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自作小説

151
短編から長編まで、自作の小説です。
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記事一覧

神①

社屋の屋上に鴉が集っていた。芥の日である。周囲には黄色いゴミ袋が無造作に噛み千切られ、中…

雪雪
1年前
12

セイレーンの顕れ

前編  海鳴りが聞こえていた。それは巨獣かなにかの歌、或いは貝殻の鳴き声を思わせた。計は…

雪雪
3年前
7

美的心中

1-5 清二が何故そのように頑なに子供を持とうとしなかったのか、屋敷の主人は以下のように推…

雪雪
3年前

美的心中

1-4  年表に拠れば、大正八年の八月に、華村家の家人と幾人かの奉公人は大阪淀屋橋筋にある…

雪雪
3年前
1

美的心中

1-3  絵の勉強が終われば清二は気の優しい男へと変じ、普段の生活の中では観音の我が儘に付…

雪雪
3年前

美的心中

1-2  時折、湯船の中の水が揺れる音に水滴の垂れる響きが重なり、それらの音の連鎖がますま…

雪雪
3年前

美的心中

1-1  煌びやかな灯りに照らされたその頬は、私の手に触れていた時よりも微かに仄赤い。こちらを見透かしているかのような瞳に射貫かれても、少しも動悸が起きなかった。 カネボウ、ジバンシイ、イヴ・サンローラン、ポーラ。 幾つものブランド名を刻んだ看板の海から浮かび上がるかのように女は近づいてきた。視線を外にやると、白い物が空からひらひらと零れている。 この場所からも硝子越しに細雪が見えた。女の手が私のコートの袖口を掴み、色とりどりの宝石が集う店先へと歩を進ませる。道中、ハンドベ

聖少女

1-3  彷徨しているうちに、宗一は、宝ヶ池まで行こうと思い立った。あの灯籠の上の少女に、…

雪雪
3年前
2

聖少女

1-2  町に出ると、閑散としていた。ちょうど二時を過ぎた頃で、オフィス街に、人影はまばら…

雪雪
3年前

聖少女

1-1  春の匂いに目が覚めた。隣で眠っていたのは、聖少女だった。 時計を見ると、夜中の二時…

雪雪
3年前

朱の棗

1-6   桜が散っても、まだ寒い日が続き、百子は体をこわした。その間、二週間あまり百子は…

雪雪
3年前

朱の棗

1-5  大学の冬休みで和歌子が一人で留守をしていると、チャイムが鳴った。 玄関までには聞こ…

雪雪
3年前

朱の棗

1-4  神護寺の紅葉を見に行こうと、そう言ったのは小谷野だった。夏の夜の遊びがまだ尾を引…

雪雪
3年前

朱の棗

1-3  谷崎が和尚と話をしている間、百子は一人枯山水の庭を見ていた。海に見立てたこの庭は、石が小さな細波と荒波とを見事に表していた。初めてこの庭を見たときに感じた感動は、今もここを訪れる度に百子の心によみがえってくる。本家が大徳寺の檀家だったから、今までにもこの庭に入ったことはあったが、歳を重ねるにつれて、よりこの美しさを愛でる気持ちが強くなるのは、日本人としての本能かなにかのように思えた。  陽が暮れかけて、空が橙色の皮膜を張った。光線が庭に差して、沙羅双樹の白がきらめ