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【書評】芥川賞受賞作 『火花』書き出しに隠された5つのメタファー


又吉直樹さんの『火花』を読んでから

純文学の世界に興味を持ちました。

大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。

こちらが『火花』の書き出し。

一見すると、祭囃子の情景描写ですが、

この一文には、5つもメタファー(※)が

隠されていることに気がつきました。

(※メタファーとは、暗示という意味です)

なるべくネタバレは避けますが、これから『火花』を読む方は一度、読み終わってから、この記事に目を通すことを推奨します。


『火花』書き出しに隠された5つのメタファー


1 花火の情景描写

花火

大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。

この一文は、祭囃子の描写と、同時に

花火の情景描写になっています。

メタファーを開示すると、こうなるでしょうか。

大地を震わす《リズムよく花火の開く音》に、甲高く鋭い《花火の打ち上がる音》が重なり響いていた。

物語の序盤に出てくる花火のシーンを書き出しで暗示していたのです。

流石は、芥川賞受賞作です。表現が卓越しています。


2 心臓の情景描写

それだけではありません。

大地を震わす和太鼓の律動

この部分は、祭囃子と花火の情景描写と、同時に

心臓の情景描写になっています。

足元》を震わす《心拍音》の律動(※)

(※律動とは、一定のリズムという意味です)

同じ文章で、複数の描写ができる。小説は、本当に奥が深いです。


3 漫才の情景描写

火花オリジナル装丁見開き

(※イメージ写真は、ボクが手作りした装丁です)

太宰治の小説を読破しているだけあって

又吉直樹さん。書き出しには手を抜きません。

さらに、情景描写を重ねています。

ちなみに情景描写とは、心情や感情を風景に落とし込む文章の技法です。

祭囃子、花火、心臓の描写と同時に

漫才の情景描写になっています。

大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。

簡易な舞台》を震わす《漫才のボケとツッコミのリズム》に、甲高く鋭い《セキセイインコの鳴き真似》が重なり(中央のスタンドマイクによって声が)響いていた。

冒頭に描かれている漫才のシーン

書き出しの時点で、暗示しているのです。


4 悲鳴の情景描写

さらに、書き出しの後半の部分は、悲鳴の情景描写になっています。

悲鳴? どこのシーン?

実は、この文章。ラストシーンの先を密かに暗示しているのです。

甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。

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