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絆創膏を貼って貰えなかった君へ


去年生まれて初めて、小さな切り傷で私より早く動いて絆創膏をその傷に貼ってくれた男がいた。
そんなに優しくされるなら、いくらでも怪我をしたし、いくらでも素直でいようと思った。

ママは寝る前に絵本を読んでくれて、月に1回駅ビルの中の本屋さん絵本コーナーで新品を買ってくれた。そこで私は言葉と仲良くなったと思う。
でも気づいたら、痛い事を沢山されて、絵本の優しい音読の代わりに私が鼻水を啜って耳を塞いで血の音を聞く夜が来た。


大事な夜に、私は帰り道牛丼を食べてトイレで吐いた。好きな男に電話して、好きでもない男とラブホに行ったことを悔いてほらねって言われた。
あの時、食べた肉が少しだけど私の体になってる。ほんの少しだけど
あの日の涙が私の事を現実に近づけて、社会の中を生きやすくした。ほらねって言われて、少しだけ私に正義を求めてくれる人がいるってわかった。
少しだけ正義が存在してる。
法律や愛や家族や優しさが果たされない中で、ほんの少しだけ正義を信じて語ってくれる人がいる。

それはコンビニでホットスナックを買った私にゴミ袋にって袋をくれた銀髪のお兄さんや
うつ病って突然辞めたバイトの有給を振り込んでくれた店長や
パンダのマグネットをくれたなつみ先生
私ちゃんとそういう人に会えたから、私の事賢いって言ってくれた技術の先生が飛ばされちゃった特別室の坊主の先生がくれた緑髪でも学校来ていいよって言葉が
私の皮膚になった。

あなたの中に流れる血が母親と父親のものでも、あなたの脳みそに入ったシワはいつか愛した男の教えてくれた小説の難しい言葉、一つ一つ調べて読み進めた言葉たち。
あなたに優しさを教えてくれたレジの店員さんの気遣い、箸の持ち方を笑ってくれた友達が一つ一つ深く深く刻み込んでくれてる。

手のひらのシワはあなたの日々を形作ってカーブも深さもあなたの選んだ立った日々の痕跡。
方にあるまだほんのり赤い線は隠さなくていい、いつか気持ち悪いと言われて辞めてしまった笑顔も寂しいと思っていい。
そんな事達で救われたり、するのは私だけかな。私だけ簡単に救われたりしてしまったのかな。
椎名林檎が女の子ヒーローだって知ってから全て納得しちゃって、私はただのアルバイトで何も無い。
もうどうしたらいいかなんて分からないの、意地や未練や足掻きで語っているよ、
あなたを救うことから目を離さないよ、
抱き締めてなんて言えないの、知っているし抱き締めてあげたら、泣き止んでくれるのかお前たち
一緒に春の桜を見たら、本物の春を見たら一緒に死んでしまおう。
それで、1から始めよう。
桜が思ったよりピンクでは無いことに、あと何回想えるか分からないけど、18切符で旅に出よう
私たちなら隣県でだって2500円を越えられるよ。梅の方がピンクやって知らないまま
椿とボタンも見分けがつかないまま、彼岸花が咲く場所だけ覚えて雪が綺麗に積もる丘だけ覚えて、潰れてしまったパン屋をいつまでも忘れないでいて
そうして今日に備えて眠る、皿を洗って仕事着を決めて、鍍金の指輪を外して
夢は見なくていい、ただ深く眠って
春の事だけ忘れなければいい

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