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赤いゼラニウムが語る今

                              島式 凪

 
「前世って信じる? 」

「・・・・・・は? 」
 マイが変な事を言うから、リビングの時間が止まってしまった。ぴったり2秒。止まっていたのは僕だったか。とにかく、あまりにも唐突なその質問は僕には全く理解が出来なかった。

「だーかーらっ! 前世! 」

「いや、え、何で? 何で突然? 」

 突然。そうだ、本当に突然聞かれたんだ。因みに、その前は課題の話をしていた。数学の課題は難しくて、式の中に唐突に出てくる矢印が気持ち悪いという話で盛り上がった。最も僕らは点Pが動き出した辺りから着いていけなくなった筋金入りの数学嫌いなのだから、この話もどうせ長続きしないと思っていたが。でも、だからと言って、何故前世。

「いや、何か・・・・・・お告げ? 」

「つまり思いつきって訳か」

 前世。前世、ねぇ。今が楽しければ良いマイが過去の事を気にするなんて珍しい。明日はきっと槍が降るだろう。そういや、僕の部屋雨漏りしてなかったか?

「・・・・・・ねぇ、今失礼な事考えてたでしょ! 」

「いーや、後先考えずに行動するマイちゃんが過去を振り返るなんてなぁと感動していただけですよ」

「はぁ!? 今馬鹿にしたでしょ! 楽しいことは今やらなきゃ損なんだよ!? というか、ゲンもそう思ってるでしょ」

「まぁね」

 とはいえ、数学の課題は後回しでもいいなぁ、なんて。あっやべ、完全に忘れてた。課題はもう明日やればいいか。それよりもマイと話す方が楽しい。

「そういうマイは前世信じてんの? 」

「当たり前じゃん。多分、私前世西洋のお姫様」

「はぁ??? 姫? マイが?? 冗談でしょ」

「う~ん、何だか馬鹿にされてる気分……。こんな美少女に対して失礼ですわよ」
「取って付けたような姫要素だな。百歩譲って美少女は認めるとしても、何で日本じゃないんだよ」
「だって私、血で汚れたドレスを着て、泣いていたのよ」
「は、」
「・・・・・・何てね! 冗談だよ。前世は信じてるけど・・・・・・、あ! 多分猫ちゃん! ほらみてこの子! ふわふわ可愛いところが私に似てる」
「・・・・・・。違うだろ。マイはこっち」
「えっどれどれ・・・・・・。ヒグマじゃん!!! ゲン私の事何だと思ってんの!!? もう知らない! ゲンの部屋の天井にもう一個穴空けちゃうから!! 」
「あれお前のせいかよ!! おい待て! ・・・・・・はぁ、もう」

 追いかけることはしない。どうせ、本気で怒っているわけじゃないし。・・・・・・まぁ、天井に穴は空けられるだろうけど、穴が二つに増えたところで特に問題はない。それよりさ、結構動揺してるんだ。

「覚えてるのかよ・・・・・・」

 前世、ねぇ。あぁ、質問に答えてなかったな。うん、信じているよ。いや、信じる信じないの問題じゃない。あるんだ、ちゃんと。

「でもお前は姫なんかじゃなかったぞ」
「何か言ったー? 」
「いーや、何でもない。ところで僕の部屋の天井どうなった? 」
「おめでとうございますー! 立派な三つ星ちゃんですよー! 」
「おい! 」

 マイの前世は貴族の娘。僕はただの付き人だった。望まぬ婚礼から彼女を逃がそうとして、僕は旦那様に殺された。彼女のドレスを汚したのは僕の血だ。愛していた女性に看取られたのだから、僕は幸せだった。それに、こうやってまた生まれ変わって出会えたんだ。

 結局さ、今が幸せなら前世なんてどうでもいいんだよ。


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