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【創作童話】 お菓子屋のポポロ

割引あり


「いいにおいがするなぁ‥‥‥」
犬のポポロは、おなかがすいてたまりませんでした。

1ヶ月前まではご主人にかわいがられていたのに、とつぜん、団地にひっこしがきまったといって、ポポロをおいて、出ていってしまったのです。

ご主人の家にいたころは、奥さんが毎日のように、ふわふわの白いからだにブラシをかけてくれました。
でも、今ではすっかりよごれています。
食べものだって、自分でさがさなくてはいけません。
けれどもポポロは、どうやって見つけたらいいかわかりませんでした。ごはんというものは、おなかがすくとでてくるものだと思っていましたから。
なのに、よその家へ行っても、お店へ入っても、ごはんをくれるところはありません。
それどころか、「うるさい」と言って、おいはらわれてしまうのです。 

そんなわけでポポロは、もう何日もなにも食べていませんでした。
たおれそうになるのを必死にこらえて歩いても、なにももらえませんでした。 

「ああ、最後に食べたおにくのあじがわすれられないよ」 

おにくの屋さんの前をとおると、鼻をクンクンさせました。
おみやげによくソーセージを買ってきてくれた、ご主人の顔が目にうかびました。
おわかれの日にもらった、大きなおにくのかたまりを思いだしました。
「いくら見ていたって、食べられないんじゃ、しょうがないや」

そのとなりは、花屋さんでした。
「お花は食べられないから、いらないや。でも、奥さんは、テーブルにかならずお花をかざってくれたなぁ。その横にはおいしいごちそうがならんでいたよなぁ‥‥。

「ああ、ダメだ。なにを見ても食べ物がうかんじゃう‥‥。お菓子も大好きだったなぁ。ポテトチップスも、チョコレートも、アイスクリームも、ビスケットも、キャンディーも」

それにしても、なんていいにおいでしょう!
まるで、本物のお菓子が目の前にならんでいるみたいです。
それもそのはず。
ポポロがつい、ふらふらと中へ入ってしまったのは、
《お菓子のくに》
という、古いお店だったのです。

「あのお菓子がまた食べたいよ。毎日リビングで、奥さんとおやつを食べるんだ。奥さんはとってもやさしくて、
『ポポロちゃん、どうぞ』
なんて言って、お菓子をどっさり出してきてくれて、
『クッキーもあるよ』
『ゼリーはいかが?』
『フルーツケーキもめしあがれ』
なぁんて言って‥‥‥。
ボクはもう食べきれなくて、おなかがふくらんじゃうんだろうな。こんなふうに、大きな口あけて、『いただきまぁす』って‥‥あぁ、こんな幸せな気分、なんだかひさしぶり‥‥。
ヘンだなぁ。ただ、思い出しているだけなのに、本当に口の中が甘くなってきたぞ」

ふと、ポポロは前足がヌルっとすべったような気がしました。
ゼリーがたっぷりとついた両足が目に入りました。
ハッとしてあたりを見わたすと、ついさっきまで、目の前にあったはずの奥さんの顔はきえていて、ただきれいにならべられたお菓子があるだけでした。
口の中に、ストロベリーの甘ずっぱさが広がりました。

あわてて、鏡をのぞくと、そこにうつったのは、鼻の横に生クリームをいっぱいつけたポポロの顔でした。
「た、食べちゃった‥‥。うわぁ!食べてしまったじゃないかぁ!」

ポポロは、頭の中がまっしろになりました。
ここがどこだか、よくわかりません。
でも、ここにあるお菓子が、ポポロのために用意されていたものではないことくらいわかります。
ここは、ポポロの家ではないことも、はっきりわかります。

「食べてしまった‥‥。そんなこと、ど、どうしよう!どろぼう‥‥なんて、するつもり‥‥なかったのに‥‥。ボクはただ、甘いお菓子を味わうところを想像して、おなかをみたそうと思っただけで、だから、その、つまり‥‥」

つまり、しかられる‥‥とポポロは思いました。
にげ出そうかとも考えました。
今、お店の中には、お客さんも店員さんも、だれもいません。
見つからないうちに、外へ飛び出してしまえば、だれにもわからないのです。
でもポポロは、そんなことはしませんでした。
きちんとあやまらないと、気持ちがすっきりしないんです。

それに、とってもおいしいお菓子の味が、まだ口いっぱいに残っています。
おなかがペコペコで、もう歩けそうもないポポロは、
(おこられたってかまわないから、おもいっきりお菓子を食べたい)
と思ってしまったのかもしれません。

「うまくいけば、また食べられるかもしれないじゃないか。あぁ、こんなときにもお菓子のこと考えているなんて、ボクってのんきなヤツ」

それでも、奥からおじいさんが出てきたときには、ドキッとして、とびあがってしまいました。

きっと、このお店の店員さんでしょう。のら犬が、お店の大事な商品を食べたとわかれば、きっとひどくおこるでしょう。
ポポロは、ゼリーのついた両足を見られないように、ダンボールがつんであるすみっこのほうにかくれました。
けれどポポロが動くと、お店の中はますますゼリーでよごれてしまいました。

ポポロはすぐに、おじいさんに見つかってしまいました。
「やぁ、いらっしゃい。ようこそ」
おじいさんは、久しぶりのお客さんを心からかんげいしました。
このところ、お客さんがちっとも来てくれないので、お菓子はまったく売れないし、話し相手もいなくてたいくつだったのです。
犬でもいいから来てほしい‥‥‥‥。
ちょうど、そんなことを考えていました。

おじいさんは、よほどうれしかったのでしょう。
ポポロをふかふかのクッションの上にすわらせて、あたたかいミルクをたっぷり入れたおさらをもってきました。

ポポロは目をパチパチさせて、おじいさんとミルクをかわるがわる見つめました。
「のんで、いいの?」
「ああ、いいよ。ゆっくりのみな」
おじいさんは、ちらかった店のことなんて、少しも気にしていませんでした。
ポポロはよろこんで、おおいそぎで、ミルクをペロペロなめました。
「おなかがすいているんだな。そうそう、残り物だけどね。これもどうだい?」

おじいさんはゆっくりと立ち上がると、お店のケーキやクッキーをもってきました。
それからまた奥へいくと、今度は大きなおさらにハムまで入れてきてくれました。
ポポロは不思議に思いました。
(なんで、しかられないんだろう???)
お店のテーブルは、ポポロが食べたゼリーと生クリームでよごれているし、ポポロの両足のせいで、クッションだってお菓子だらけです。
(こんなによごしちゃったし、気づかないわけないよなぁ。それに、だまってお菓子食べちゃったのに‥‥‥)

ポポロが顔をあげると、ニッコリ笑うおじいさんと目が合いました。
(このおじいさん、きっと今、すごくきげんがいいんだろうな‥‥そうか! お店が流行っているんだ。お金もちだから、少しくらい食べられたって平気なのかも。だから、ボクみたいな犬にも優しいんだ)
おじいさんは、おいしそうにお菓子を食べてくれるポポロをすっかり気に入りました。
そして、よごれてしまったポポロの体をタオルでふいてやりました。
お菓子のついた前足も、何も言わずにていねいにふきました。
子供がいないおじいさんにとって、今のポポロは本当の子供のようでした。
こうやって世話をしてやれるのがうれしかったのです。
ポポロはここまで優しくしてもらえるなんて、考えてもみませんでした。
(いいなぁ、こういうお店って。きっと、ペットが入ってもいいお店なんだな。前にご主人に連れてってもらったことがあるぞ。このお店、お客さんの連れているペットにこんなサービスするんだな。そうだ、このお店の人気のひみつはそこなんだ)

ポポロがすっかり感心していると、おじいさんが言いました。
「すまないが、ここで待っていてくれないか。お菓子を作ろうと思うんだ。このところ、お店にいてもすることもなくてたいくつなんだ」
それを聞いたポポロは、ますますおどろきました。
(たいくつだって? そうか、なんにもしなくったって、お菓子はとぶように売れているんだ。そこまでとは知らなかったな)

おじいさんは楽しそうに、なにやら材料を運んでいます。
ポポロの目の前に、小麦粉とたまごとバターと泡だて器を置きました。
「お前がきてくれて、なんだか楽しくなってきたよ。そうだ、新しいお菓子を考えることにしよう。何かいいアイディアはないかい」
新しいお菓子を作るなんて、今まで考えたこともありませんでしたが、ポポロがよろこんで食べてくれるのがうれしくて、おじいさんはまた作ってみようと思ったのでした。
おじいさんのお店のお菓子は、本当にさっぱり売れなくなっていたのです。
昔は、子供も大人もみんな買いにきてくれました。
ところが、近くに大きなデパートができてからは、みんな新しくできたお店に行ってしまうのです。
おじいさんの味はちっとも変わっていないのに、小さくて、何の飾りもない古い『お菓子の国』は相手にされませんでした。
そんなこととは知らないポポロは、
「このお店は、はやっているのにまだ新しいお菓子を作ろうとしてるのか。なんて研究熱心なおじいさんなんだ。それだけ、次々に新しいお菓子ができれば、お客さんもたえないわけだ」
と、ひとりうなずくのでした。

あれこれ、意見をだしあいながら、お菓子作りは進みました。
といっても、ポポロは味見をして
「このクッキーおいしいね」とか、
「もう少し甘くして」とか
「ケーキのイチゴもう少しのせて」とか、言っていただけですけど。
もっとも、おじいさんもそれでいいと思っていました。
おいしく食べてくれるのが、何よりうれしいことでした。
おじいさんは、新しいキャンディーを作りながら、ポポロをいつまでもそばにおいてやりたいと思うのでした。

「おまえの飼い主はどうしたんだい?」
おじいさんに聞かれて、ポポロは今までのことをみんな話してしまいました。
捨てられてからのこと、おなかがペコペコで、お店のお菓子を食べてしまったことも正直に話しましてあやまりました。
おじいさんは、いいよいいよと、かるく頭をなでてくれました。
「奥さんはお菓子が大好きだったんだ。いつもお菓子に囲まれて幸せだったよ。ボクって、つい食べすぎちゃうんだよねー」
「それなら、ポポロがたくさん食べてもあきないくらいに、とびきりおいしくしないとな」
そう言って、おじいさんは笑いました。
「よし、キャンディーに名前をつけるとするか。どんなのがいいかな。なんだか、心がうきうき、わくわく、とびはねたくなるような、楽しい名前がいいな。そう、スキップしたくなるような‥‥」
「おじいさん、なぁに? そのスチップって」
ポポロがいうと、おじいさんは笑いました。
「スチップじゃないよ。スキップ‥‥」
言いかけて、おじいさんは、
「いいや、そのままでいい。スチップキャンディーだ。これに決めたぞ! ポポロ」
おじいさんは満足そうにうなずきました。

ポポロにとって、久しぶりの楽しい時間でした。

それはおじいさんにとっても同じことでした。
こんなにはりきってお菓子を作るのは何年ぶりのことでしょう。
いつのまにかすっかり仲良くなった二人は、時間のたつのも忘れていました。

スチップキャンディーができあがると、二人で試食です。

「あ、オレンジの味だよね、これ!」
「ああ、そうさ。おいしいかい? ポポロ」
おじいさんは、若いころのようにはりきっていました。
ポポロを見ていると、ふしぎとちからがわいてくるような気がしました。

新しいキャンディーができたお祝いに、
《お菓子のくに》
のお店の看板も新しくとりかえました。

そこには、
《お菓子屋のポポロ》
の文字がありました。

もう、ポポロのいない暮らしなんて考えられないおじいさんは、思い切って店の名前までかえてしまったのでした。
「よし、これからもっとスチップキャンディーを作るぞ!」
「おじいさんったらはりきっちゃって」
ポポロとおじいさんは、いつまでも仲良くお菓子を作りました。

「ふう、少しつかれたな」
トントンと腰をたたきながら、おじいさんはよっこらしょと立ち上がりました。
「そうだポポロ、すまないがしばらくのあいだ店番しててくれないか。なにかおいしい果物でも買ってきて、ひとやすみしよう」
(どうせお客さんはこないんだ。少しくらいなら店をあけたってかまわない。)
おじいさんはそう思うと、また少し淋しくなりました。
それでも、ポポロの前では無理して笑ってみせました。
「そうだ、ボクが買ってくるからまっててよ、おじいさん」
ポポロはあわてて、お菓子だらけの体をきれいになめていいました。

いくらなんでも礼儀知らずの犬ではありません。
おいしいお菓子をおなかいっぱい食べさせてもらったうえに、楽しい時間を過ごしたのですから、なにかできることをしたいと考えていたのです。

それに、いくらおじいさんが親切で、どんなにお店がはやっているとはいっても、だまってお店のものを食べてしまったおわびはしなければなりません。
「おじいさんはのんびりしててよ」
ポポロはすぐに出かけようと、お店の入り口に座ってしっぽをふりました。
おじいさんは
「よしよし」
とうなずくと、
「それじゃあ今、お金をやろう」
そう言って、さいふを入れたリュックサックをポポロに背負わせてやりました。
ポポロはおおいそぎで出かけていきました。

ちょうどそのころ、近くの大きなデパートのお菓子屋さんを取材しようと、テレビ局の人がとおりかかりました。

オープン記念の安売りセールのチラシを出して、毎日たくさんのお客さんで大にぎわいなのです。
「今日はお菓子の特集だ。そうだ、町の人達の評判も聞いてみよう。きっと、みんなあのデパートのお菓子が一番だって答えるさ。なんたってすごい行列ができてるんだからな」

そこへポポロがとおりかかると、さっそく、テレビ局の人が声をかけました。

「もしもし、お急ぎのところもうしわけない。今、町で人気のお菓子屋さん、ありますよね。どんなところが魅力だと思いますか?」
ポポロは、おじいさんのお店のことを聞かれたと思いましたから、
「おいしいのはもちろん。ボクみたいな犬にも親切だし、新しいお菓子のアイディアまで聞いてくれるし、そりゃあいごこちがいいんですよ」
と答えました。
「そんなサービス、あったかな?」
テレビ局の記者はカメラマンと顔を見合わせました。

町の人から聞いているのは、おしゃれなディスプレイに、クラシック音楽が流れる店内‥‥‥。
めずらしいお菓子が安く買えるなどという話ばかりです。

ペットに親切だなんてだれも言いませんでした。
帰ったらさっそく、犬にも親切という記事を書こうと思いました。

ポポロは、デパートのお菓子屋のことなんて知りません。
こうしているあいだにも、ポポロはつかれているおじいさんに早くおいしい果物を食べさせてあげたくてうずうずしていました。
「それでは、今からそのお菓子屋に戻らないといけないので、失礼します」
あわてて走り出したポポロを、テレビ局の記者とカメラマンは追いかけました。
「あの大きなデパートのお菓子屋で飼われている犬なんだ」
そう思いこんでしまったのです。
「いいところで飼い犬に出会えるなんて、すごくラッキーだ。これはいい記事になるぞ!」
ポポロのあとをつけて、もっと話を聞いてみたいと思ったテレビ局の記者はおおよろこびでした。

「すごいね、おじいさん。とうとうテレビ局の人まで取材にきてたよ。たいへんな人気じゃないか!」
ポポロはしっぽをふって、おおはしゃぎです。
「何をさわいでいるんだい? おなかが空いただろう、中へおはいり」
おじいさんは、いすにすわってうとうとしていました。
「テレビだよ、おじいさん。テレビ!」
「何だ。テレビが見たかったのかい?」
おじいさんはリモコンでテレビをつけると、すぐに眠ってしまいました。

そこに、おじいさんのお店《お菓子屋のポポロ》
がうつっているなんて夢にも思わずに‥‥。

「これですよ! たった今できたばかりの新製品! スチップキャンディーっていいます。ぜひ、食べてみてください」
ポポロの声です。
「これはおいしいですね」
というお客さんの声もしています。
おじいさんはぼんやりした目をこすりました。お店にたくさんの人が集まって、何やらにぎやかな笑い声までしてきました。おじいさんはよほどつかれていたのか、まだうとうとしていました。
「ああ、あんまり楽しい時間をすごしたものだから、きっとポポロの夢を見ているんだな」
そうにっこり笑うと、また眠りにおちました。

「スチップキャンディーください」
若い女の人がやってきて、おじいさんは目を覚ましました。
どういうわけか、お店はお客さんでいっぱいでした。

おじいさんは目を丸くしました。まだ夢を見ているのかと思ったくらいです。
「これって、オレンジの香りがするんですってね」
女の人はそう言いながら、三つも買っていきました。
次に、買い物帰り
かいものがえり
の奥さんが、
「かわいい犬の店員さんがいるんでしょ?」
と、五つ買いました。
「スチップって楽しそう」
と言って、買っていく人もいました。

次の日も、また次の日も、スチップキャンディーはどんどん売れていくのです。
あるときは一箱も注文がきて、一粒ずつ手作りをするやり方では、とても作るのが間に合わないほどでした。

おじいさんは、どうしたことかと首をかしげるばかりです。

それもそのはず。
おじいさんは何の広告もだしていないのですから。

だいたい『スチップキャンディー』という名前さえ、まだ犬のポポロにしか話していないはずなのです。

それなのに、次から次に売れるなんて‥‥。
(きっとポポロだ。ポポロがみんなに言ってくれたんだ。そうか、うちの店があんまりはやっていないものだから、同情したんだな。あいつ、いいとこあるよなあ)

お客さんがいなくなったところで、おじいさんはポポロにそっとたずねました。
「なぁ、ポポロや。おまえいったい、何人の人にスチップキャンディーを宣伝してきたんだい?」

するとポポロは、
「一人だよ。テレビ局の記者のおじさん。あ、あと、カメラマンの人とスタッフさんたち入れれば、もっといるかな」
「テレビ局?  カメラマンとスタッフだって?  それはいったいどういうことだね?」
おじいさんは目を丸くしました。

そこでポポロは、あの日、買い物の帰りに記者にインタビューされたことを話しました。
「だって、町で人気のお菓子屋さんって聞かれたものだから。ボク、話したんだよ。おじいさんは優しくて、ペットにも親切で、お客さんのリクエストを聞いて新しいお菓子を作ってくれるって」

おじいさんは、テレビ局の記者が、本当は、《お菓子屋のポポロ》の取材にきたのではないことに気づきました。
それにポポロが「おじいさんの店がはやっている」と思いこんでいたことにも。
でも、あえて口にしませんでした。
その、とてもすばらしい「かんちがい」のおかげで、またお客さんがきてくれるようになったのですから。
「ポポロ。おまえはたいした犬だなあ」
おじいさんはポポロをぎゅっとだきしめました。

スチップキャンディーのおかげで、《お菓子屋のポポロ》は売り上げがどんどんのびて、おじいさんもポポロも大忙しでした。

けれどすぐ近くで、おもしろくないと思っている人がいました。
それは、デパートのパティシエでした。
パティシエが働いているデパートは、ポポロの店のすぐとなりにありました。

本当ならテレビの取材は、デパートのお菓子売り場にくるはずでした。
パティシエは、はりきって、新しいお菓子を用意していたのです。
ケーキもクッキーも、この日のために、新しく考えて、店の飾りつけにもこだわって、すっかり準備をととのえていました。

それなのに、テレビにうつったのは、すぐとなりの小さなお菓子屋でした。
見たこともない犬がいて、見たこともないキャンディーを宣伝していました。

パティシエはくやしくてたまりませんでした。
「デパートのお菓子のほうが、色も種類もたくさんある。もちろん味だって、ぜったいに負けていない。なのにどうして売りあげが落ちているんだ?」
パティシエは、自分が作ったお菓子が売れなくなるのではないかと考えました。

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