見出し画像

A4一枚の憧憬描写【憧憬のピース】2歳第三話『セイギとアクとボク』

「食費とかどうするんだよ。

 ツバサひとりだってギリギリだったじゃないか」

 呼んでいる。誰かが、ボクを。

「もう、生まれるの」

 泣いている。ママの、ココロ。

「生まれるって」

「おとこのこ、みたい」

 裂ける。

「それって、いつになりそうなんだ」

 裂ける。分かれる。ボクと、ママ。ママとパパ。

「七夕の日に、産みたい。だから、また階段上り下りして調節しなきゃ」

 大人の時間にボクは目を覚ました。

 布団の上は歩きづらい。

 扉は開いていて、一筋の光が射している。

 こっちに近づいてきた。

 瞳が捩じ込まれる。

 凍りつくほど暑苦しい空気が胸の内側を掻き毟ってきた。

「子どもひとりにするって約束じゃなかったのか」

 あれは、パパじゃない。

「授かったもんは仕方ないでしょ。

 それに、あんたがもっと働けばいい話じゃない」

 部屋の明かりが、ママばかりに影を落としている。

「それは置いといて、約束を破るのは、そりゃ問題だろーがよ」

「ママ、パパをいじめないで」

 あれ、なんで、ここにいるのだろう。

 リビングがまぶしい。

 二匹の邪鬼がボクを睨んだのは一瞬の出来事で、理解が追いつかないうちに、いつものママとパパが微笑んでくれた。

* * *

 ボクの住む家の一角に、ちっちゃなボクが現れた。

「ねぇ、さわってもいい」

 台所で野菜を切っているママの後ろ姿にとりあえず話しかけてから、さっそく安眠中のボクに触れてみる。

 指の先がプニプニしていた。

 自分の指先は固い。

 腕を揉むとモチモチしていて楽しかった。

「もう、おにいちゃんだね。面倒みてるの」

 視線を離すと、プラスチックの柵の向こうで、中腰のママと、トマトの酸味が匂い立つスパゲッティが現れた。

 ママの瞳から、ちっちゃなボクが覗いている。

 とぼけた顔が揺れている。

「その子は、ツバサくんのオトウト。

 ハランくん。春の嵐って書いて春嵐。

 飛躍と春嵐。二人はキョウダイ。

 どんなときも二人でいっしょに生きるの」

 今、ボクの瞳には、きっとパパがいるのだろう。

スクリーンショット (62)

※ぜひ、何度も読んで、隠されたメッセージを解読してみてください。

 憧憬のピースには、必ず、メタファー(暗喩)があります。


🔆新プロジェクト始動中!

🔆【憧憬のピース】とは・・・?🔆

A4一枚に収まった超短編小説を

 自身の過去(憧憬)を基にして、創作するプロジェクトのこと。

 情景描写で憧憬を描く『憧憬描写』で、

 いつか、過去の人生がすべて小説になる(ピースが埋まる)ことを

 夢見て・・・


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?