絵梨花の魔法〜手書きの名刺|#短篇小説
この短編小説は、以下のnoteの続きとなります(1話〜4話)
よろしければご高覧下さい!
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🍁絵梨花の魔法〜手書きの名刺🍁
ヘアサロンを出てから、和美と絵梨花は青山の街を出、代官山まで休みなく移動した。
有名カメラマンの助手として多忙な絵梨花は、休みの取れたその日のうちに、ホストクラブ【Over Night】に和美を連れて行きたがった。
「・・・あのさ、これから撮影の前によく行く、ヴィンテージ・ブティックへ連れて行くわ」
「ヴィンテージ?」電車の中で、和美は聞き返した。
「そう。要するに、古着を扱っているの。
古着の店って、どちらかというと、アメリカのカジュアル系が多いんだけどね。そこは、ヨーロッパ・ヴィンテージなの。雰囲気があるんだよね」
「ふーん・・・」ファッションに疎い和美には、分かったような分からないような話だ。兎に角、絵梨花に付き従っていれば間違いないのだろう。
ブティックに着いた。住宅街の間の、蔦の這った古めかしいビルの2階。1階は駐車場になっている。
大きなガラスのウインドゥには、シックなドレスのマネキンが、何体か立っているのが見える。
階段を上がって中に入ると、フランス人みたいに髪を結い上げた50代くらいの女性が、
「いらっしゃいませ」
と静かな声で言った。
「ーーーこんにちは」絵梨花が挨拶した。
店の女性は細い金縁フレームの眼鏡をかけて、レンズ越しに、
「どうぞ。ごゆっくり」
と微笑んだ。
「今日は、3セットくらい、選んでみようか。着回しが出来るような感じでさ」
既に絵梨花は、壁に沿って設置された重厚なマホガニーの棚と、その下の金色のハンガーラックに吊るされた服たちを、1枚ずつずらして物色していた。
和美は何処からどう見て良いのか戸惑い、迷子のように立ち竦むばかりだった。
絵梨花は洋服のほうを向いたまま、和美に話しかける。
「ーーー和美はさ、肌を見せるようなのとか、ひらひらしたドレスみたいなのは、似合わないと思う。
それより、ちょっとクラシックな感じが良いんじゃないかな」
20分くらいかけて丁寧に店内を見ていって、絵梨花が選んだ服は6点だった。ワンピース2枚、ブラウス2枚、スカートとパンツが1枚ずつ。
ブティックの邪魔にならない隅のスペースで、絵梨花が和美に説明する。
「まず、紺色のワンピース・・・」
どちらも白襟の付いた、デザイン違いのワンピースを、ラックから交互に和美の顔の下に当てる。
「そうだねえ・・・こっちのワンピースは、ちょっとドレッシーか。
襟がカットワークレースだし、ウエスト高めにフレアになってるから、和美にはコンサバが強過ぎるかな?
もう少しシンプルなのが似合いそう、タイト系の・・・うん、これは襟がシルクで雰囲気があるし、台襟※1があって良いよね。
生地も梨地※2で高級感あるわ」
絵梨花の話はちんぷんかんぷんなので、和美は黙ってマネキンに徹していた。
「・・・ブラウスはね、色を散らしたんだ。秋冬は、ボルドーとかハニーゴールドとか綺麗だからね。落葉の色だよ?
和美は髪切ってシャープになったから、こんな色もいけそうだよ」
絵梨花は、そう言って微笑みながら、また和美にブラウスを当てた。
「ハニーゴールドのはサテン※3だから照明に映えるし、袖のカフスのビジュー※4が綺麗でしょ?これ、同色ビーズで、うまく生地と色を合わせてるね。
・・・ボルドーのブラウスは、はしご状のレースが前面にあしらわれてるから、女らしいと思う。袖がちょっと透けてるんだよね」
そして、ブラウス2枚を並べるようにラックに架けて、ロングのタイトスカートとパンツを組み合わせながら、和美に見せた。
「こっちの黒のパンツは、ある程度ゆとりがあって、良い感じでドレープ※5が出るんじゃないかな?
スカートはね・・・これ、ミモレ丈※6で裾にかけてやや広がっているよね?スリットも入って、お洒落だわ。
・・・まあ、1回、試着してみよう」
和美は目をぱちぱちさせた。
「絵梨花・・・服に詳しいのね」
感心して言うと、珍しく照れたように絵梨花が笑った。
「・・・まあね。
うち、母親がブランドのショー用の仕立てをしてたんだ。見真似だよ」
それは、初めて聞く絵梨花の家の話だった。絵梨花は、照れを誤魔化すように服をハンガーから外して、和美に手渡した。
「ーーーいらっしゃいませェ!!」
エレベーターを上がって、ホストクラブ【Over Night】に入店したとき、ホスト3名が和美と絵梨花を出迎えた。
カウンターで受付を済ませ、煌びやかな照明と、独特の音楽がかかる店内へ案内される。
和美の指名は勿論、片桐涼哉だった。最初に見せられるホストのカタログでは、以前より垢抜けて雰囲気が変わっていた。
専門のカメラマンに撮ってもらったのだろう。名刺も流石に印刷したものになっているはずだ。
絵梨花は、前と違うホストを選んでいた。
鏡に囲まれた半円形のソファにつき、先刻買ったばかりの紺のワンピースを着て、和美はずっと胸をどきどきさせていた。
この半日で絵梨花に魔法をかけられ、シンデレラになった心持ちだった。
靴も、足首に細いベルトの付いた、履いたことの無いような高さのエナメルパンプスに変わっている。
クラブの鏡に映る自分を見ても、全く別人だった。
(何か言われるかもしれない・・・)
ホストにしては口数の少ない、涼哉の切れ長の瞳を思い出して、和美は膝の上できゅっと拳を握りしめた。
【 continue 】
▶Que Song
ちりぬるを/椎名林檎とイッキュウ
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