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「 未定 」#44 The Forest of Illusion

イズコは『幻惑の森』からなんとか脱出してきた。
簡単に行くとは最初から思っていなかったもののパーティーを組んだ戦士二人はまったくと言っていいほど頼りにならなかった。この森の狼たちは熟練のハンターだった。とにかく彼らは身のこなしが軽やかで早い。単純な攻撃は簡単に避けられてしまうのだ。彼らの攻撃の連携も見事だった。一匹が攻撃してきたと思うとそれに反応した僅かなすきに乗じて、もう一匹が攻撃を仕掛けてくるのだ。彼らは戦い方を熟知している。そしてそれが彼らの縄張りを守ることであり、獲物を確保することでもあり、生きていくために必要なことでもあった。彼らに話が通じるのであれば、僕はこの森の金の苺を持っていきたいだけなのだと交渉もしたいのではあるが残念ながら話は通じない。まあ当然だろう。今度来るときは動物と話ができる冒険者を連れていきたいね。この世界にそんな者がいるとするならば。しかしこの世界、言葉が通じる人間でも襲ってくる連中がいるので結局無駄なことかもしれないが...

 逃げ出した戦士たちも当然の行動をしただけかもしれない。彼らは太刀打ちできる相手ではないと素早く理解したのだろう。賢い判断だったのだろう。彼らは無事に逃げおおせただろうか。きっと不惑の香水の効果もあり迷うことはないだろうから脱出できたと思う。こっちも数箇所噛みつかれて負傷した。命を落とさなかっただけ幸運だったのかもしれない。とにかく『金の苺』を得る計画は失敗した。
時間はあまりないが命があればまたチャレンジできる。再度挑戦しよう。

イズコは持ってきた薬草を傷口にすりつける。
不意にキーンと耳鳴りがしてきた、そして激しい頭痛がする。
目に見える景色が歪んで見える。歪んだ景色に赤と青の光線が重なり合う。これは呪いか?それとも狼の毒なのか?幻覚?森から抜け出したはずだが、現実の世界なのか、、、

「フホホホホホホホォォォォォ」
無数の木々の幹に顔が浮き出ていて不気味な笑い声をあげだした。

そして森の奥底から声が響き渡る
「待っていたぞ、この瞬間を。お前は私の烙印を押したお気に入りの家畜だ。痛めつけてお前から極上の苦痛を搾り取ってやる。お前が苦しめば私は若返る。いいか、お前を光溢れる大地で自由にするわけにはいかないのだ。」

これは、『銀の鬼』本体の声か。いや、実態はここにはないだろう。何らかの呪術により遠隔的に声を飛ばしてきているのか・・・

ボゴォン、ボゴォン
音を立てて地面から木の根が飛び出してくる。
とっさにイズコは呪文を詠唱しようとするが、キーンという耳鳴りが強く響き口から呪文を発する事ができなかった。
途端に木の根がイズコの足に絡みつき、電気が体を駆け巡り激痛を感じた。
死人のような薄ら寒くなる木々たちの表情を目にしながら、次第に彼は意識が深い深い闇へと吸い込まれていくのを感じていた。

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