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都市計画制度の概要(1)

はじめに

前回まで、戦前戦後の東京の都市計画にスポットをあててざっくりと都市計画とは何ぞや、ということを見てきました。
今回は、1968年の都市計画法制定から続く、現在の日本の都市計画制度をざっくりと見てみたいと思います。具体的な街の名前もなく、制度のお話なので退屈かと思います。ので、実例を交えながら。長い熟語がたくさん出てきますし、長くて退屈なので、流し読みしたほうが理解が早いかと思います。

都市計画法の構成

法律というのは、まずはじめに法の趣旨や目的を宣言し、次に専門的な言葉がある場合、その意味を定義します。そしてその次に法の骨子となる総論的なものを示し、追って個別的な決まりについて列記するような形になっています。最後に、その運用方法などを示します。

都市計画法ですと、最初に理念を示し、次に都市計画の一番大きな制度であるマスタープランについて説明し、次にマスタープランに基づいて個別的な規制を行うための方法(以下の図で言うところの「土地利用規制」、「都市計画事業」)を示し、最後にこの法を運用する方法や主体について示していくことになります。

理念と基準

都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるものとする。(法2条)

うん、わかんないですね。要は、「素敵な暮らしのために、ちゃんと土地利用できるようにしましょう。ご利用は計画的に」ということです(ほんとに?)。この理念のもと、色々な決まり事を定めていきます。

マスタープラン

マスタープランとは、その都市の基本的なあり方を定めるものです。「ここにオフィスを集めたいね」とか、「あそこは森があるから公園がいいよね」とか、「ここに道路を作ってみよう」とか。具体的な地図と目標とする標語がセットになっていることが多いです。フワッとしてるんですけどね。
もともとはアメリカの制度に倣って作られたものなのですが、当地では「コンプリヘンシブプラン」とか呼ばれているみたいです。
マスタープランには二種類あります。

都市計画区域マスタープラン

まず、都道府県が策定する「都市計画区域マスタープラン(区域マス、あるいは都道府県マス)」
2000年の法改正により策定が義務化されました。どこを開発するのかを定める都市計画区域(後述)を指定する場合、「整備、開発または保全の方針」(整開保)を決めておく必要があります。大体20年後の街の姿を展望して、10年程度で優先的に整備するものについては事業を完了させ、後に順次計画を見直していきます。2000年代前半に概ね策定されているので、そろそろこの計画が一巡することになります。
実際に見てみましょう。

こちらは長野県が策定した「伊那都市計画区域マスタープラン」(一部抜粋・ページ順序差替え)です。
なぜ伊那を選んだかというと......好きだからです(笑)。
高遠の桜が有名な街ですね。最近は近隣の市でリニア新幹線の駅の誘致がされることで沸いています。

あなきよらなり。

高遠は地図東部にあります。
(余談ですが、高遠町は2006年の市町村合併により伊那市となりましたが、市町村合併特例法に基づき地域自治区が設定されていたところでもありました。高遠ブランドは全国区でしたし、住民の地元愛も強かったのでしょうね)

全体を見渡してみると、南北に伸びる国道153号線と東西に伸びる国道361号線が飯田線伊那駅付近で直交し、ここが街の中心部となっていることがわかります。
中心部の橙色で塗られた市街地を囲むように、ちょっとわかりにくいですが細い破線で用途地域(次回解説)が指定されています。これは既存の伊那市としての計画をわかり易く示したものになります。
市街地の周りに農村部が広がり、その周りを里山が囲みます。この色分けは法的な定義や拘束性を持つものではないのですが、都道府県のマスタープランは市町村のそれの上位計画に当たるので、実質的には農村らしい場所にする必要があるわけです。もちろん市街地の中にも農地は点在しますし、農村部にも家はありますが、グラデーションはあります。農村部の田畑はより広大になったりと。里山というのは、人里と山の境界で傾斜地に林や森があったりといった感じです。

事業計画について見ると、国道153号線バイパスを南伸させる計画みたいです。市街地を迂回しているので、飯田市への通過交通をこちらに流す意図があるようです。飯田市はリニア新幹線の新駅設置計画もありますので、これに伴う開発かもしれません。

さて、次に「市町村都市計画マスタープラン(市町村マス)」についても見てみましょう。

市町村都市計画マスタープラン

市町村都市計画マスタープランは、1992年の法改正で市町村に策定が義務付けられました。上位計画に当たる都道府県マスができたのが2000年ですから、こちらのほうが先で、我が国で初めて導入されたマスタープラン制度になります。載せているものは概要版になりますが、より具体的な目標や方針、用途地域の詳細についても描かれていますね。

区域区分制度

一度戻って都道府県マスの地図をご覧いただきたいのですが、街全体を太い朱色のなかぐろ破線が囲んでいるのがわかるかと思います。
これは、都道府県が指定する「都市計画区域」というものです。

都市計画区域とは、どのように開発するか、もしくは開発を抑制するか、法の網がかかる地域を指定するものです。具体的には市街化区域市街化調整区域、それ以外の都市計画区域に分けて指定していきます(いわゆる線引き)。それ以外の都市計画区域は、通称「非線引き区域」と呼ばれています。

今回、伊那市を例に挙げたのは、長野県が伊那都市計画区域に線引きをしていないという理由もあります。

線引きという制度は、1968年の法改正で導入されました。当時は人口増加と経済成長著しい時期で、都市の膨張が社会問題化していました。
この問題に対処するため、膨張する都市の近郊に、スポット的に、「計画的に市街化すべき区域」と「市街化を抑制するべき区域」を指定したのです。このような経緯から、当初は、首都圏、近畿圏、中部圏の都市近郊や既成市街地、整備すべき区域や人口10万人以上の市などから都市計画区域が指定されていきました。計画的に指定したというよりは、どちらかというと場当たり的な対処だったというほうが正しいかもしれません。
事実、スポット的な対処をしたことで、非線引き区域や都市計画区域外での開発により、都市がスプロール化したのは皆さんの実感としてもあるかと思います。

長野県が伊那地域に線引きをしていない理由には様々なものがあるかと思いますが(実際、線引きを実施されている市町村は600程度と、絶対的に多いわけではない)、こと都市計画の手法としては、線引きをされていないほうが、より市町村として主体的に住民を巻き込んで計画を決めていかなければならないという意味で、難易度は高いかと思います。

今日的には、人口減少と都市の衰退が喫緊の課題となっているので、一度市街化区域として指定した場所を、市街化調整区域へと指定替えする「逆線引き」と呼ばれる事象も発生しているので、制度の在り方を再検討してもよい時期なのかもしれませんね。

次のネタ

今回はマスタープランと区域区分という制度についてみてきました。次回は区域区分制度に基づく「開発許可」という制度と、市町村マスタープランで定める「用途地域」という制度についてみてみたいと思います。ご希望があればそれも加えていきたいと思います。個人的には、さっさと日本の制度の説明は終えて、諸外国の制度、もっと面白い都市工学的なお話をしたいのですが……。

参考文献

初回に引き続き以下を参考にしています。スライド資料は制度や統計をもとに自作となります。
 安本典夫(2017)『都市法概説(第三版)』法律文化社.
 香山壽夫(2006)『都市デザイン論』日本放送出版.
 川上光彦(2017)『都市計画(第三版)』森北出版.

なお、伊那市の都市計画については以下。
https://www.pref.nagano.lg.jp/toshikei/infra/toshi/keikaku/masterplan.html
http://www.inacity.jp/shisei/kakushuplanshiryo/toshikeikaku/masterplan.html

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