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連載小説 【近未来社畜奇譚】 A I に負けないようにガチで働いたら生産ラインがバグって勤務先が壊れました(第12話/全24話)

【前回までのあらすじ】

社会科見学の日の朝からこの物語は始まった。小4のボクとケイイチが辿り着いてみるとそこは学区内のお化け工場だった。ベールに包まれていた謎が徐々に明らかになり、どうやらこの工場は製品を壊すためのものらしいとわかる。AIの及ばない領域があることも知った。上級作業員の祭山田さんのお手本を見てボクらは震えた。ちなみに壊されたのはボクらのランドセルだったのだが……。

※この物語の先のもっとフィクションへ。


第12話 いろいろ勉強させてもらう


お手本を見たそのあとで、猿元さんと祭山田さんの2人がボクらに教えてくれたことは、先ほどのAI不可侵の件に関して、いわゆるコンピュータの父と言われているアラン・ケイさんの言葉で『未来を予測するということは、すなわち、それを発明することだ』を引き合いに、それを、まんま、この工場の生産神話にあてはめせしめると、まんま、その言葉自体を破壊してしまうで御座候ござそうろう

しかしながら、ある現象がなぜ起こるのかを物質のレベルで説明するとすると、まずは分子レベル、もっと問われたら原子レベル、もっとなら素粒子レベル……そしてその先は結局のところまだ誰にも説明なんかできない。

だから説明なんかさせんじゃねーよオーラ出てて、けっきょく説明は終わった。

『社会科見学では説明を求むるなかれ』とボクはしおりにメモした。

もしも余白に書ききれなくなったら社会科見学の最終定理として社会学者たちを後年まで悩ませることだろう。

質問タイムがきた。

元気よく手を挙げた。

「じゃあ、いちばん前の子」みたいなありがちな当てかたはとくになくボクが質問権を得た。

「これを買う人がいるんですか?」とボクはきいた。さすがに“あんなのを”とは付けなかった。仮にも一生懸命壊したものだし。

今朝テレビで見た国会の野党の人も元気よく手を挙げていた。いつなんどきでも社会は見学可だ。

小さな反乱は揉み潰され、大きな反乱は顧慮される。

質問を受けた大人2人は、もっともな質問だというふうにうなずいてから、お互いに目だけでやりとりしたあとで猿元さんが答えてくれた。

「彼女の『聖品せいひん』には根強いファンがいてね、いつも大人気なんだよ」

「ふうん」なボクと「へー」なケイイチの声が重なった。

そもそもボクらのランドセルは売られてしまうんだろうか。もしそうなったら夜な夜なランドセルのお化けがばけてでてきて肩が重く感じてしまうかもしれない。

それじゃあ新種のランドセル症候群になってしまう。

せっかく昔から知りたかったお化け工場の謎に迫れたというのに、ヘンな気分だ。マイナスの意味で。

幽霊の  正体見たり  特殊詐欺?

「あーもしかして君達、詐欺とか思ってない?」

猿元さんはメガネを親指と中指の腹でUFOキャッチャーみたいに持ち上げながら言った。

「いいえ」

“いいえ”ってはっきりした3文字で言うのはこういう時くらいのものだ。

猿元さんは、「この混沌の時代のネイティブ世代の君達にはわからないのも無理ないけど」と断ったうえで、さらにハリウッドの格言を持ち出した。

「何が売れるのかなんて本当は誰にもわからない」というものだった。

売れたから売れるんであって

売れるから売れたわけではない

だそうだ。

瓜売りが、というこの場合のパワーワードがもっと入ってくるかと思った。

「その芸術性において他の追随を許さないものばかりなんだよ、わかってくれるね」

「はい」

ちなみにそのとき追加でわかったことは、祭山田さんの着ぐるみはピーマンで、見渡すと他の作業員さんもピーマンかナスが多かった。

それはピーマンもナスも無駄花がない野菜であるかららしい。

全部が実になる。

つまりここではそれを着ているのがプロい人たちのあかしなんだそうだ。

そのタイミングで、ひさしぶりに祭山田さんが口を開いた。全部おろした前髪の隙間から口が見えた。

「でもナスには連作障害がおこるわ。休みすぎなのよあの連中……アタシは休むことなく……」

「まあ、その件はまた今度でね、悪いようにはしないからさあ……」

2人はしばらく軽くめていた。

願わくば、全ての大人たち同士が、誤解を払拭して合意を形成し、建設的なプランを組み立てて欲しいものだ。

このかんを利用して、ボクとケイイチは着ぐるみのままトイレに入って用を足しておいた。

連れションを認識すると、どこに向けても2人のおしっこがバッテンになるという機能が便器についていて、それがまるで平行線の公理を否定した幾何学スキャンダル彷彿ほうふつでテンションMAXの状態でしっこできた。

その日はそのあとも“対象”はいくつも流れてきて大量生産だった。

それは社会科見学的にも見習いとしても充分に盛り上がる量だった。

祭山田さんは華麗な仕事さばきを存分に見せてくれた。

いくつか紹介すると、たとえば空飛ぶタクシーを空を飛びながら壊したり、植物なんかも遺伝子組み換えで動物(自分の体から生える植物を食べる草食動物)に変えてしまうという生態系パラドックス破壊を敢行。しかもそれを国際動物命名規約のルールに則って命名していた。

そう、そう、それから驚いた例では、この建物の天井ドームがパカッと開いて、なにかと思ったら、完成したばかりのサグラダ・ファミリアが空輸されてきて、降りてきたら、即ぶっ壊したのには暴挙じみてて焦った。

サグラダ・ファミリア自体がそれを望んだとか。

彼女的には造りかけの美しい構図を宇宙化して擬人化したにすぎないらしい。

その精妙さに深く心服したっす。

“これでまた建設の仕事が増える”と喜ぶ人たちの団体がはるばるやってきて『仕事』をお金で買っていった。

とにかく舌を噛みそうになるくらいに多多多タスク多タスクなのだ。

ボクらはずっと近くで(時には少し離れて)勉強させてもらいながらほぼほぼ驚嘆メン。

そして遂に本日のラストを飾る“対象”のINを告げるビッビーという音が鳴った……。



                    つづく

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