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所得税は働く人の給与からの税金と言えない時代を迎えつつある


さてnote界の大物白饅頭氏の上の記事に関して少し引っかかったので色々書いてみたいと思います。ただこの記事に関しては大半が有料箇所でそこからの文章の引用は使いませんが、引用しているリンク記事に関しては活用させていただきます。


プロローグ

16年に源泉徴収で所得税を納めた給与所得者は4112万人。納税額は9兆418億円だ。このうち49.9%にあたる4兆5167億円分を、給与所得者全体の4.2%に過ぎない「1000万円超」の人たちが負担している。

https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/fv20180309/より

さて少し古い記事ですがこんな記事がありました。一見すると、この国は一生懸命働いている高所得者層に厳しく、例えば年収3~400万円の人が6.4万円しか払わなくてよい税金を年収2000~2500万円の人は456万円と2桁も多く払っている、こんな理不尽な話があるのか…と思われた方もいると思います。ただもし給与明細が手元にある方がいらっしゃいましたら良く御覧になってください、額面給与から引かれているのは所得税だけで済んでますか?

負担率を計算する

所得税率試算

さてまず引用の記事だと金額は分かるのですが、税率が分からないので計算してみました。所得税だけだと特に年収1500万円を超えると理不尽に税率が上がっているように見えます。
ちなみに年収3~400万円階層と年収2000~2500万円階層の負担率を比べると
年収3~400万円:1.8% 年収2000~2500万円:20.3%と10倍以上の開きがあります。

https://www.cr.mufg.jp/mycard/knowledge/23031/index.html より

続いて所得税以外の負担を考えていきます。所得税と同時にとられる税金と言うと住民税があります。住民税の計算方法は上のリンク先のものを使います。

住民税試算

試算結果は上の様になります。年収100万円未満の層を除くと所得税に比べ税率がフラットに感じます。
ちなみに年収3~400万円階層と年収2000~2500万円階層の税率を比べると
年収3~400万円:6.9% 年収2000~2500万円:9.2%と差は1.3倍程度となります。
また所得税と合わせた負担率を見ると
年収3~400万円:8.7% 年収2000~2500万円:29.4%と差は3.4倍程度となります。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r6/ippan/r60214kanagawa.pdf https://www.mhlw.go.jp/content/001211914.pdf より

さて続いては年金・健康保険・介護保険・雇用保険の社会保険を見ていきましょう。ここでは給与明細を見て下さいと言った手前、計算上は労働者負担分だけを計上します。ただ実際はほぼ同様の額雇用者が払っているというのは忘れてはならないと思います。各項目の保険料率は以下になります。
厚生年金:9.15%
健康保険料(協会けんぽ):5.01%
介護保険料(協会けんぽ):0.8%
雇用保険料:0.6%

社会保険料試算

さて社会保険料はフラットに15.56%でちなみに年収3~400万円階層と年収2000~2500万円階層の保険料率を比べても差は出ません。
また所得税・住民税と合わせた負担率を見ると
年収3~400万円:24.3% 年収2000~2500万円:45.0%と差は2倍以内となります。確かに所得税だけを見ると大きな差に思えますが、そこだけを取り上げて高所得者層の負担だけ重いというのは違うのではないかと思う人も少なくない範囲に収めている印象を受けます

所得税は働く人の給与からの税金と言えない時代を迎えつつある

16年に源泉徴収で所得税を納めた給与所得者は4112万人。納税額は9兆418億円だ。このうち49.9%にあたる4兆5167億円分を、給与所得者全体の4.2%に過ぎない「1000万円超」の人たちが負担している。

https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/fv20180309/ より

財務省が5日発表した2016年度の一般会計決算概要によると、国の税収は前年度比1.5%減の55兆4686億円と、09年度以来7年ぶりに前年実績を下回った。円高進行による法人税収の減少が響いた。法人税は4.6%減の10兆3289億円だった。消費税は1.1%減の17兆2282億円、所得税は1.1%減の17兆6111億円と、基幹3税がそろって前年実績を下回った。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL05HEH_V00C17A7000000/ より

さて皆様最初の記事を読んだ際に「納税額は9兆418億円だ」と書いてあるのに違和感を抱かれた方はいらっしゃるでしょうか?実際該当年度の決算を報じる日経新聞の記事をみると所得税収は17兆6千億円と倍近い額となって居ます。最初の記事ではあくまで「源泉徴収で所得税を納めた給与所得者」と言う事であくまで勤め人が給与所得から引かれた額の合計の話しかしていない訳です。

https://www.bb.mof.go.jp/server/2016/dlpdf/DL201677001.pdf より

とは言え所得税の残りはどうなっているのか「平成28 年度歳入決算明細書」と言う資料を見ると申告所得税と言う項目があり、3兆1251億円が収納済みとして計上されています。とは言え源泉所得税は14兆4859億円とあり、給与所得者の納税額9兆418億円との差額5兆4441億円が気にかかるところです。

https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/1zen25kai6-4.pdf より

さて残り5兆4441億円の内訳に関しては上記の内閣府の資料によると所得税収のうち主たる分離課税分の数値が2016年度5.3兆円となっていて、分離課税、すなわち株の配当や預貯金の利子からの所得不動産や株の売却益等資産からの所得への課税分がその多くを占めると考えられます。

https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/1zen25kai6-4.pdf より

さて上記資料から2003年以降の所得税収と主な分離課税の額の推移を見ていくとリーマンショックや東日本大震災のあった2008~2012年は低迷していたものの基本的に右肩上がりで2014年以降は所得税収の30%以上、「平成30 年度歳入決算明細書」を見ると源泉所得税収は16兆5649億円ですので源泉所得税の40%以上が分離課税、言い換えれば高齢者が主たる保有者たる資産からの税が占めている事となります。言い換えれば所謂資産課税が間接的な形で実現し、もはや所得税は働く人の給与からの税金と言えない時代を迎えつつあるのではないかと思います。

まとめ~手取りを増やす政治家を選ぶとしたら~

さて現在基礎控除と給与所得控除、所謂年収の壁を巡る議論が盛んです。この議論が国民民主党が掘り起こすまで他の政党などがあまり言ってこなかったのは控除の拡大による所得税の減税=少数の高給与所得者の為の減税策だからと言えます。もしあなたが年収1000万円未満の普通の勤め人であれば負担軽減策について以下の様に考えると良いかもしれません。
社会保険料の料率軽減(所得によらず率が一定)>住民税の軽減(控除がある分高所得者がやや優位)>所得税の軽減(累進課税により高所得者優位)
そして今この問題が揉めているのは多くの政治家がこの構造を把握しているから一筋縄でいかないと考えている事があると思います。

また名古屋市長選挙で「市民(住民)税減税」を掲げる候補が「所得税減税」を掲げる候補に勝ったというのも意識しておくと面白いかもしれません。


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