詩 かがみにふれないで
かがみにふれないで 無関心に立つ、背筋が伸びた鏡の前で
気難しい青年のような顔をしないで。
曇りのない鏡には、赤く目をはらしたあなたの顔が
より子供っぽくなって映っている。
かがみにふれないで
閉じ込められて動けなくなった光である鏡は、
あなたの瞳を揺らす涙をぬぐってはくれないでしょう
ただ、あなたの生活の光を映し続けていた鏡は、
あなたのその涙が、〈光〉であることをあなたに知らせます。
かがみにふれないで
私だけに涙をみせて
輪郭ばかりがはっきりして
常にぼやけている硝子の花瓶に生けられた、花の名前を
聞いてくれる人はもういない。
そして、枯れた花を一緒に捨ててくれた、あの人は、
あなたに一言も残さなかった。
かがみにふれないで
鏡は、あなたの唇の震えをうけとめてくれる
あなたにみられている、その鏡はその震えをすべて覚えている。
かがみにふれないで
自分をうけいれて
かがみにふれないで
あなたの、そのどこか遠くをみるような目は、
大切な思い出に向けられているのでしょうか。
あぁどうか、かがみにふれないで
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