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DXにおける大きな勘違い(その1)

DX(デジタルトランスフォーメーション)が、経済産業省の「DXレポート」に登場した2018年から、もう5年が経ちました。
以来、デジタル・IT関連業界では、猫も杓子もDXと大いに賑わっています。

しかし、同時に「日本のDXは何故進まないのか?」と言うように、日本においてDXがなかなか進捗していない事への「焦り」の論調も多く見られます。
ITジャーナリストの田中克己氏は、2023年2月14日のブログ「進まない日本企業のDX、その理由を明かすIPAの『DX白書2023』」(引用元:https://dcross.impress.co.jp/docs/news/003369-2.html)のなかで、「見識なし、危機感なしの役員層からはDX人材育成策も生まれない」と、日本の経営者の資質に大きな疑問を投げかけておられます。筆者は、ちょっと異なる意見を持っています。

経営者の話しの前に、日本における「DX」そのものについて考えてみたいと思います。
DXに関しては、ネットや書籍をはじめ莫大な量の情報が溢れています。その情報を調べていると、ちょっと疑問が湧きます。「DXとは」とGoogleで検索するといろいろな定義が出て来ます。株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所ののサイト(https://www.dxlab.jp/what)では、DX提唱者の最新の定義として次の様に引用されています。
「企業のDX:
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がビジネスの目標やビジョンの達成にむけて、その価値、製品、サービスの提供の仕組を変革することである。DXは顧客により高い価値を提供することを通じて、企業全体の価値を向上させることも可能にする。DXは戦略、組織行動、組織構造、組織文化、教育、ガバナンス、手順など、組織のあらゆる要素を変革し、デジタル技術の活用に基づく最適なエコシステムを構築することが必要である。DXは、トップマネジメントが主導し、リードしながら、全従業員が変革に参加することが必要である。」
つまり、DXとは「目標やビジョンの達成にむけて(中略)仕組を変革すること」つまり、「全体最適」を求めているのですが、巷では「人事のDX」とか「経理のDX」などの「部分最適」な機能に「DX」をつけている情報が実に多いのです。このように、情報が錯そうする中で、自身の組織にとって最適なDX戦略を見出すのは、なかなか難しいと言えます。

さて、日本の経営者に話しを戻しましょう。
バブル崩壊後の日本を表す言葉に、「失われた30年」があります。現在では危機感と共に語られることの多い言葉ですが、スコットランド出身の歴史学者ニーアル・ファーガソンは、「日本にとっては安定期だった。」言っています。日本企業にとっては、バブル崩壊により経済が縮小しつつも、マーケットは安定しており、リスクを取る必要は無かったのです。従って、新規の投資に対して経営者の多くは消極的になりました。勿論、IT・デジタル投資も同様に低調でした。

同じ時期のアメリカでは、1990年頃からシステム開発に関する経営学的、技術論的研究が盛んに行われると共に、インターネットの普及が相まって、巨大IT企業が誕生するに至りました。アメリカではITが「儲けの種」として投資が行われたことに対し、日本では投資が為されず後れをとってしまったのです。日本でIT投資が行われなかったと言うことは、日本の経営者がITついて考えなくても良かったことを意味します。しかし、日本の経営者とは本当に「見識なし、危機感なし」なのでしょうか?

筆者は、40年以上銀行に勤めて、多くの経営者の方々とお付き合いをさせて戴きましたが、皆さん優秀な方が多く、それぞれの分野で立派な業績も残しておられます。ただ1点足りなかったとすると、「経験」です。日本ではITとかデジタルとかが非常に狭い分野として取り扱われてきましたので、経験した人の比率が低かったのです。DXが求められるようになってからまだ5年そこそこです。「失われた30年」の借りを返すのは、そう簡単ではありませんが、正しいDXへの認識を持てば、短期間で日本は再生出来るはずです。

巷の情報を調べていると、日本では「何かDXというもの」が有って、それを組織に「くっつける」との理解が多いように思います。それ故に「経理のDX」とか「人事のDX」などのセールス文言が流れているのですが、これは「大きな勘違い」です。
筆者が考えるDXとは、まず第1に”人体に張り巡らされた「神経」が全身の状態を一瞬にして「脳」に送り、脳が即座に「判断する」ように、企業内にデジタルによる「感知システム」を構築し、迅速な「経営判断」が行えるようにすること”です。感知の対象は、企業内に存在するあらゆる情報であり、言い換えると「経営指標」です。Apple社の画期的な成功は、スティーブ・ジョブスの新製品開発に加えて、現CEOのティム・クックが感知システムを構築し、そこで得られた経営指標を改善するために、全社的「変革」を行ったからです。日本の経営者の皆さんも優秀な人材が多いのですから、「大きな勘違い」に気づき、DXの本質を正しく認識すれば、「明るい明日」が来ると信じています。勿論、一朝一夕には出来ませんが、信じて待ちたいと思います。

恥ずかしながら、「デジタルを一旦忘れると見えてくる新しいDX」と言う本を書きました。上に述べて来たことを具体的な事例を紹介しながら、分かりやすくDXについて解説したつもりです。ご一読戴ければ幸いです。

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