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KAYOKO TAKAYANAGI|日野まき|天使の降る夜

 クリスマス、特別な季節。暗く寒い冬に光を灯す、アドベントの祈り。
 天使が舞い降りる聖なる夜。

 モーヴ街初登場となる日野まき。
 彼女の作品にはじめてふれた人は、その情報量の多さに驚くことだろう。優しい筆致で描かれた造形の中には、時間と空間が幾重にも多層的に埋め込まれている。二次元で描かれた世界は切り取られることで三次元となり、過去と未来に向かって伸張する。

 それはまるで一冊の本を読み聞かせてもらっているような体験であり、本の内容は観る度に角度を変える。
 余白に落ちる影の言葉に耳を傾けてみよう。静かに語られるその物語は、あなただけのクリスマス・ストーリー。

 雪が舞い踊る寒い夜に、少女はあたたかな記憶を抱いて眠る。一年の間にかたくなに凍った心は、眠りの中で少しずつ溶けてゆく。

 本当はいつも見守ってくれていれていたのに、その存在に気付けなかった。目に見えるものだけにすがるうちに、ためらいがちにそっと差し出された優しさをないがしろにしていた。
 ぎゅっとつぶった瞼の裏に浮かぶのは、つつましい笑顔。
 たなびく赤いリボンに遅ればせの感謝を込めて、遠い誰かへの伝言を天使に頼む。

 声高にかわされる労わりやこれみよがしの励ましだけが恵みではない。かたわらに寄り添うやわらかな命もまた、小さな灯火なのだ。
 天使はいつもそばにいるのだから、いまはただゆっくりと眠りに身を委ねよう。

 夜空の青をまとった天使たちは、目を閉じて安寧を祈る。
 青は少しずつ深みを増し、天を覆う。ひとつ、またひとつ、星が瞬く。冷たい空気と針葉樹の香り。黄昏や月光をも溶かし込んだ色に人々の祈りが混ざり、季節を染め上げる。

 天使は12月の青を衣装にあつらえた。合わせるのは雪のように白い襟とカフス。小さな羽の羽ばたきは冷えた心にあたたかなさざなみを起こし、組まれた手の指先からは暗い夜を照らす星が現れる。
 12月の青は、僅かに緑を含んだ命の色。
 ひときわ明るい星が天頂に昇る時、青はさらに深みを増す。

 小さな紙に滲むような水彩で描かれた作品が語るのは、聖なる夜の物語。それは天使が舞い降りる特別な夜。雪の降る夜の深い青から、星が瞬く夜の透明な青から、物語があふれ出す。
 少しくすんだ色彩と空間ごと切り取られた造形に、日野まきという作家の静謐な祈りが込められている。

 今宵天使の降る夜、夜空に輝く星を見上げながら、全ての命に祝福を。
 Merry Christmas!

日野まき|ペーパードール作家 →HP
アクリル絵具で人物、動物などを描き、切り取って紙の人形を制作。彼女たちの服の中で物語や詩を表現している。2010年より個展、グループ展で作品を発表。

高柳カヨ子|精神科医・元法医学教室助手・少女批評家 note
東京上野で生まれ育ち、東京理科大学理工学部応用生物科学科・信州大学医学部医学科卒業。法医学教室でDNA鑑定を専門とした後、精神科の臨床に進む。Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション/gallery hydrangea 「『少女観音』~12人のアーティストが描く篠たまきの幽玄世界」キュレーション。
あらゆる時代と時間を超えた少女たちに捧げる少女論「少女主義宣言」をnoteにて連載中。霧とリボン運営の会員制社交クラブ《菫色連盟》にてトークサロン「少女の聖域」を主宰、「少女性」をテーマに展覧会《少女の聖域》を定期開催している。



作家名|日野まき
作品名|冬の夜

アクリル絵具・水彩紙
額込サイズ|9cm×12cm×3.5cm
制作年|2022年(新作)

作家名|日野まき
作品名|星が灯る夜に

アクリル絵具・水彩紙
額込みサイズ|9cm×12cm×3.5cm
制作年|2022年(新作)

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