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素人がオーストラリアでパティシエとして働いた話②

勤務2日目に、発熱や引っ越しなどあったものの、無事乗り越え、
調理補助やラベル貼りなど雑用的な仕事をすること3日目。
ジャイヤが私にヴィーガン用のチョコレートムースを作るように言った。

え?自分が一から作るんすか???
不安だよう、、、、、
けど、、、、やるしかねえ。

作り方と材料は口頭で説明してもらった。
豆乳・ダークチョコレート・砂糖・アガー(寒天粉)・名前忘れたけどなんか洗濯のりみたいな甘いペースト・透明のシロップの分量を量る。

まず豆乳を鍋であたためながら、砂糖とアガーを加え、
チョコレートは湯煎で溶かす。
チョコレートが溶けたら豆乳の鍋に入れて、
できあがった液体をステンレスの容器にいれて、
ガラスカップに小分けにしていく。
作り方自体はシンプルだが、豆乳を温めるときに沈殿した砂糖が焦げ付かないように混ぜ続ける必要がある。豆乳を温めている隙にチョコレートを湯煎しようとして、焦がす等の失敗を重ねながらも、ムース作りが上達していった。

チョコレートの替わりに、
フローズンフルーツを使ったマンゴームースやストロベリームース等もある。
日によって、何を何個作るか等が変わるため、
例えばパイナップルムース×150個ならば、
材料の分量を150個分になるよう計算して、
チョコレートの替わりにフローズンパイナップルを入れて作るのである。
キッチンに、今日何を何個作るかが書いてあるので、
それをひたすら作るのが私の仕事になった。 

作るものリスト

たまに、フローズンフルーツの在庫がなかったりするので、
そういう時は生のフルーツを包丁でカットし、ミキサーにかけて、
こし器で繊維がなくなるまで滑らかにしてから使う。
そういった機材の扱い方も、素人の自分は何もわからないので
他のシェフに教えてもらいながら作業を進めていった。

ムース以外にも、スコーンやタルトも作ったりするようになった。
機材の置き場、使い方、材料の場所、在庫管理、衛生チェック、ラベル貼り、棚の整理整頓、キッチンの清掃など、作業は多岐にわたる。

ジャイヤと私は初日こそ穏やかだったものの、
日を重ねるごとに険悪になっていった。

スイーツセクションは仕事量が多く、多忙のあまり、ジャイヤは初出勤から2週間ほど連勤しており、いつもお昼休憩も取っていない。
他にスイーツセクションのシェフは2人(ベトナム系オージーのカルビンとオージーのピース)だが、彼らは毎日来るわけではない。
まさに猫の手も借りたいような状況で送り込まれたのが、
英語もあまり通じないド素人の私である。(私は毎日出勤) 

ジャイヤ「おい、誰がスコーンをこんなに分厚くしろって言ったんだ??!!!これだと100個作るのにどれくらい生地がいるんだ??!!?ん?!?!!!!!」(わたしが作ったスコーンの生地を台に叩きつける)

このようにジャイヤのフラストレーションが毎日高まっていく。

私は7時~15時までの契約だが、初日からすでに毎日5~7時間程度の残業を強いられており、朝は5時起きなのに帰宅するころには22時を回っていた。最寄り駅からチャリで15分のところにあるシェアハウスに住んでいたが、オーナーから借りたチャリが盗まれたり、ソーラーパネルで蓄電するタイプの家で、冬なのにシャワーが連日水だったりと、私はオーストラリアまで来て一体何をしているだろうという気持ちで、肉体労働と孤独と寒さで毎日が苦しかった。泣いたりはしなかったが、感情を失っていた。

朝から晩までくたくたになるまで働いても、
誰にもありがとうと言われないし、
毎日上がる前に広いキッチンを一人で清掃して
帰るときは顔も見ずに「バイ」と言われ、
出勤しても挨拶もされない。
毎日腕に包丁のタトゥーがはいった私を怒鳴りつけてくるおっさん(ジャイヤ)と、
英語が通じない私に興味を持たないおっさん(カルビンとピース)と同じ空間で、
ただただスイーツを作り続ける。
買ったばかりのお気に入りの水筒も、休憩室で落として割った。
こんな生活もうたくさんだ。(※まだ一週間)

休憩室で水を入れようとして割ったT2の水筒。
後日同じものを買ったが、それも寿司ハブで落として割った。


私はストレスが爆発した。
一週間ほどたったある日、「定時で帰りたい」とジャイヤに主張した。ジャイヤは「だったら時間内に仕事を終わらせろ」とだけ言った。

私「でもこの作業量を定時に終わらせるのって無理じゃないですか?私は15時までって契約で聞いてるし社員でもないのに残業したくないんです!!!」
ジャイヤ「あっそ。けどそれがここのルールなんだよ。できねえなら明日から来なくていいからな」
私「はあ??なんでそうなるんだよ。私は過去に働きすぎて体調壊したことあるから残業はしたくないんだよ!!!!!!」
ジャイヤ「俺だって今日奥さんが体調不良だけど来てんだよ!!!!甘えてんじゃねえ!!!!(※意訳)」

その後、私はふてくされながらも豆乳を温める作業をしていたが、ふと、ジャイヤが自分も不慣れな状況で、素人の私に仕事を教えてくれていたことに感謝せず、一方的に自分の主張を通そうとしたことを反省した。そもそも、シフトを決めているのはジャイヤではなくマネージャーであり、ジャイヤだってヘッドシェフとは言え雇われている身である。

忙しすぎて普段は怒鳴りつけてくるが、ちょっと時間に余裕ができたときは、「日本に侍はいるの?」等と雑談を振ってきてくれたこともあった。たぶん本当は優しい人なのだ。

その後、作業について二人で会話していたとき。
ジャイヤ「あとは、〇〇を終わらせたら、今日は早めに帰っていいぞ。定時は過ぎてしまうがな」

え、、そんなこと初めて言われたぞ、、、
そこで、私は謝罪した。

私「自分のことばっかり考えてごめんなさい。もう定時で上がるとかいいので、一緒に協力して終わらせましょう」

ジャイヤは「突然どういう風の吹き回しだ?」的な顔をしていたが、そのあと作業をしながら自分の過去の仕事の話や、奥さんや親せきの話、過去に仕事で日本に来た話をしてくれた。相変わらず仕事量は多いし残業もしてたが、この日以来私を怒鳴ることがなくなって、軽いジョークなんかを交わす仲になった。

続きます♡