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伝えていきたい道具・画材の物語 Vol.1 クレヨン・絵の具編④              

クレヨン・絵の具編②で、クレヨンの製造工程を見学した笠先生ともちがわさん。今回の③では絵の具の製造工程を見学します!
クレヨン・絵の具編①、②、③のお話はこちら▼

製造現場で働くスタッフさんにインタビュー

笠先生:クレヨンや絵の具は12色や16色といったセットでも売られていますが、セットに入れる色はどのような基準で決めているのですか?
 
ぺんてる株式会社(以下、ぺんてる):赤・青・黄・白・黒といった基本の色に加えて、色相環のバランスを考慮しながら決めています。絵の具は色を混ぜることができるので、基本の色同士を混ぜても再現しにくい色を優先することが多いです。クレヨンは混色ができないので、水色や灰色といった中間色もセットの中に入れるようにしています。

笠先生:絵の具の色味は、昔と今で変わっている部分はあるのでしょうか?

ぺんてる:チューブに充填する前のロールですりつぶす段階で、顔料の粉末を以前より細かくできるようになったので、発色そのものが昔よりは鮮やかで明るくなっています。絵の具の色のもととなる顔料は水や溶剤には溶けないものなので、とても細かい粒になるようにすりつぶして均一に交ざった状態にすることが大切なんです。また、最近は暖色系の色味が好まれる傾向があるため、昔の「あか」はやや青みがかっていたのですが、最近は黄色みのある「あか」にしていて、時代とともに色味は少しずつ変化しています。

笠先生: ロールの微調整でずっと同じ発色を維持しているというのはすばらしいことですね。
 
ぺんてる:絵の具作りの現場では、意図した通りの色味が実現できているかを機械で測ることはできません。そのため、ロールで顔料をすりつぶす工程でも必ず人間の目で発色をチェックするようにしています。人間の判断を大切にしているのはクレヨンの製造でも同様で、成型機の冷却水の温度ひとつをとってみても夏と冬では適温が違いますから、その微妙な調整は意外と難しいんですよ。だからこそ、日によって条件が違う中で、原材料の配合や成形条件などがバチッと決まったときは手応えを感じますね。ただ、こうしたノウハウはマニュアルだけでは伝えることができず、ベテランスタッフの隣について見よう見まねで学ばなければならない部分も多いので、熟練の技をいかにして次世代に継承するかが今後の課題です。

笠先生:油分の多い材料を上手に混ぜ合わせるのは、伝統工芸の職人技のようなところがあるのでしょうね。何もかもがオートメーションではなくて、材料を混ぜたり、顔料をロールですりつぶしたりといった重要な工程では人の手が加わっているということは、ぜひ子どもたちに伝えたいと思います。絵の具やクレヨンの色味にあたたかさを感じるのは、それを作る工程で、人の技や判断、想いといったものが込められているからなんでしょうね。

ぺんてる:上手な絵を描くための「描画具」ではなく、表現の力を信じて「表現具」を提供し続ける工場でありたいというのが、私たちスタッフに共通する想いです。私たちが作るクレヨンや絵の具を使うお子さんたちが、描きたいものを自由に描いて、描くことの楽しさを存分に味わってくれたら、これ以上の喜びはありません。

笠先生:クレヨンや絵の具の安全面に関しては、どのような配慮をされているのですか?

ぺんてる:化学物質に関してはJIS規格のみならず、輸出先となる欧州の規制にも準拠した社内基準を設け、人体に害がないことを第一に考えています。子どもが誤って絵の具やクレヨンを食べてしまっても胃の中で重金属が溶け出すことがないように、ISO8124-3という玩具の国際的な安全基準に沿って、新商品の企画段階や設計・原材料の変更時には重金属分析装置で確認
を行っています。

笠先生:それだけの配慮をしてくださっているからこそ、私たちは安心して、子どもたちと一緒に絵を描くことができるのですね。全国の図工・美術の教員を代表して、皆さんに感謝を伝えたい気持ちでいっぱいです。茨城工場では周囲の環境や生物への配慮も徹底されているそうですね。

ぺんてる:茨城工場ではISO14001を取得し、環境マネジメント体制を整備してきました。1日に400トンほど発生する工場排水は、浄化設備で3日間かけて4段階での浄化を行い、煮沸すれば飲める水質にしてから排出しています。工場内のビオトープではホタルを育て、工場排水の最終放流槽ではアユを飼育しているんですよ。成長したアユは夏の納涼祭で塩焼きにして、地域の方々に召し上がっていただくこともあります。

笠先生:地域の方々との交流にも熱心に取り組まれているんですね。

ぺんてる:年に数回、工場の従業員全員が周辺エリアの清掃活動に参加しています。近隣の小中学生や地域の方々を対象とした工場見学や、中高生向けのインターンシップも実施し、私たちのものづくりに対する姿勢や環境保全への取り組みをお伝えしています。

笠先生:クレヨンや絵の具を使う人々に対しても、地域の人々に対しても、深い想いがあるからこそ長年にわたって愛されるものを作り続けることができるのですね。

笠先生:ぺんてる茨城工場のみなさま、どうもありがとうございました!
相手を思い、小さな工夫を重ねていく。これは図工や美術の中で言われる「創造性」の日本らしいあり方の一端でもあるのでしょう。日本のものづくりはすばらしいし、やっぱり日本はいい国だなあ~!

もちがわさん:工場で出会った皆さんからは「おもてなしの心」を感じて、私の心もあたたかくなりました。これからは今まで以上に一つひとつの画材を大切にして、作ってくださった方々の気持ちにも思いを馳せながら絵を描いていきたいです。

笠先生ともちがわさんの、道具・画材がきた道を辿るお話は始まったばかり。
次回はどんな道具・画材の旅してきた道を辿るのでしょうか。お楽しみに!

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