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二十億光年の記憶冷凍~同窓会のまえ|#短篇小説

この短篇小説は、以下のnoteの続篇となっております。

ご高覧頂けると幸いです。

↓ ↓ ↓



結果、それが功を奏したのか、相手方の要求が収まってきて、3回ほど調停を開いたあと結審し、無事離婚届に判をくところまでに至った。


(―――これで、ようやくまたスタートが切れる・・・)


家庭裁判所を出て仰いだ空は、青く澄み渡っていた。
両親とともに自分を待っている娘の顔を、早く見たいと思った。

「二十億光年の記憶冷凍」





離婚調停が始まるずっと前から、沙良さらは自分を抑えて、鎧でガードするしかない日々を送ってきた。



「自分」の順位はずっとずっと後ろで、その前に優先されるのは「生活」「仕事」「育児」であった。



「仕事」について言えば、沙良はある公共機関の、データ入力の職務に就いていた。カウンター応対もする。


職務に応じた資格が取れれば、給与体系が変わって、将来の生活設計に目途がつく。今は親がかりで暮らしているが、何時までもそんな訳にいかないことは分かっていた。


「なるべく早く、娘に不便をかけないよう自立しなければ・・・」


それが沙良の命題だった。




また、「育児」について。
沙良は、時折涙ぐみながら思い出す。



―――娘を身籠みごもっていて、胎動を初めて覚えたときの何とも言えない喜びを。



―――大きなお腹をかかえて、バスに乗るのも何処へ行くのも娘と一緒だった、あの一体感を。


―――例えようも無い産みの苦しみのあと、自分の子を腕の中にそっと抱き上げ、
たまのようにとうとい美しさ」とはこのことか、としびれるほど感激したことを。


娘・・・詠美えみは、沙良の天使で、すべてだった。


詠美が居るから、今までの辛い日々を乗り越えることが出来た。


絶対に、詠美の人生を暗いものにしたくなかった。だから、離婚に踏み切れたと言えるのだ。





そんなふうに自分に課せられたタスクをこなしてきたから、自分の生活の中に「同窓会」というワードが入ってくるスペースは何処にも無かった。


恐らく今まで何らかの形で目にしたはずだが、まったく記憶に残っていない。


この度本当に久し振りに、同窓会の「出席」の回答を送ったことがきっかけとなって、沙良の生活は急にビビッドに動き始めた。




実家が一軒家から、バリアフリーのためにマンションに移ったこともあり、同窓会名簿の連絡先を登録し直した。携帯も、前のを解約して新しくしたので番号変更したら、すぐ親友の木森ひろこから直接連絡があった。


「―――沙良。元気にしてる・・・?」
気遣きづかわし気な声だった。


「ご無沙汰だね。・・・ひろこも、元気?」沙良はなるべく明るく聞こえるように言った。


「ずっと心配してたよ。何年も、連絡が取れなかったから・・・」


ひろこの声のトーンが変わり、本当に「心配していた」ことが沙良には分かった。


「御免・・・色々有ってね。また、会えたら話すね。・・・実は、離婚したの」


「そうなの!?・・・住所が、前の所と近かったけど。

良い人そうだったのに・・・」


(―――そう。「良い人そう」だから、苦労したんだよ・・・)


言い出すと際限がなくなりそうなので、その話はめて、黙った。


「私は、今回の同窓会は行けないんだ。だから、まず電話だけでも沙良と繋がろうと思ってね」ひろこは言った。


「―――有難う」


花恵かえも心配してたから、今は元気そうだよって、伝えておくね」


ひろこと電話しながら、


(―――友だちって、温かいな)と沙良は思った。自分が優しさに包まれるような感覚になったのは、絶えて無かったことだった。


「そうそう。・・・斎藤くん。

ね、沙良。覚えてるでしょう?」


「うん・・・」


覚えているも何も、と沙良は思った。同窓会を意識し始めてから、沙良はずっと彼を思い出していたのだ。


ひろこは言った。


「斎藤くんもね・・・離婚、したんだって。最近らしいよ」


ひろこの言葉に動揺し、沙良は携帯を握りしめ直した。辛うじて、手から落とさずに済んだ。



▶Que Song

Anchor/三浦大知




【continue】



🌟Iam a little noter.🌟




  🤍




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