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【大学教員公募】選考を通過しない人の特徴

 最近、研究者間の対面での交流がようやく復活しつつあり、私と同世代(20代、30代前半)の若手と語り合う機会が増えてきました。結婚や子育てといった研究外の話からアカデミックな話まで、色々なことを話しますが、一番盛り上がるネタはやはり大学教員公募に関する話でしょうか。採用から1~3年ほどしか経っていない、あるいは公募戦線真っ最中の人がほとんどである若手ならではの話題だと思います。
 話していれば、悲しいかな、選考を通過しポストを掴んだ人と、なかなか選考に通過しない人の差が見えてきます。この記事では、選考に通過しない人にどのような特徴があるのか、感じたことを率直に書きます(口が悪くなる部分もあると思います)。割とどの記事でも見かける、あるある情報も多いと思います。現在アプライ中の方、D1、D2の方は、やはりか…!と思いながら参考にしてください。下記の要素を1つでも減らすことが、公募戦線を勝ち抜くことにつながります

1.書類選考を通過しない人の特徴

1.応募書類の体裁が悪い

 大学教員公募の話に限ったことではありませんが、大前提として誤字脱字がある、字が汚い(=丁寧に書こうとする努力がみられない)ものはNGです。審査員の立場からすれば、それだけで落としたくなります。これを言ってはどうしようもないですが、落とす理由・採用する理由は後からいくらでもつけることができます。ならば、まずは応募書類の見た目だけでも好印象を残す(最低限、悪い印象を与えない)ことが重要です。
 1,2文字のために改行しているもの、鍵括弧を多用するもの、ところどころ漢字だったりひらがなだったりするもの、気になる部分は審査員によって異なります。応募書類は、あらゆる読み手を想定して難癖付けられないものを作成すべきです。
 後輩の申請書をいくつかチェックしたことがありますが、意外と誤字脱字はあります。日本語のてにをはレベルで修正した方がよい箇所も、探せば見つかります。他の人に見てもらい、気になるところを指摘してもらいましょう。自分では気づかないところは少なくありません。

2.研究業績が少ない

 書類選考の段階では、申請者の研究能力は業績から判断する他ありません。判断材料である業績が少なければ当然不利です。なお、ここでいう業績とは学術論文・著書等文章化されたものであって、学会や研究会での報告はほぼ含まれません。「ほぼ」というのは、レベルの高い学会や国際学会などであれば、プラスに働く可能性もあるということです。一方、これはもしかしたら私の分野だけかもしれませんが、やたら学会報告の件数が多いわりに論文があまりない、というのは注意した方がよいです。この人は報告はできるけど論文が書けない、と言っているようなものだからです。報告した研究成果は、文章にまとめて公表していく癖をつけましょう。100%の出来のものを1つ作り上げるより、80%の出来のものを2つ公表した方が、公募戦線では間違いなく有利です。
 本数は、別の記事でも述べましたが、社会科学系であれば、博士後期課程に進学して以降の年数分(D3で3本以上)が、応募することのできる・ただし望みはほぼないライン、年数分×2(D3で6本)が公募戦線で戦い、生き残ることのできる最低ラインだと思います。年に2本論文を公表していく気概がなければなかなか難しいでしょう。

3.教育歴が不足している

 これから大学の教員として学生を指導してゆく立場にある人間が教育経験ゼロでは、大学側はこの上なく不安です。博士後期課程のうちから大学での非常勤経験をしっかり積んでおいたほうがよいでしょう。私の周囲で若い段階で専任教員になれた人間は、みな学生時代から非常勤で経験を積んでいました。できれば複数校、1年以上の経験が望ましいです。
 ただ、非常勤といえど教歴を要求される昨今の状況です。一番最初の非常勤については、研究室の先輩や指導教員から声をかけてもらうことがほとんどです。声を掛けられる人間となれるよう、日ごろから周囲と信頼関係を築いておくことが重要です。紹介した側も、先方から「変な人を紹介された」とは思われたくありませんので。
 ただし、実務経験が豊富でありそれを大学側が必要としている場合は、この限りではありません。教育歴がなくとも、実務経験は時として武器になり得ます。

4.研究能力を客観的に示すものがない

 2.で示した研究業績の内容をきちんと評価できる審査員がいるとは限りません。ほとんどの場合いないでしょう。在職中の教員と専門が完全にかぶっている申請者は大抵落選です。
 そこで、申請者の研究業績の質を客観的に保障するものが必要になります。これから年末にかけて出てくるであろうギリギリ人事など、時間的な余裕がない場合はなおさらです。受賞歴や学振特別研究員への採択などは、申請者の研究の質を担保するものです。研究者を志す修士課程、博士課程の方は、特に学会や大学での賞や学振採択をめざすとよいでしょう。
 最近では学振以外のフェローシップも充実してきています。ただし、学振をとっていることのブランド力はまだまだ健在です。学振云々を単にお金の問題としてみるのではなく、今後のキャリアに関わるものとして捉えておく方が得策です。

5.雑務をこなす能力が不透明

 申請者が、学会、研究会、学内の機関でどのような仕事をしてきたのかも重要です。大学教員の仕事には研究・教育だけでなく、雑多な学内業務も含まれているからです。何か雑務が回ってきたときには、学生のうちから積極的に引き受けるとよいでしょう。調書に書けますので、後々得することになります。

6.年齢を重ねすぎてしまった

 言わずもがな、この業界は(専任の職に就けずに)年を重ねれば重ねるほど不利です。将来性、学生のウケ、同僚としての働きやすさ、それまでどこにも採用されなかったという事実etc.、これらを見れば、そりゃ移籍狙いの専任か若手の方がいいよね、ということになります。
 社会人出身の人は話が別ですが、学部・大学院叩き上げの人は、30代半ば以降はかなりきついと言います。少なくとも私や知り合いの周囲を見る限り、30代半ば以降+業績過少の人が就職できた例を、私は知りません。年齢に見合う業績を持っている方で、30代ギリギリで就職された方は知っていますが、その方の就職の際にも強力なコネが働いていました。
 初の専任ということであれば、若さは武器です。

7.自己アピールが過ぎている

 これは聞いた話ですが、TA経験を経歴欄にねじ込んだり、出前授業の類を学会報告の欄にねじ込んだりといったやや強引なアピールもあるようです。これらは、教育研究業績書欄で書くことができるのでお勧めしません。また、論文の概要部分で自身の書いた論文がこの世界の真理の中核であるかの如く書きなぐる例もあるようですが、こちらも印象は悪いです。
 大学教員公募の書類選考は、審査員の印象ベースで進んでいきます。シンプルかつ謙虚な内容を心がけましょう。過度な自己アピールは逆効果です。

2.面接を通過しない人の特徴

 「面接に呼ばれだしたら採用は近い」といいますが、それは採用された人の言い分です。実際には、面接に何度も呼ばれながらも辛酸をなめる方は大勢います。やはり、下記に列挙する方たちは面接を中々通過しない傾向にあるようです。

1.コミュニケーション能力が欠けている

 これが全てといってもよい程に重要な部分です。大学教員はゴールではなくスタートです。仕事をする中で、同僚の先生方や学生たちと、コミュニケーションを取り続けていく必要があります。その際にどうしても避けたいのが、どうにも会話が続かない、話していて面白くない、目線が合わない、等のコミュニケーションエラーです。書類選考を通過した時点で、その方は研究・教歴ともに及第点であるということです。少なくとも、これらを理由に不採用となることはありません。面接は、むしろ上記のコミュニケーションエラーを起こしうる人を除くために行っています。人との会話が苦手な方は、面接においてはかなり不利な状況なのです。
 研究者は、若手を含めて、なかなか人と話す機会に恵まれません。社会の一般常識や感覚は、確かに身につきにくいでしょう。そうであるならばなおのこと、若いうちからコミュニケーションの術を学んでおくべきです。若手の方、研究のみに邁進するのもよいですが、バイトなどを通していろんな人と接するのは意外と大事ですよ。最近、若いうちに専任教員になっている方の多くが、学生時代に人と関わるなんらかのバイト(圧倒的に塾・予備校が多いです)を経験しているように思えます。これも私の狭い人間関係の話なので必ずしも一般化はできませんが。

2.表情が暗い

 表情もとても重要な要素です。人の第一印象は、立ち姿・服装・表情で1秒以内に決まるといいます。印象が良ければ、採用する理由を探すための面接に、印象が悪ければ、落とす理由を探すための面接になるのです。
 緊張すると表情が暗くなってしまうのは仕方ありませんが、上手に対処する方法を身に着けておくべきです。審査員も、当人が緊張していることは重々承知です。ただそのうえで、少しでも明るい人柄を印象付ける表情を作る練習を鏡の前でしておくとよいでしょう。目線も大事です。人と話すときは目を見て、コミュニケーションの基本です。

3.具体的な話をすることができない

 時々、話の内容がいつも抽象的でイメージがわきにくい方がいます。これもマイナスです。面接では、候補者のこれまでの経験が問われています。自身の経験から、問いに対してどのような回答を導くかということです。これもコミュニケーション能力の話とかぶりますが、やはり研究以外の人生経験が重要であるように思います。思うように成績が伸びない・サボりがち・外で問題を起こした学生とどのように接するか、あるいは学部の広報戦略をどのように練っていくかといった問いに対しては、研究の引き出しのみでは対処できません。大学教員をめざすのであれば、なおのこと外の世界で様々な経験をしておくことが重要です。

4.模擬授業が下手

 模擬授業が課される面接はとても多いです。最低限、持ち時間を守り無難な模擬授業をすることが重要です。ただし、「無難な模擬授業」というのはプラスにもマイナスにも転じることがあります。特徴のない授業だと思われてしまっては大損です。このため、事前に科目の位置づけ(専門か、教養か、教職か、等で展開は異なるはずです)や学生のレベル、授業の進め方を練りこんでおく必要があります。最近はアクティヴ・ラーニングが推進されていますので、その要素をどのように組み込むか、といったことも重要です。
 詳しくは別記事を参照していただきたいのですが、私は積極的にスマホを触らせる授業を心がけています。「授業中にスマホいじるな」は時代遅れだと思っていますので。フロアと匿名で意見が共有できるアプリを使いながら、学生が疑問を気軽にぶつけることのできる授業です。他にも、知り合いの研究者はメタバースを使った授業やGoogle系の様々な学習支援ツールをつかった授業など、現代風な授業を展開しています。もちろん模擬授業でも披露したとのこと。こうした工夫のある授業が「無難な模擬授業」より断然評価されることは明白です。

3.その他

1.コネはあまり関係ない

 あくまで、「あまり」関係ないだけです。コネが強力な場合には無理やり決まるというケースもあります。ただ、複数人で人事委員・審査委員が構成される中で、コネですべてが決まってしまうことは稀です。この場合、コネがある人が十分な研究業績、教育歴をもつ実力者であることがほとんどです。大学教員として採用する理由がその人にない場合には、たとえコネがあったとしても採用されるのは厳しいでしょう。
 コネを作るのは大事です。ただし、それはあくまでも自分の実力を補強するためにすぎません。やたら顔が広い・自分を売り込みまくっている人が必ずしも採用されるわけではありません。

2.締め切りギリギリかどうかも関係ない

 「締め切りに余裕をもって提出しなければならない」という言説をしばしば見ますが、少なくとも私の周囲はみなギリギリ族でした。私が採用された2校については、いずれも締め切りギリギリで書類を提出しました。
 大学にもよると思いますが、個人的には締め切り前に出す・出さないのはあまり関係ないように思います。締め切りギリギリまで提出書類の推敲を重ねるのが私のスタイルですので、同様の方はご安心ください。

3.「面接の猛者」は本当にそのうち決まるのか?

 友人研究者の知り合いに、10回以上面接を受けていることをやたらに誇っている方がいるそうです。「自分はもう、10以上の大学から面接に呼ばれている、書類は問題ない、だからそのうち決まる」とよく言っているそうです。
 その方の話を聞けば聞くほど、誇っている方が人格的に問題だらけであろうことが分かりました。私も友人も、「あー、だから面接をそんなに受けているのね」と妙に納得しました。私の個人的な意見ですが、面接の猛者というのは、誇らしいことではないと思います。研究業績・教育歴は及第点のはずなのに、コミュニケーションや性格等を理由に不合格の烙印を押され続けているからです。
 不本意ながら面接を何度も経験して苦い思いをしている方は、まずはこの点を省みるのがよかろうと思います。表情や模擬授業など、努力で改善できる部分もあります。謙虚さも重要です。尊大な人は、人事では好かれません。

 以上、友人研究者らとの話の中で思ったことを率直に書き並べました。主観もかなり混じっており必ずしも一般化できるものではありません。ただ、これらの要素をクリアしていくことで、公募戦線での戦いは少ないながら有利になるでしょう。他の記事も合わせてご参考にしていただけますと幸いです。
 長い拙文を読んでいただきありがとうございました。

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