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「藤井聡太は、こう考える」杉本昌隆(読書感想部)

まえがき

2023年9月に刊行されたまだ新しいこの著。
次に何を読もうかと考えていた時に、図書館の予約件数ランキングに載っていたため借りることにしました。読んでみると、興味深い面白い本でした。
本として面白いというよりはコンテンツが良すぎるというやつです笑。

藤井聡太と杉本昌隆について

藤井聡太
言わずと知れた現在最強の棋士。
2016年に史上最年少、14歳2か月でプロ入り、そのまま無敗で公式戦最多連勝の新記録の29連勝を樹立しました。その後、史上初の将棋のタイトルを八冠独占、こちらも史上初の6年連続での年度勝率8割以上を継続中です。
杉本昌隆
藤井棋士の師匠。1990年プロ入り。名古屋市を中心として主に東海地方で熱心に普及に努め、プロとしての活躍だけでなく、執筆活動や将棋教室の運営にも力を注いでいます。2019年に御年50歳にて8段に昇格。

本書について(ネタばれあり感想)

本書は藤井聡太の将棋に対する考え方や姿勢を、「純粋さ・構想力・集中力・平常心・探求心」といった切り口から、師匠が知る実際のエピソードとともに説明しています。
将棋を中心としたエピソードから、藤井聡太氏の考え方や趣向が見て取れるのですが、この本から一番感じ取ったことは、藤井聡太の将棋観はそれすなわち「人生観」であること。将棋を愛し、勝利ではなく、将棋を理解することそのものを果てしなく追い求める、やはり彼は天才なんだとまざまざと見せつけられました。
特に刺さったのは集中力の章。藤井氏は対局中とことん先読みの長考をします。脳のスタミナがあって、将棋と一体化しているときは疲れ知らずだそうです。
ちょっと皆さん考えてみてほしいんですが、そういったトランス状態になれるものを持っていますか?藤井氏は今22歳ですが、同じくらいの歳だったころ、何か夢中になれるものを持っていましたか?私は車の運転中や、好きな音楽を聴いているとき、簡単ですが動画編集をしているとき、そんなときに自分がそれと一体になる感覚を味わうときがあります。
藤井氏の場合は、さらに、好きなことがどこまでも好きで、それを職業にできている例だと思います。
自分のことですが、私はトランス状態になれるのってたまにだし、毎回同じことに対してそうはなれないし、ましてや仕事に対しては長考したくもない。自身の集中力のなさが、能力のなさに響いているなと、本著をよみながら、自分を虫けらみたいに感じてしまいました。

一方で、師匠の杉本氏について、最もよく表現されていたのは、「二つの得意を持つ」という文。それは将棋においても、仕事全般においても言えるようです。将棋については、2軸の戦法を持っていて、使い分けることで将棋をより楽しんでいる。仕事全般においては、将棋活動と週刊誌への連載などの執筆活動。うまく脳を切り替えながら、何かをすることに楽しさを見いだせるタイプの人です。
この本の面白いところは、こうした2名の対比が、直接比べてはいないが、良くあらわれているところだと思います。

杉本昌隆さんの連載作の方の、師匠はつらいよ、というのがあるのですが、そちらもエッセイのようなので読んでみたいなと思いました。
きっと本著のように、癖がなく、さらりとした書き口で熱量が伝わってくる良い文章なのだと想像します。

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