気難しい作家先生 〜前日譚・千代紙の彼女|#短篇小説
この短篇小説は、「気難しい作家先生」深谷浩介の初恋についてのお話です😊
「君がいたなら〜If I Had You」
の世界観とつながります。
こちらをご高覧頂ければ、更にイメージしやすいかと存じます😌🥀
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そして、主要人物となる
【作家・|深谷浩介】の女性観、
結婚歴
についてはこちら。
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気難しい作家先生
〜前日譚・千代紙の彼女
それは、深谷浩介の高校時代に遡る。今では考えられないことだが、彼はその頃、同級生男女と待ち合わせて出かけるようなことをしていた。
部活動に興味がなく、帰宅部だった彼は、元々クラスメイトとの必要以上の交流を意識的に避けていた。
然し、将吾という幼馴染みが、自分の気の合いそうな面子を、事あるごとに集合させた。浩介は、男女の人数を合わせるために、やや無理押しで誘い出されたのだった。
女子の中に、(決して口外しなかったが)、浩介が密かに気になった娘がいた。
飯田李里佳。
いつも長髪をふたつに分けて、ゆるくカールさせている。色が白く、いかにも少女然としたタイプの娘だった。
李里佳は、女同士で話しているときにもくるくると瞳が動き、ふくれっ面になったり満面の笑顔になったりする。
ややもすると、浩介はその表情の変化にすっかり見惚れていたのに気付き、拳を口に当ててひとり、咳払いするのだった。
そして、高校2年生の夏休み。
浩介たちは駅で待ち合わせて、いつもの女子3人と、花火大会へ行く計画を立てた。勿論将吾の発案だ。将吾は3人のうち、未歌と仲良くなりたかったようで、そのような街のイベントは見逃さなかった。
最初は、浩介は行くのを断った。
「あのイベント、臨海公園にぎっしり人が来るだろ。
・・・人混みは、苦手なんだ」
将吾は浩介の肩を叩いた、
「まあ、そう言うなよ。長い夏休みだからさ、ちょっとした気晴らしになるだろ?
花火がどん、と上がったらすっきりするぜ?
・・・家に籠もってないでさ、行こうぜ」
浩介は、将吾の「家に籠もる」という言葉に、
(・・・引っ込み思案になるなよ)
というニュアンスを感じた。ややむっとして、結局、面子の中に加わることに決めた。
花火大会当日。男性陣に想定外の事態が起きた。女子3人とも、それぞれの個性に合わせた浴衣を着てきたのだ。
李里佳は白地に、ピンクと紫のさくらんぼ柄。ふたつに分けたいつものお下げ髪には、レースリボンを結んで、巾着かごを手にしていた。
浩介は、心臓を掴まれたような心地がした。われ知らず、鼓動が高まった。
将吾は女子たちに明るく挨拶したり、気軽に話しかけたりしていたが、浩介は何と言って良いか分からず、ぶざまになりそうで、口をきけなくなった。
そのあと、会場の臨海公園に移動する流れになり、彼はようやく「何か話さなければならない」という呪縛から解放された。
(似合っている―――
昔、母親が作っていた千代紙人形みたいだ・・・)
浩介の脳裡には、亡き最愛の母の思い出が、フィルムを回すように映し出された。
「・・・お母さん、ただいま」
ポロシャツにハーフパンツを履いた、小学生―――10歳くらいだったか、の浩介が、ひとつだけノックして母の部屋に入った。
「・・・あら。浩ちゃん、お帰りなさい」
浩介の母親は振り返った。黒目の大きな女性だった。肩までゆるやかなウェーブのかかった、柔らかな髪質。
「何してるの?」
浩介は、母親の椅子の背に手をかけて、肩越しに机の上を見た。
飴色に艶出しした古い木の机の上には、色とりどりの和柄の紙が、丁寧に並べられていた。
ふふ、と彼女は微笑って、
「千代紙人形を作ってるの。浩ちゃんは、あまり興味ないかしらね」
と浩介の顔を伺った。浩介はしかつめらしく言った。
「ふうん。人形か・・・
作って、どうするの?」
早、その頃から、浩介は何に対しても合理性を求めていた。それは、父親譲りのものだと思う。
「そうねえ・・・柄を組み合わせるだけで、楽しいんだけれど。
お友だちの手紙に添えたり、お年寄りの方に差し上げたり、しても良いかもね・・・」
浩介の母親は、慰問で老人施設にピアノを弾きに行っていた。浩介も何回か聴きに行ったことがあった。・・・たしかに、あの老人たちなら喜ぶかもしれない。
「浩ちゃんなら、どの組み合わせが好き?選んでみて・・・」
歌うように母親が言った。彼女は、良い匂いがしていた。浩介は母親の側にいるだけで、いつも安心していた。
片肘を軽くつきながら、浩介の選ぶ千代紙を待つ母親。浩介は、彼女に褒めてもらいたくて、真剣に端から端まで千代紙の柄に目を走らせるのだった。
浩介は今、原稿用紙に向かっている。
こんなに昔を思い出すのは、歳を取ったからか、と万年筆をこめかみに当てた。
久し振りに母親を思い出した。
―――今は、もうあの母親はいない。大学に入って間もなく、心臓発作で急逝したからだ。
その頃から、自分の心にかたい鎧をつけるようになった気がする。
今では人から「ニヒル」と言われるが・・・「ニヒル」になりたくて、なった訳じゃない、とも思う。
色々なことがあった。
花火大会以降、ふたりで会うようになった李里佳の姿を、もう一度記憶に手繰り寄せる。李里佳から、浩介に会いたいと言ったのだ。
彼女のどこかあどけない部分に浩介はのめり込んで行ったが・・・すれ違いから、二度と会えなくなってしまった。
浩介が女性を愛するための道程は、李里佳を出発点として、ずっと迷路を彷徨うばかりだった。
飯田李里佳。お互いの何がいけなかったのか、確り考えてみよう。
―――浩介は、藍色の御召の袂から、煙草の箱を取り出した。
【Continue】
▶Que Song
miwa『夜空。feat.ハジ→』
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🍁【気難しい作家先生】の本編🍁
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