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夢想堂、春夏冬中【英二の願望】④

 前回

 僕ら 夢想ゆめみ堂一行が出雲縁結び空港に到着したのは、お昼少し前の11時20分。定刻通りの到着だった。
 出雲までの交通手段では、いろいろと揉めた。航空運賃を大人3名と、かろうじて健太郎くんが小児運賃だとしても、すべて英二さんに負担させるわけにいかないし、径路は佳代かよさんが肩代わりして購入することになることも、まんさんや僕、健太郎くんまでもが気にしていた。
「早く来てほしいっていう、依頼主である英二の希望に沿わないと、ね」
 との佳代さんの一言で、一番短時間で行ける空路で行くことに決まった。
「到着ロビーで待っててくれてると、思うけど」
 佳代さんがそう話した後、英二さんと会えたのは30分以上たってからだった。出迎えに来ていたのは、英二さん一人だった。
翔太しょうたは、車で待ってるの?」
「いや」
 英二さんは簡潔に答え、健太郎くんの荷物を受け取り、そして足早に出口へ向かった。
 僕らは、タクシー乗り場で英二さんに追いついた。
「タクシー?」
 佳代さんは怪訝そうな顔を浮かべ、キャリーケースを止めた。後ろについていた満さんと健太郎くんが佳代さんにぶつかりそうになった。
「翔太は、もう撮影の準備に入ってる。そこへ直接向かうんだ」
「え? 脚本ほんも、ないのに?」
「あるよ」
「いつ書いたのよ」
「だから言ったろ」
 佳代さんも満さんも、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で英二さんを見つめている。
「原点に帰っているって」
「原点……」
ゆう、さっそくオウム返しか」
「ホントだぁ」
 健太郎くんが笑いながら、僕の顔を見上げた。
「佳代ちゃんは、俺と乗って。ちゃんと説明するから」
 僕と満さんその間に健太郎くんが座り、タクシーは走りだした。
「荷物も置かせねぇで、何をさせようってんだ?」
「タクシーで行くぐらいだから、そんなに遠くはないんじゃないですか」
「だといいけどな。健太郎、疲れたろ?」
「大丈夫、飛行機乗るの久しぶりだったから、楽しかった」
 僕も満さんも、健太郎くんのその言葉を聞いて安心した。

 タクシーは、田園地帯を30分近く走っただろうか。タクシーの後部座席で気持ち良さそうに寝ている満さんと健太郎くんのように、僕もうつらうつらしかけていた。
「お客さん、着きましたよ」
 タクシーの運転手さんが、父子と祖父の心地よい眠りから引き戻した。
「あ、すみません」
「ここ、駅じゃねぇの?」
 満さんがタクシーの窓から寝ぼけ眼で外を確認している。
出雲大東いずもだいとう駅?」
「お、スゴイな健太郎、読めるんか」
「僕、5年生ですよ」
 そのやり取りは、まさに祖父と孫の会話だ。

 僕たち夢想堂一行が降りたつと、駅舎前に誰か立っている。
「少女戦士がいる!」
「あれ、翔太じゃないか?」
「まさか」
「そのまさかだよ」
 英二さんが振り返って言った。
「俺らは、原点に帰って」
 そう言うと英二さんは少女戦士の恰好をしている翔太さんに手を振った。
「俺の夢は、プリキュンになること」
「プリキュン?」
 オウム返ししたのは、僕だけじゃなかった。

                                                                                           つづく
 

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