を超えても、極論そこに感情が入らなければ、起こることは起こるのであるが、然し、人間は感情を捨てようがない。それは、ヒューマノイズアニマルもまた人間としてしか生きられない切なさでもある。

今作は、ラストの博物館での闘いが圧巻の美しさで描かれる。
カエルの女の子である主人公は、スプリンクラーの水が舞う博物館で、その力を発揮する。
ここの場面は映画的で、五十嵐大介の漫画はいつも動的であり、同時に絵画的であり、矛盾を孕んでいる。ああ、だから、映画が近いのかもしれない。アートフィルムのような漫画である。



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