Momotaro ロマンス〜昇華〜|#白4企画より
白鉛筆様のnoteを拝読。
↓ ↓ ↓
8月24日を過ぎて、最早企画の参加作品ではなくなってきていますが😌
自分の中で話が膨らんでしまいましたので、続きを創作させて頂きます。
🌿今までのお話🌿
2話あります。
Momotaro ロマンス
〜昇華〜
彼は「悪い上司を懲らしめる」と言ったが、そのとき浮かんだのは総務の杉崎課長だった。
とにかく何故か私を目の敵にしている。帰る間際になって大量の事務作業をするよう指示したり、細かすぎるチェックでやり直しを命じたり。
そんなことがしょっちゅうあった。
彼が配属されて、そういう嫌がらせめいた行動は減ったけれども。・・・多分、逆らわないので、鬱憤晴らしに使われているのだろう。
ある日、慣れてきた彼は、社用で外出する仕事を任されていた。
私はパソコン業務に携わりつつ、ふと課長を見ると、意地悪な視線を送られているのに打つかった。
「―――高砂くん、ちょっと」
嫌な予感がしながら、はい、と返事して席を立ち、メモを手に課長のデスクに向かった。
(こんなときに限って、彼が居ないじゃない・・・)
会社の暗黙ルールで、膝を曲げて座っている課長の目線まで顔の高さを揃えた。指示を伺う態勢だ。
「高砂くん。これ、ちょっと良くないな」
指で示されている書類の箇所を見ると、会社の承認印が枠よりほんの少し微妙にずれていた。
「こういうのはきっちり押さなくちゃ。
今回の全社員の提出分、今日中に全部見直して修正して」
(―――え!?こんな微妙なずれで、200人以上の書類、全部見直すの?
・・・許容範囲じゃない?)
頭の中にはてなマークが飛び交ったが、上司に逆らうことは出来ない。
「はい。―――分かりました、申し訳ありません」
頭を深く下げて、書類の束を受け取った。
席に戻ろうと思ったが、杉崎課長のいつもの嫌味が始まった。
「・・・こういう、二度手間が君は多いんだよ。総務は、正確無比に仕事をしなくちゃいけないんだ。そうだろう?
君、何年ここで仕事をしてるの?」
―――RRRR、RRRR・・
突然課長のデスクの内線が鳴った。
課長は少し面倒くさそうに受話器を上げた。
「―――はい、杉崎です。
・・・ああ、うん。繋いでくれ」
どうも、取引先からの電話らしい。
「代わりました。杉崎です。
いつもお世話になります。
・・・はい、・・・はい、いえ・・・」
課長の顔がみるみる曇っていった。私がデスクの横で立っていると、課長に眉根を寄せたまま、手で追い払われた。
「―――それ、僕がかけた電話です」
会社帰りの道すがら、彼は言った。
「貴方が!?何でかけたの?
課長、とても深刻そうな顔で話してたわよ?」
彼はネクタイの結び目をやや緩めるように動かした。
「あの人は、社員セミナーの講師の謝礼費用を、水増し請求してたんですよ。自分の懐に入れるために・・・
講師のふりして問い質したら、随分焦ってましたね」
「水増し請求・・・」
彼はいつ、そんな事実を見つけたんだろう?
でも、彼なら、何らかのハッキング技術もあるかもしれなかった。
「過去5年分のセミナーで、実際の費用と会社から出した費用、一覧にして社長にメールで送りました。
・・・間もなく、杉崎課長は横領罪で、会社を辞めさせられるでしょう」
私は彼の顔を見上げて、開いた口が塞がらなかった。
「・・・これからは、安心して出社出来ますよ」
彼は私に最上の笑顔を向け、前髪をさらりとかき上げた。
私とふたりで帰るとき、彼はいつも、駅の構内の人混みに紛れて、どこかへ帰るように消えていた。
でもその日は、
「途中の公園へ寄って行きましょう」
と言った。
暮れかかった公園では、ジョギングをする人たちや、犬を散歩する人などが居た。
親子連れは、もう帰宅したのかほとんど居なかった。
偶に通りかかる女子高生が、彼の美青年ぶりを、目立たないようにそっと見つめていた。
「少し・・・涼しくなってきましたね」
彼は言った。
慥かに、吹く風が熱風ではなくなっていた。
「そうね・・・日中はまだ暑いけれど・・・」
「ベンチに、座りましょうか」
彼に指し示され、樹の陰になるベンチに並んで座った。
しばらく、公園の様子を眺めていたが、彼はおもむろに、私の手を取った。
「僕はそろそろ、姿を消します」
驚いて、息が詰まりそうになった。
「え、あの・・・」
彼はまた、きらきらした瞳で私の目を覗き込んだ。
「貴女の役に立って、守りたかった。
貴女は優しい、良い女です。
ひとりで悩まないで。・・・僕は、いつも貴女とともに居ます」
(え・・・そんな・・・)
心臓がどきどきと早鐘を打った。彼は私の身体を、大きな翼で包むようにそっと、そのあとぎゅっと強く抱き締めた。
「モモタロウ・・・」
そのとき―――
夕暮れの赤みを帯びた光がふたりに注いで、
光は白く明るく変化してゆき、
彼の姿が、その光の中に次第に溶けていった。
彼の髪の匂い、彼の肩や指の感触が消えてゆくのを覚え、私は知らず涙を流していた。
(いつも、貴女とともに居ます・・・)
頭の中に彼の甘い声が響き、
私は・・・
自分で自分の肩を、ぎゅっと抱き締めた。
【fin】
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また、次の記事でお会いしましょう!
🌟Iam a little noter.🌟
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