察してもらわず、察さない【文章コミュニケーションの心がけ】
リモートワーク・テレワークが推進され、不要な対面での会議も減らされている昨今。
「なんか、コミュニケーションがうまくいかない。」
「なんで! 伝わらねぇんだ!」
「こいつは何を言ってるんだ!?」
文章コミュニケーションが増えたことで多発する認識の齟齬。
これを機に、文章による伝え方を見直してみてはいかがでしょうか。
このページでは、ライティング的な観点も踏まえ、文章コミュニケーションにおける心がけをお伝えします。
会話では「言語以外の情報」も使っている
「これ、早めによろしくな。」
あなたが見ているPC画面の、作成中のエクセル資料を指さし、上司が一言。怒っている様子も、焦っている様子もない。今日中に提出すればいいだろう。
対面であれば、十分通じます。
ですが、同じ文面がチャットで飛んで来たら?
どれのこと? なにを? いつまでに? よろしくって、どうすればいいの? 何もわかりません。
人は外界から得る情報の7割を視覚に頼っている、というお話もあります。そして残り3割とされる聴覚・嗅覚・触覚・味覚にも、重要な情報はたくさん含まれています。
目線の動きや相手の雰囲気、アイコンタクト、声の抑揚や話す速さ。
会話は、ただの文章コミュニケーションでもなければ、「五感のうち、聴覚だけを使ったコミュニケーション」でもありません。
しっかり視覚も使っているし、場合によってはそれ以外もフル活用しています。そして、たとえ聴覚だけだったとしても、文章よりもはるかに多くの情報をもたらしてくれます。
文章コミュニケーションとは、五感のほぼすべてを奪われた相手に、文字列だけを伝えているのだ。
そんな認識が必要です。
文章で「察してもらうこと」は不可能
文章だけで「察してもらうこと」は、不可能。これが、ほぼ結論です。
「察してもらえば、伝わる」ではありません。
「察してもらわないと、伝わらない」のです。
こんな「察してコミュニケーション」は下策中の下策。
指示や依頼は、明確に。
誰もが働き始めた頃に教えてもらうはずなのですが、忘れてしまう人もいるようです。
思った以上に、人は業務や関係性を属人化してしまいます。
コミュニケーションすらも、「あいつとオレの仲なら、これで伝わる」「この業内容務だったら、こう言っておけばいい」と、砕けていきます。働いてきた時間や期間が長くなってくると、特に。
職位が上がっていくと、周囲のビジネスレベルも上がり、付き合いも長くなるためか、「察してもらえる」ようになります。
ですが「察してコミュニケーション」を常時行うと、情報の行き違いが生まれ、いつか大きな破綻が起こります。
俺は、こういうつもりで言ったんだ。これでわかるだろう。
いいえ、そんなことはありません。残っている文面が、記録が、すべてです。
「察して」が無条件で許されるのは、生まれて間もない赤子や子供。
前提として、「察して」は、慣れが生む甘えだと思っておきましょう。
5W1Hで、伝えたい内容を明確に言語化
不適切な「察してコミュニケーション」をしてしまう人は、自分のなかで伝えたい情報を整理できておらず、そもそも言語化ができていない、というケースがあります。
そんなときは、5W1Hを使って明確化しましょう。
Who(誰が)
When(いつ)
Where(どこで)
What(何を)
Why(なぜ)
How(どうやって/どのように)
この6種を、まず自分のなかで明確に言語化しておきます。不明点や「やってみないとわからない」ことも、「わからない」と、言語化する必要があります。
そのうえで
Who(誰が=担当者が誰か)
When(いつ=いつからいつまでの間に。いつ終わっているべきか)
What(何を=すべき内容。どうなっていれば完了か)
この3種は必須で伝えましょう。
How(どうやって/どのように)は、仕事を任せたり、自分で考えて対応してほしかったりする場合は伝えなくてもいいです。その代わり、Howを伝えなかったのなら、やり方に口は出さず、どんな結果であれ責任はとりましょう。
Why(なぜ)は、伝えたほうが良い場合が多いです。機械のように無心で作業をしたい人もいますが、自分がやっていることが何になるかわかる仕事のほうが、モチベーションが上がる人もいます。
あるいは私の場合ですが、部下を育成するうえでは必要不可欠だと考えているため、Whyを伝えることが多いです。原因と結果へのアプローチの仕方を、「手順」ではなく「思考」で覚えてほしいからです。
場合によっては、決められたHow(どうやって/どのように)ではなく、もっと画期的な方法を考えてくれるかもしれません。
Where(どこで)は必要ない場合もありますが、必要かどうかは一度考えておきましょう。
Whereについて何も考えないと、「会議室でどんなに待っていてもメンバーが来ない、会議ができない、と思ったら、みんな自席付近でのフラットなミーティングだと思っていた。なんなら、自分抜きで始まっていた。」なんてことが起こります。
相手が誤解する余地を減らす
A氏「そういえば、17時までにお願いしていた資料まとめ、終わりそう? もう16時だけど。」
B氏「やろうと思っていました。」
さて、B氏は、もうその仕事を終わらせたのでしょうか?
これからやろうと思っているのでしょうか?
かつてやろうと思っていたけど、今はもうやろうとは思っていないのでしょうか?
やろうと思っていたし、やったほうがいいとも思っているけど、面倒だからやらないのでしょうか?
そもそも、17時までに終わるのでしょうか???
このやりとりだけでコミュニケーションが終わっていたら、B氏の動向は17時まで謎のままです。
いくらでも「誤解する余地」があるので、17時に無事資料が提出されるまで、A氏はあらぬ心配に心を砕くことでしょう。
もちろん、このような言い方をしても良い場面はあります。
ですが、伝わってこないコミュニケーションは、それが返答であれ、問いかけであれ、相手に大きなストレスを与えてしまう可能性が高いということは覚えておきましょう。
情報が足りないコミュニケーションにおいて、相手の言いたいことを察するためには、膨大な可能性を考慮し、それを一つ一つ状況に合わせて潰していき、答えを一つに絞る……そんな、小説のなかの名探偵のような考察をせねばなりません。
「あ、終わりますよ。」って言ってくれればいいだけなのに。
曖昧な返答に対して「え、やろうと思ってたって、やってないってこと? 終わるの?」みたいな、さらに問い詰めるような聞き方をするのも、それはそれでストレスだし……。
A氏「そういえば、17時までにお願いしていた資料まとめ、終わりそう? もう16時だけど。」
B氏「これからやります。30分くらいでできるので、16時中に提出できます。」
ここまで丁寧に返答せずとも「時間内に終わります。」だけでも、必要な情報を伝えられるので大丈夫かもしれません。
あるいは、依頼された時点で目途がわかったなら伝えておくか、なんとなく提出がギリギリになりそうだなー、せっつかれそうだなー、Aさんの性格なら時間前に一回クギを刺してくるよなー、と思った15時くらいの時点で伝えておくのも良いでしょう。
(なおこれは、コミュニケーションの内容を察してあげているわけではないので「察してコミュニケーション」とは、ちょっと違います。)
相手に誤解されないような、ほかに解釈の余地が無い文章で伝える。
当然のことですが、「こちらの文章が原因の誤解」を減らせば、コミュニケーションの齟齬も少なくなります。
「まで」っていつのこと?
「17時までに提出して」と言われたら、16時59分59秒が終わり、17時00分00秒になる前に提出するものだと思いますよね。
ですが、「8月3日までに決めます」というと、なぜか、「8月3日も期日に含まれる」と思ってしまう人、いませんか?
私は、期日を示すうえで「〇〇まで」という表現は、誤解の元となるため避けたほうがいいと思っています。
(感じ方には個人差があります。)
そのため、
「提出日時:8/2の16時中」とか、
「8/2の業務時間が終了する時点で、Aさんの手元に届いているようにします。」とか、
「8/3の業務開始時に、Aさんが確認できるようにしておきます。」とか、
別の、誤解する余地がない表現で言い換えています。
受けた情報のうち、5W1Hで少しでも不明な点があったら、まずは確認してみましょう。
確認したうえで、より明確な言葉に変換してお互いに再認識し、文面を残しておくのも手です。
「察しない」というより「書いていないことを妄想しない」
例えば、何かのお礼にお土産を持って挨拶に行ったとします。
A氏「こちらが……」(スッと菓子折りを出す)
B氏「あ、これはこれは……」(菓子折りを受け取る)
このように対面での会話は、とかく、重要な言葉を濁してしまいがちです。
対面においては、全身で感じるニュアンスをもとに、相当「察して」います。
A氏「この前はありがとう! お礼の品物です!」
B氏「えぇー、いいのに! でも、もらいますね!」
と、いうようなストレートなやりとりは稀。
奥ゆかしく相手を察しつつ、自分の態度で言外に察してもらうこともできるかもしれません。「察しあう」ことが美徳になる場面もあるでしょうが、「察しあい」を文章コミュニケーションに持ち込むと、何も伝わらずお互いに苦労します。
A氏が持ってきた「こちら」とは、何なんでしょうか? それを見たB氏は、なんだと解釈したのでしょうか?
もしここで仮にB氏が「お礼の品物、ありがとうございます。」と伝えたとしても、まだ情報としては不足しています。「受け取るという意思」が示されていないからです。
「お礼の品物、ありがとうございます。頂戴いたします。」
このように、受け取る意思を付け足しても文章的な意味合いやニュアンスは変わりません。そのうえで「ちゃんと、もらいますよ。」という明確な意思表示ができます。
だからこそ、B氏が「お礼の品物、ありがとうございます。」と、言っただけの時点で、A氏が「あっ、お礼の品物を受け取ってくれるんだな。」と、確信し、断定してはいけません。(そんな雰囲気あるな、って思っちゃうのはしょうがないけど。)
相手が書いていないことを、先走って、深読みして、勝手に解釈してしまうのはただの妄想です。
察しすぎると、相手が伝えたい情報を誤解してしまう恐れが生じます。
まずは、自分の発信で、相手に負担をかける「察してコミュニケーション」をしない。
そして次に、相手側も「察してコミュニケーション」をしていないはず、という想定をしましょう。
こうすることで、「こちらの文章が原因の誤解」と、「こちらの読み解き方が原因の誤解」を減らせます。
まとめ
・「察してコミュニケーション」をやめよう。
・大事な結論は、ニュアンスではなく、文面で伝えよう。
・相手が誤解する余地がない文章を渡そう。
・書いてある情報以外の内容を妄想しないようにしよう。
・不明点は5W1Hで言語化し、お互いに共通認識をもとう。
あとはこれを、自分だけでなく相手に、同じチーム全員に、部署に……と、広げていくと、認識の齟齬によるミスを大きく減らせるでしょう。
言った言わない、こんなつもりじゃなかった、お互いの「思っていた」が違っていた。そんな「コントみたいなすれ違い」、現実では迷惑なだけです。
以前とまったく同じ、対面での会話を自由にできる状況に、今すぐ戻る……とは言い切れない現在。
今後のためにも、ニュアンスに頼って「察しあうビジネスコミュニケーション」から抜け出す機会にしてみてください。
それでは、みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを。
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