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非婚化と世間体の関係について考える

財務総合政策研究所で「人口動態と経済・社会の変化に関する研究会」というものを開催しているようです。座長の山田昌弘氏が2020年10月20日に開催された第1回会合でプレゼンを行ったようでその資料が同研究所のウェブサイトに掲載されています。山田氏は光文社新書から「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか」という本を出されています。私は同書を読んだことはないのですがおそらく山田氏のプレゼンは同書の内容を下敷きにしているのでしょう。以前「少子化について考える」という記事を書いたときに非婚化の原因についても言及しているのですが我ながら不十分な分析だなあと思っていたので山田氏のプレゼン資料をもとに再度ここに焦点を絞って考えてみたいと思いました。

なお出生率が人口置換水準を下回っていくのは経済成長に伴う産業構造の変化と教育水準の向上により家族計画が普及するためであり古今東西世界共通の現象です。その上で現在の先進国における出生率の違いは、①人口に占める移民の割合(移民が少ないと出生率も下がる)、②価値観の変化等による非婚率の上昇、③非婚化の穴埋めとしての婚外子の許容度、④子育ての社会化の程度(母親だけに押し付けないこと、これが低いと晩婚化、非婚化が進む)、⑤児童手当のような財政措置によって決まると思われます。拙稿「少子化について考える」では財政措置以前にどういった社会環境を目指すべきかについて主に女性の大学進学率の上昇とこれに対する国内要因である②、④の影響を考えており、①とか③の話は移民政策や宗教上の問題が大きいので日本について考えてもあまり意味はないかと思って省いていました。しかし山田氏の議論の枠組みでは日本で③の婚外子が少ない理由も説明できそうです。

山田氏の理論の解説の前に基本的なファクトを確認しておきます。非婚化の傾向については「50歳時の未婚割合」というデータをみるのが通例です。国勢調査から分析するので5年ごとの数値になります。2000年代から未婚割合が急増しており特に男性の非婚化が著しいことが分かります。【図表の出典は国立社会保障・人口問題研究所のウェブサイト】

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非婚化の話でよく取沙汰される見合い結婚と恋愛結婚の比率については国立社会保障・人口問題研究所が通例5年に1度実施(本来は2020年が調査年なのですがコロナの影響で延期になりました。)する出生動向基本調査の中の夫婦調査というもので明らかになっています。1970年頃に見合い結婚と恋愛結婚の逆転が起き2000年までにほぼ現在の割合まで恋愛結婚の割合が急上昇していることが分かります。【2015年調査報告から引用】

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山田氏の理論では日本における非婚化の要因は以下の4つのようです。
①子供の自立度が低い(いわゆるパラサイトシングル)
②仕事に対する女性の自己実現意識が低い
③リスク回避思考が強い
④世間体を気にする

①子供の自立度についていうと欧米では親は成人するまで子の面倒をみるが成人したら子の人生は子ども自身が責任を持つとの考えが強く、親と成人した子が同居することがあまりないといいます。一人暮らしと結婚生活を比較するとダブルインカムであれば結婚した方が生活は楽になるので恋愛から同棲、結婚という流れが自然に生じます。他方、日本では結婚するまで親元で同居する人が結構な割合でいます。結婚しなければ親が老人になっても親の年金を当てにして同居していたりする例も散見されます。その場合、結婚したら新居を構えて自立するということになれば結婚すると経済的に苦しくなるのです。さらに②の女性の自己実現意識が低いと結婚を機に退職して旦那さんに養ってもらおうなんて話になれば男性側に相当の年収が求められます。

②の女性の自己実現意識の低さにより女性は男性以上に①のパラサイト化の傾向が強く結婚まで親元にいることが多いといいます。そこに③のリスク回避思考や④の世間体が加わると、結婚により今より生活が苦しくなるようなことはしたくないとか親の社会階層より低い階層の男性と結婚して生活水準を下げるのは世間体が悪いから嫌だといった考え方になります。そうすると熱く燃えるようなラブロマンスに身をゆだねて一気に結婚へ、などということもなくなり男性にまず年収を求め、恋愛に対しては淡泊、打算、慎重になどどいった傾向が生まれます。親も同じような考えを持っており「幸せな結婚」ができるまで成人した子の面倒を見続けようとしますのでいつまでたっても「出会い」が無いから結婚できないという話になります。

③のリスク回避意識は女性に関して前述のとおりですが男性側としても女性がそうくるならむしろ競争率の高い恋愛で傷つきたくないし、特に社会階層が低いことを自認する男性は高望みをして傷つきたくないから恋愛から逃げてオタク趣味に走るといった話になります。

④の世間体については子自身よりもむしろ親が気にしており子供に惨めな思いをさせたくないという意識が強くなり、社会階層を下方移動してしまう結婚に反対したりします。結果として子供がなかなか結婚しなくてもいつまででも子供の面倒を見続けようとしてしまい子はますます甘え自立しなくなります。子の方でも結婚した後自分が親になった時に子供に惨めな思い、世間体の悪い思いはさせたくないことから子供にお金をかけられる世帯収入がない状態での結婚はしたくないという意識になります。

ここまでの理論は各要素が相互に影響しあって恋愛離れと非婚化が進むという立て付けになっていてストーリーとしては良くできているように見えます。ファクトの裏付けがどの程度あるのかは気になりますがそれは本に書いてあるのかもしれず本を読んでない人間がその点を安易に批判しない方が無難でしょう。

拙稿「少子化について考える」では9ポイント以上ある男女の非婚率の差について実質的な適齢期人口には男女間のアンバランスがあることを主な理由としていたのですが自分でもそれだけで9ポイントは無理があるかもとは思っていました。その点、山田氏の理論では日本において男女の非婚率に大きな差があることは上手く説明できているのでその点は脱帽します。

ここで他国とどう違うのかファクトを確認をしておきましょう。日本の人口1000人当たり婚姻率は先進国の中で特に低いとはいえないことが分かります。【図表の出典は国立社会保障・人口問題研究所のウェブサイト】

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各国の50歳時の未婚割合のデータは取れないようですが主要国の年齢階層別の婚姻率のデータは国立社会保障・人口問題研究所のウェブサイトに掲載されており50~54歳階層男性の未婚割合は比較可能な最新データでスウェーデン32.3、ノルウェー26.0、フランス23.6、オランダ21.2、日本20.9、アメリカ、イギリス共に16.0といった具合なので絶対値としてみると日本が特に高いわけでもないです。また50~54歳階層未婚割合の男女差は英米では4ポイント程度男性が高く、ヨーロッパ諸国では5~6ポイント程度男性が高くなっているようです。したがって男女間の未婚割合の差というのは各国それぞれ事情があり程度問題なんだろうと思いますし、実質適齢期人口の男女間アンバランスも差が生じる要因の半分くらいは占めているのではないかと思います。

日本の非婚化の原因が分かったとして少子化の要因が分かったことにはなりません。未婚割合の男女差の大きさは日本社会の特質によるところが大きいとしても結果として現れる未婚割合の絶対値は欧州諸国と大差ないことが分かります。では日本はどこで欧州諸国と差がついているのでしょうか。それが婚外子です。

拙稿「少子化について考える」では婚外子の話はあえてしていませんでした。私としては婚外子の少なさは日本社会の伝統として中絶が容易なことに関係がある気がしていたため解決すべき問題という認識がなかったためです。これには宗教的要因が大きく欧米ではカトリックは堕胎禁止ですしプロテスタントでも日本人よりは悩むでしょうから。

しかし山田氏の理論ではそもそも婚外子は世間体が悪いとか経済的に苦労するから避けられるだけではなく、日本的非婚化では恋愛自体が減ってしまい結婚以前に同棲カップル自体も減っていることを指摘しています。欧米では結婚前に同棲するのが常で価値観の違いで結婚に至らなければ婚外子も許容といった感じだというのです。したがって日本で婚外子が少ないのは非婚化が進む理由と同根であってリスク回避思考や世間体からくる若者の恋愛離れの問題が根っこにあるということです。

日本的非婚化が進む以前はどうして結婚できていたのかという点について山田氏は①経済的な心配がなかった、②出会いが容易だった、③恋愛へのあこがれがあったの3つを上げています。昔は男性が皆正社員で年とともに給料が上がり家庭を支えるのに問題を感じなかったし、自営業は保護されていたから経済的心配がなかったとか、見合いや恋愛でも職場結婚が多かったとか、親が見合いだから恋愛にあこがれがあったとかとしています。しかし現在は経済の停滞のため今それなりの位置にいても階層転落に陥るリスクを感じているためリスク回避思考や世間体が悪い方向に向かってしまい非婚化が進んだとしているようです。

私はこの部分に関してはかなり違和感を持ちました。これは都会生まれ都会育ちのアッパーミドルの頭に中だけにある空想の「昭和」を前提にしていると思われるからです。私は過疎地の出身なので農家とか小規模自営業がそんなに恵まれているとも思わないし正社員で給料が年功で上がるなんて公務員と都会の中堅企業以上に勤める人だけの世界であって、日本人の半数は昭和の時代でもその中には入っていなかったはずです。昔の婚姻率が高かったのは前近代的な地縁・血縁関係や会社自体が共同体化していた日本的環境にあって昭和の頃は社会の婚姻圧力が今とは比較にならないほど強かったからだと思います。いまでも田舎のマイルドヤンキーはすぐにデキ婚したりしているし実際私にもそんな親戚が何人もいます。彼らの生活世界の周辺ではデキちゃったのに結婚しない方が世間体が悪いのです。

現在の日本で婚姻率の男女差が大きく出る理由としては山田氏の仮説はもっともらしい点もあると思いますがこれを打開するのはリスク回避思考や世間体に寄り添うことではなく、そうした思考法を打破することが必要だと思います。昔、婚姻率が高かった理由は若年男性が今より経済的に恵まれていたからではないと思います。

また現在、リスク回避思考や世間体が逆回転したのは若年男性が虐げられているからではなく、バブル崩壊後の激変の中でも自分の今属する階層がまだ中流以上だという(ひょっとすると過大な)認識を持っている親子が多かったり、人間関係の構成要素の激変と社会的婚姻圧力の激減により個人の世間体の向かう方向が結婚する方からしない方へシフトしたことによると思います。ウザいけど温かい前近代的地縁・血縁集団の人間関係が中心の時代と都会でマウントを取り合うだけのママ友が主要な人間関係になる時代とでは世間体の向かう方向が変わってしまうのではないでしょうか。

したがって若年男性の所得や将来展望を明るくしてやれば婚姻率が上がるという仮説には私はリアリティーを感じていません。個人の自由の尊重を基礎に地道に女性が輝ける社会を目指すことが少子化対策の王道だと思います。

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