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「カラスの嘘」

おれは嫌われ者だ。
おれがひと声鳴くと、わざわざ見上げてこう言うんだ。「うわ縁起わる!」


おれは嘘つきだ。
羽根をひろげて威嚇すると、ほんとは怖がってることを知られることはない。人間は怯えた顔で逃げていく。

おれは卑怯者だ。
車がやってくるのを見据えて、木の実を踏ませる。苦もなく食べ物にありつける。利用されたことを知り、車の中で人間は苦々しい顔をする。


おれはいつもひとりぼっちだ。
飛び立つのが遅れた。
車にぶつかって折れた翼はあらぬ方向に折れ曲がり、もう動かすことはできない。
おれの横を走る車は、びゅんびゅんとあざわらう。


考えることはもうやめよう。
そう思ったとき、びゅんびゅん走る車から誰かが降りてきて、おれを道路脇へ運んだ。

「かわいそうに」


にんげんなんてだいきらい
おれのさいごのうそだ。

#詩
#短文

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