謎の洞窟
洞窟というと、私は何とも言えないワクワク感を覚える。
それは私に限ったことではなく、古今東西問わず子供に共通した思いであるに違いない。「アリババと40人の盗賊」にみられるように洞窟が登場してくる物語も数知れない。それだけ洞窟は人々の好奇心を搔き立てる存在なのだろう。
私達が生活している世界には街並みがあり、山や田畑などの自然があり、見上げると広々とした空という空間が広がっている。
対し洞窟は狭く、奥に行けば行く程暗くなるという閉ざされた空間である。
その非日常さが人間の動物としての本能を刺激するのかもしれない。
それは巣穴で生活する動物と同じだ。モグラはその代表的な動物だが、他にも数知れない。穴兎も野兎と違い地中の暗い穴の中で生活する。穴の中にはトイレ専用の部屋もある。ちなみに我が家の兎君も穴兎である。我が家のリビングに放つと前足をせわしく動かし床を掘る仕草をする。
前書きが長くなったが、実は私の実家の近くにも洞窟があるのだ。
今から皆様にお伝えすることは私自身が子供の頃に体験したことである。
私は子供の頃から河原を歩くのが好きで、よく散歩していたものだ。
それはNoteの記事「遠い忘れもの」にも書いていることではあるが、一時期、小学校から帰るや否や毎日のように出かけていた。
そう、あの日もそうであった。
私がいつものように川の上流に向って歩いていくと対岸に妙な形の岩があるのに気づいた。
30mほど川幅があるため近くに渡って行くことはできなかったが、遠目に見ても何かおかしい。
岩の表面には平らな岩が張りついていて、扉のように見えなくもない。
私はすぐにでも確かめに行きたかったが、その日は諦めて、日を改めて、もう一度行くことにした。
翌日になり、私は手前にある冠水橋を通り対岸に渡り目的地の岩に向って歩き始めた。
20分ほど歩いて岩にたどり着いた。
近くで見るとなるほど奇妙である。川に向って突き出した岩の表面は扉のように平らであり、しかも、つるつるして真ん中に割れ目もある。
それに驚いたことに岩の階段まであるのだ。
私は階段を昇り、入口の扉らしきところに立ち、扉かどうか確かめようとした。
割れ目を手で引っ張ってみたがビクともしない。
何か呪文が必要なのかと思い叫んでみた。
「開け~ごま~」
私にはこの言葉しか思いつかなかった。
この言葉はあまりにも有名だが、未だにこの意味がわからない。調べればすぐにわかると思うのだが今更恥ずかしい
叫んでみたものの扉に見える岩は ビクとも動かない。
仕方がないので一旦諦めて道具を取りに家に戻った。
家に着くや否や、私は思いつくまま道具を用意した。
金槌とライトそれに木刀を持ち再び出掛けた。
金槌は納得出来るのだが、木刀を何故持ち出したのか思い出せない。
地球侵略を目論む宇宙人の基地があるのかもと思ったのかもしれない。ならば武器が必要になる。テレビドラマでインベーダーが流行っていた時期である。
ところで、この宇宙人という呼び方も古いか?今はエイリアンと言わないと通じないかも。
私なりに完全武装して目的の岩に向った。
私は岩の階段を昇ると岩に向って金槌を振り下ろした。
トントンカンカントンカチと辺りに大きな音が響くと、バタバタと近くで鳥が飛び立つ気配がする。
岩と格闘すること1時間。
突然岩が崩れ落ちたのだ。予想通りぽっかりと穴が開いた。表面の岩はやはり扉だったのだ。覗き込むと蝙蝠がキーキーという声を発し飛び出してきた。
私は思わず身をかがめた。
閉ざされていたはずなのに何故、蝙蝠がいるのか不思議だった。どこかに洞窟に通じる入口があるのかもしれないと思った。
私はぽっかりと開いた高さ1mほどの穴の中に入って行った。
奥の方からブーンブーンという奇妙な音がする。私は恐くなったが更に奥へと進んで行った。ライトで奥を照らしてみたが、暗闇の中、洞穴が何処まで続くのか見当もつかない。
5分程歩いただろうか、わずかな光が差し込んでいるのに気がついた。
その場所まで行くと、その光は天井から差し込んでいたのだ。それに、ご丁寧に階段までついている。
私は恐る恐る階段を上り天井に開いている穴から顔を出してみた。
「えっ!」
私は思わず声を発した。
皆さんは何があったと思いますか?
私の目に映ったのは、どこまでも続く草原だった。
こんな場所に草原?
私は知っていた。草原があるはずはない。洞窟の近くで見た光景は畑があり遠くには山が見えていたはずだ。草原があるはずがない。
まさか黄泉の国?それとも空間移動?他の惑星かもしれないと私は思った。
当時はまだ公開されていなかった「千と千尋の神隠し」の舞台のように神々が集まる場所だったのかも。
私は草原を目の当たりにしたとき、自分しか知らない秘密の場所を発見したのだという探検家にみられるような冒険心、優越感も感じた。
私は思い切って外に出てみることにした。
草原に立ってみると高さ30cm程の草が続いている。山はなく地平線が見える。
見上げると雲一つない青空が広がっている。
私は歩き始めた。
「誰かいませんか?」私は叫んでみたが、どこからも返答はなかった。
しばらく歩いた後、疲れて私は体を草の上に横たえたが、そのまま眠ってしまったようだ。
ふと気がついて周りを見渡してみたが、風景は特に変わった様子もなかった。
私は家に帰ることにした。
洞窟に続く階段を降り暗い洞窟を入口に向かって歩いて行った。
入口を出ると既に暗くなっていた。
草原を出た時は明るかったのに、いつの間に日が暮れたのだろうか?
家に着き時計を見ると8時をまわっていた。
「今まで何処にいたの?」母親が声を荒げた。
私は河原に行ったことは話したが、洞窟のことには触れなかった。秘密にしておきたかったのだ。
翌日、学校から帰ると再び河原に向かった
同じように川上に向かって歩き洞窟に着いた。
私は洞窟の入口をくぐり奥へと歩いて行った。洞窟の奥ではブ~ンブ~ンと昨日聴いた不気味な音が響いていたが、音の正体を確かめることなく、草原に続く階段を上っていった。それをを確かめる勇気を持ち合わせていなかったためだ。
階段を上ると、そこには昨日同様草原が広がっていた。
草原には誰もいないように思えた。自分だけの空間で、この土も草も空も全てを独占しているかのような錯覚を覚えた。だが不思議なことに明るいのに太陽がどこにも見えない。それに鳥が飛んでいる様子もない。絵画のようでもあり、静けさが異様だった。
本当にここは何処なのであろうか?
考えても考えても分かるはずはなく、私は草原に佇むばかりだった。
私は家に帰ることにした。
翌日になり,私は思い切って友達に話すことにした。
「〇〇川に洞窟があるの知ってる?」
「洞窟ってどんなの?」
「〇〇橋から20分くらい歩くと岩の階段があって、上ると入口があるんだ。その入口を入ると途中に登り口があり、上に行くと草原に出る」
私は詳細を話した。
「知らない。聞いたこともない」
友達は信じられないという顔をした。
「じゃあ、今度の日曜日行ってみようよ」
私が話すと、いいよと返事が帰ってきた。
日曜日になって私は友達を連れて問題の洞窟に向かった。
冠水橋を渡り川沿いを歩き20分ほどで到着した。
私達は岩の階段を上り洞窟の入口に立った途端、異変に気がついた。
何と岩の扉が閉じていたのだ。
私はこの扉を開いたのでなく、確か金槌で粉々に砕いたはずである。
開き戸のように開いたのなら塞がることも納得出来るが、砕け散った岩をどのようにしたら元通りに出来るのであろうか?それに誰がしたのであろうか?
一緒に来た友達も、洞窟なんてないじゃないかと呆れ顔だ。
私は頭を抱えてしまった。
「嘘じゃないよ。本当にあったんだよ」というのが精一杯であった。
夢などではないと証明する術もなかった。
それとも神経ガスのように幻覚を見せるガスでも充満していたのであろうか?でも私には確信があった。幻覚でも夢でもないと。
先日、久々に近くに用事があって問題の岩場を訪れてみた。
その場所は水嵩も増し、草木もうっそうと茂り、とても近づけない状態となっていた。遠くから眺めるだけであったが、その岩は何事もなかったかのように佇んでいた。
その後、幼い頃の私と同じ体験をした人がいたであろうか?
私には分からないが、誰でも振り返ると同じような体験をしているに違いない。大人になるための通行手形なのかもしれない。
私が書く文章は、自分の体験談だったり、完全な創作だったり、また、文章体も記事内容によって変わります。文法メチャメチャですので、読みづらいこともあると思いますが、お許し下さい。暇つぶし程度にお読み下さい。今後とも、よろしくお願いいたします。