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#03 農業は儲からない!?

農業を始めるとき、多くの人に「農業って儲かるの?」と言われた。特に心外なのが農政担当者から言われたことだ。日本の農業をなんとかしなければならない立場の人間が「農業儲からないですよ。本当にやりたいんですか?」極めつけは「途中で儲からないって辞める人が多いんですよ。」50をすぎたオッサンが、後先考えずとりあえず農業やりますって始めたと思ってるのか!

私の農業が成功するかどうかはわからないが、農業を始めるにあたっては、自分なりに考えに考え、仮説をもって臨んでいる。もちろん仮説が正しいという確証はないが、自分なりにその仮説・課題に取り組んで実践したいと思っている。
まず自ら生産者として取り組むべきは、「生産規模の拡大」である。

「日本の農産物生産者の課題はその生産規模にあるのではないか」

2009年の農地法改正までは法人での参入が制約されていたので、現在も個人事業主である家族単位の経営体が多い。これまでは個人の農家と農協とのタッグで産地の規模拡大を図ってきたともいえる。
農協が投資をして選果場、集荷場や倉庫を整備することで、農家は栽培、収穫に集中できる。通常、収穫物はコンテナと呼ばれるケースに入れ、農協の敷地内の選果場等のパレットに置いて、生産者はここで終わり、数週間後には販売代金が銀行口座に振り込まれる。

農協の選果場では、機械設備を用いて規格外品を取り除き、出荷のための選果・梱包を行い、市場にむけて出荷する。農協が行う後工程は、生産部会に在籍する多くの農家の生産物を扱うため、取扱規模は大きくなり、投資効率もあがる。そのため一定の生産性が向上した。

問題は生産者の意識にもある

生産者側は、比較的個人の農家が多い。ひとりでやっている人、夫婦でやっている人、家族などを含め数人でやっている人、経営体によってさまざまだが、収穫のときにだけアルバイト・パートさんを雇うというスタイルが多い。
収穫時には収入があるが、それ以外の片付け、来季の準備、定植から収穫開始までの期間は、収入が途絶えるため雇うが厳しいからだ。そのため準備期間における労働力の大きさが事業規模の制約条件になっている。
もちろん他の作物を栽培している方もみられるが、雇用を周年化して多品目を栽培する複合経営を行っている個人事業農家は多くない。

ビニールハウスの資材や原料費、肥料なども高騰しており、固定費も多くかかるようになっているのに生産規模はこれまでのままでは損益分岐点売上を超えない事業もでてくるのに、「雇用をできるだけしない」というスタンスではなかな事業を拡大できないでいる。
世の中的に労働者不足。それは農業に限ったことではない。収穫期だけ最低賃金に近い水準で働いてくださいね、といって快く働いてくれる層はそれほど多くない。他の産業がそうであるように、一定の規模がないと生産性の向上も図ることができないと思うのだが、実際にはそうなっていない。

自らがまずは規模の拡大による労働生産性の向上を実現することで、仮説がある程度正しいことを証明したいと思っている。

先入観という大きな壁

私は、法人化して本格的に栽培を始めるにあたって、研修期間に多くの生活費を消費し、手持資金も少なったので、銀行融資(制度融資)を依頼した。
ここで農業を取り巻く他の課題に直面することになる。

5カ年の中期経営計画を策定するにあたり、将来的には繁閑の差を埋めるように複数の作物の栽培を行い、雇用を拡充するために周年(正社員)雇用を前提に計画をたてたのだが、農業関連金融機関の審査にはウケが悪かった。

言い分はこうだ。
・将来の計画とはいえ、栽培、販売経験のない作物を計画に入れると融資審査が厳しくならざるを得ない
→単一作物にせよ!
・人件費が高すぎる
→アルバイト・パートで雇用し、コストを削減せよ!経営者の報酬も毎月定額を支給ではなく、利益がでたときに支払うべし(?個人事業にせよ、ということか)

これに対し、私個人に栽培経験がないので、雇用によって補う必要があるし、事業拡大の最大の課題は雇用であること。複数の作物を栽培することは、運転資金の安定につながると説明した。

説明の甲斐もなく、融資の営業担当からは、計画を見直してもらったほうがいいですね、と言われ、今後5年間単一作物を栽培し、正社員雇用も最低限にした計画にて再提出したところ、融資は降りた。

農業に対する先入観はこうだ。農業は儲からないから、あまり大きな売上はめざさす、数年後に目標の農業所得(法人でいえば経営者の報酬+最終利益の額)が400万円を超えれば十分なので、そうした計画が望ましい計画であって、大きな利益を目標とする計画は、農業では非現実的である。
当然のことながら、最初から法人にすべきではなく、個人でできる範囲で頑張って、将来儲かったら事業拡大とともに法人化もよいが、当初から事業拡大を前提とするのはよくないし、他の農家は皆そうやっている。

農業を取り巻くすべてに克服すべき課題があると思う。それは悲観すべきことではなく、それだけ多くの可能性があるということでもあるので、ひとつひとつ解決、克服していきたい。

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