司書の片思い annex

図書館司書のnoteです。1981年生まれ、滋賀県出身。 本のこと、映画のこと、子ども…

司書の片思い annex

図書館司書のnoteです。1981年生まれ、滋賀県出身。 本のこと、映画のこと、子どもたちとのこと。 心に浮かんだことを、肩の力を抜いて気軽に書く「別室」をつくりました。

最近の記事

映画『メグレと若い女の死』感想

------この記事には、ネタバレを含む部分があります-------  「なぜ今、メグレ……?」と疑問符を抱えながら、映画『メグレと若い女の死』の予告編を観た。しかし、ドパルデュー、ルコントと言われたら抗えず、足は映画館に向かっていた。仏文科に入りたての頃、「シムノンは簡潔で読みやすいから皆さんにおすすめです」と言われていたのに、結局原文で読まなかったな……と怠惰だった学生時代を振り返りながら、タイトルバックを眺める。  ストーリーも推理も、至ってシンプル。もうこの線しか

    • 妄想のなかの大江さん

       大江健三郎さんを悼む声が広がっている。  学生時代を仏文科で過ごしたひとりとして、大江健三郎作品はかじりつくようにして読んだものだった。ぼうっと生きていた身には難解さを感じることもあったが、それこそ祈るようにして夢中で読み進めた記憶がある。  しかし20年経った今、落ちこぼれ学生であった私が大江さんのことをもっとも強く思い出す瞬間は、ブルボンのお菓子をお店で手にとるときだ。「それはブルボンのお菓子!」と、聞いたことのない大江さんのツッコミが脳内にあらわれ、すこし笑ってし

      • 映画『別れる決心』感想

        夕飯のアジフライを食べていて、思い出した。 「シマ寿司……だったっけ」 あんなにおいしそうな寿司を、二人で食べたのに。思い出したとたん、「悲しみがインクの染みのように」広がった。 パク・チャヌク監督の映画『別れる決心』を観た。 敬愛する菊池成孔先生が『お嬢さん』を激賞されていたので、いつか観たいなと思っていたチャヌク作品。しかし、最近は暴力や性愛の描写がどぎついものを観ると衝撃をくらってしまうので、できるだけ遠ざけてきた。 今作は「サスペンス・ロマンス」ということで、これ

        • メロディアスライブラリーのこと

          小川洋子さんから、突然こんなふうに告げられたような気分だった。「メロディアスライブラリー」が終わってしまうなんて。悲しみが胸にじわじわと広がって、もう一週間たつ。 「メロディアスライブラリー」は、2007年から続くTokyofmの長寿ラジオ番組。作家の小川洋子さんと進行役の藤丸由華さんが毎週一冊の本を取り上げ、名作の世界を読み解き味わう。日曜の朝10時からなので、ひととおりの家事が終わったあと、5歳の娘とならんで聴くのが去年からのルーティーンになっている。たまに絵本も登場す

        映画『メグレと若い女の死』感想

          誰かに話すまでもないことを

          noteをやってみたらいい、と家人からすすめられた。 あるサイトで「司書の片思い」という不定期連載を書かせていただいているが、こんな立派なところで書くほどもないようなことが、ふだん心に浮かんでいる。そんな些末なことを、よそゆきでない言葉で書いてみたいな、と感じた。 それでnoteをはじめることにしたが、手引きとして一冊の本を買ってみた。 津村記久子『苦手から始める作文教室(ちくまQブックス)』(筑摩書房,2022)は、書くことへの凝り固まった考えを解放してくれる。第一章を読ん

          誰かに話すまでもないことを