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連載小説 【近未来社畜奇譚】 A I に負けないようにガチで働いたら生産ラインがバグって勤務先が壊れました(第19話/全22話)

【前回までのおおまかな流れ】

社会科見学の朝→集合場所にはともだちのケイイチだけ→現場についてみるとそこはお化け工場!?→AIに負けなかった工場らしい→採用担当の猿元さんの面接を受ける→ボクらは本採用となる→メインエリアではなんとベルトコンベアで運ばれて来た製品を壊していた→AIには予測不能のものが出来上がるらしいし、それを買う人もいるらしい→上級破壊作業員の祭山田さんのお手本を拝見→本日ラストの“対象”の登場→それがなんとクラスメイトのゆっこちゃんで緊急事態!→ゆっこちゃん救出&終業&帰宅→数日後、いよいよボクらのデビュー→ボクら壊すべき“対象”はなんと“ロックンロール”だった→ボクらは神破壊を見せる→出来上がったものが評価セクターで最上級のSランクの評価を受ける→そしてボクらの破壊芸術家としての活躍が始まる→ボクらが壊したものは愛好家の人に飛ぶように売れ、ひと財産築いた→しかし毎日破壊を繰り返すうちになんのために壊すのか、そしてなんのために働くのかということを見失い心は暗く沈んで鬱になっていった→そんなやる気の失せたボクらの気持ちを見透かした工場側にボクらはタワマンぼっち室に入れられてしまう→この中でひとりひとり“施術”を行うというのだが……

※この物語はフィクショナブルな社会の実現に貢献します。


第19話 職場復帰はしたけども



施術はずっとなかった。ボクは指示通りにずっとタワマンの無人の各部屋を回った。

一つの部屋に行くと鏡の前にタロット占いのタワーのカードが指示入りであり、そこに記してある次の部屋に行くという感じだった。

工場にとってボクら三人がそのままトリレンマになることを工場側はすごく警戒していた。ボクはとにかく早く三人に戻りたかった。だから素直に全ての指示に従った。

タワマンのなかを巡礼する気持ちで回ったせいか自分の中のバーニングアウトした部分が取り除かれた気がした。

意欲がわいてきた。

作業に戻りたくなった。

気づいたらボクはタワマン内を壊しまくっていた。

そして拍手

拍手??

我にかえると周りを工場スタッフさんが囲んでいた。

よくある求人広告の『アットホームな職場です』の写真みたいなみんなに見えた。

ボクは破壊の手を止めた。肩で息してた。

猿元さんが進み出てきてボクに言った。

「回復おめでとう。もう大丈夫だ。種明かしすると、このタワマンは実は巨大な試験管で、各部屋は、部屋型オルガノイドだったんだ。だから建物内を巡れば巡るほど心の余計なものを消化、分解、吸収してくれるんだ。さあ、行こう職場へ」

「はい」

もしもこころがDDOS攻撃されたらこんな気分だろうか。

こころのサーバーをダウンさせればおそらくは突き進めるんだろう。

ボクは職場へと向かった。

途中、実家と学校が見事に壊れているのをみとめた。

ボクらがいない間に工場が出張サービスとしてやったようだ

万文の山、千尋の谷、オルガノイド……。

その行いに対してボクはお礼を言った。

職場にはケイイチとゆっこちゃんもいた。みんな“無表情ゆたか”だった。

やり残していた仕事を終え、定時で帰った。

ボクらの復帰作品にはプレミアがついた。

翌朝、目覚めは時計仕掛けの何かみたいだった。

家が壊されて更地に寝ていたことを起きてから思い出した。

更地での朝は、朝日をもろに浴びた。皮肉なことにおかげでボクの部屋(スペース)ができた。

枕元にはしおりがあった。昨日の夜も遅くまで“しおり”作業をしていた。

ボクがボクをつなぎとめる為の作業だ。

一応タイトルは『空想社会主義ユートピアニズム見学としておいて、中身には日記的なものをしたためた。

定期的に『タワマン施術』を受けさせられるので、そのせいで、毎回自分の本当の気持ちを失くしてしまうからだ。

手書きなんて久しぶりだ。AIが作った条例で手書きは迷惑行為に該当してしまう。脳に好ましからざる影響を与えるかららしい。おそらくはボクらの記憶力を含む脳力が向上して、それがAIにとって迷惑なだけだろう。

もし万が一、手書きしていることがばれたら、そのときは「自分を壊している」とでも言えばいいだろう。

顔を洗う。歯を磨く。簡易トイレに入る。

朝のもろもろを終えて「行ってきます」を言って学校へ向かった。

いまや瓦礫の山と化した学校に着く。ケイイチとゆっこちゃんは休むことも多くなった。

今日は二人ともいる。ひそかに“しおり”にみせかけた日記を交換する。

ぱっと目を通す。二人ともまだ大丈夫だ。完全に二人が二人じゃなくなっていなくてよかった。

どうせ青空授業なら晴れてる日の方がいい。

瓦礫の中の授業だと不思議なことに学級崩壊は起こらなかった。

そしてもちろん、そのことについて分析しようという気は起こらなかった。

その日の授業の最後に担任の先生がこう言った。

「この壊れた学校の芸術性が高く評価されて、売れました」

シンプルだったし。とくに驚きはなかった。

今後も校歌を歌ってもいいか聞いた。今はまだわからないとのことだった。

ゆっこちゃんは帰り道で言った。青空だった。

「地球に地球の大きさの穴が開いたような気分……」

ケイイチがそれにつづいた。

「学校を壊すまでが社会科見学です」

ボクらは帰宅した。

そういえばボクらが初めて壊したロックロールでできたミニブラックホールはあんまり長く生きられなかったんだそうだ。損失補償として『芸術的に破壊した首都圏』を要求されているけど、ちょっと無理だから、変わりに月を壊したり足したりして月の満ち欠けを人工的に作り出すのではどうだと提案してみようとか猿元さんが言ってて震えた。

ボクらの破壊データを研究して工場は『人工“無”知能』をつくりあげかけていた。

これは人工的な悟りであり人工的な涅槃ねはんで、それはAI側はいちばん恐れていたので、互いに平和友好不可侵条約が結ばれた。

事実上は工場側の勝利だった。

ボクらはもう作業中も大きな叫び声とかはいらなかった。黙々と作業した。体が勝手に動く自分がやだった。

工場全体が浮かれていて、祭山田さんはいつも鼻歌を歌っていた。

ボーナスは年に300回以上支給されていて、ボーナスのない日は昇給があった。

ボクらは定時になると帰った。



                    つづく

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