ゴミ捨てが楽しみ。
そもそも、ゴミ捨てはわたしの担当ではなかった。
重いものを持つと腰が逝ってしまうので、朝からそんなんじゃ仕事にならないし、母も特に何の文句も言わなかった。
ある時、母が骨折して荷物が持てなくなった。仕方なくゴミ捨てはわたしがしばらくの間替わることになった。
最初は朝暗くてよくわからなかったが、季節が温かくなるにつれ朝の風景がきれいなことに気づいた。こんな景色を譲ってくれたんだなあと思ったらゴミ捨ても苦じゃなかった。腰痛かったけど。
骨折が治った母。その後もわたしが痛む腰をおしてゴミ捨てに行くことに一言もなかった。もちろん、それまで「ありがとう」の一言もなかったのだが。
ある冬の朝。どうしても調子が悪くて起きれないでいたら、母がひとりでゴミ捨てに行った。帰ってきたら「ありがとう」と言おうとして起きていたら、帰ってきた途端「あんたをあてにしたあたしがバカだったわ!」と怒鳴りつけられた。それ以来、ゴミ捨ての日は意地でもわたしひとりで捨てに行くようにした。休むことも許されないのかと悲しくなった。もちろん母はその日のことはとっくに忘れているのだが。
いよいよ年始の最初のゴミ捨ての日が迫ってきた。
ゴミ捨て場から見る美しい夜明けの空をまた独り占めしようと思う。
どんな天気か今から楽しみだ。
雨でも、晴れでも。
その日の表情はいつも違ってそれでいて美しいから。
ゴミ捨てを譲ってくれてありがとう、お母さん。
今ではわたしは痛み止めを飲んでゴミ捨てに行っている。
だって、その価値があるから。