君は天然色〜風街へ連れてって〈male〉|#短篇小説
君を初めて見た時から、好きだった。
珍しく誰かとつるむことなく、独りでサークルに入ってきた君。
君が最初所在無げに、そして次第に話し相手を見付けて、女同士仲良く笑いながら時を過ごしている様子を、僕はずっと遠くから見ていた。
君がキャンパスの木洩れ陽の下で、樹々の緑を頬に映している横顔や、
ハイキングサークルだから何度も山へ登ったけど、険しい段差があるのを不安そうに見上げていた眼差し・・・君の顔は少し汗ばんで、紅潮していたね。
君の一瞬一瞬を心の写真に残したくて、僕はいつも気付かれないように、離れて存在していたんだよ。
―――
新人歓迎会の次の宴会かな?
思い切って、君の隣に座った。
「――深瀬さん、お鍋って好きなの?」
君は突然声を掛けられて驚いていたね。
あとから、
「後藤くん、大人っぽいし背も高くて、何か上級生だと思ってたんだ・・・
一回も話してないし、名前で呼ばれてびっくりしたよ」と言っていた。
・・・そりゃ、そうだよ。最初に皆で自己紹介した時から、君の名前は確り覚えていたんだ。
―――
君に告白したのは、後期になって、車で家に送る前に、寄り道して山の上の展望台に行こうと誘った時だった。
だんだん街の灯りがカラフルに点ってきて、君は手摺りに凭れながら、振り返って「綺麗だね」と微笑んだ。
僕は両手に、自動販売機で買った缶ジュースを持っていた。
君に触れることも出来なくて、(何とかしなくちゃ)と焦った。
そして、君が望んだジュースを渡しながら、交換条件のように言ったんだ。
「深瀬さん。僕と付き合ってくれるかな?」
―――
結果として。
僕たちは付き合うことになった。
君は「彼女」になると、思った以上に親密になった。
毎晩飽きもせず長電話して、深夜遠慮するように君が囁き声で喋るのを聞きながら、眠くて何度も携帯を取り落としそうになった。
―――僕は、そう、幸せだった。
卒業して、離ればなれになるまでは・・・
―――
僕たちは、今までのように夜、電話することさえ難しくなってきた。
君は出張に行ったりして、連絡が来るはずなのにずっと着信音が鳴らなかったことがあった。
そんな時の僕は苛々して君にきつく当たった。
「出張に男と二人きりで行くのか?」なんて、営業補佐だから当然なのに、困らせたことがあったね。
君はそんな僕に耐えていたけど・・・
だんだん疎遠になって。僕の方から、「別れよう」と言ったんだ。
東京という街に慣れず、気持ちをコントロール出来ずに、君にまで嫌な思いをさせる自分がともかく許せなくなった・・・。
―――
それからの毎日は、何もかもモノクロームさ。―――笑ってくれよ。
すべての欲望が消えて、仕事に就くことで、自分を保ってきた。何年もね。
・・・君は、きっともう、知らない誰かと幸せになっているだろう。
僕の贖罪は、まだ終わらないみたいだ・・・。
✥松本隆トリビュート〈2〉
▶君は天然色/川崎鷹也
この短篇小説は、以前投稿した
【松本隆トリビュート〈1〉甘い記憶】の男性側のお話で、つながっております。
famme、male、male et fammeと続けていく予定です。
よろしければご高覧ください。
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🌟Iam a little noter.🌟
🌹参考サイト🌹
▶作詞家・松本隆、名曲「君は天然色」秘話語る 妹の死に直面「目の前の光景白黒に」
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