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ニフティサーブ「FBUNGAKU」の思い出

リアルな文芸サークルに参加したことはありませんが、パソコン通信の文芸フォーラムに顔を出していたことがあります。

今では知らない人も多いと思いますので説明すると、パソコン通信というのはインターネット黎明期まで存在していた通信サービスです。
インターネットのように世界中の情報にアクセスするのではなく、特定のサーバーに集約した情報にアクセスするのがパソコン通信です。

パソコン通信のサービスのひとつに「ニフティサービス」というのがありました。ニフティサービスは富士通などの企業が立ち上げたサービスで、「ニフティサービス」には同じ趣味が集まって議論するフォーラムという機能がありました。
現行のインターネットのように画像や動画のやり取りができるわけではなく、テキスト情報だけがアップされます。今でいうと「掲示板」ですかね。
まだADSLもなく、ISDN全盛の時代で電話回線を用いるから常時接続できずに、情報を取得したらすぐに切断することを繰り返す。今とは隔世の感がありますよね。

フォーラムのひとつに「FBUNGAKU」という文芸フォーラムがありました。FBUKUGAKUでは、小説や詩などの自作文芸作品をアップしたり、感想を書き込んだりして、匿名の人たちがやり取りをしていました。

僕が生まれて初めて自作の小説を公開したのもFBUNGAKUでした。小説教室や小説サークルに入ったことがなかったので、人によって読んでもらったこともなかったし、小説について議論したこともそれまでありませんでした。
投稿した作品は、東京の地下に旧海軍の施設が現存するという、ちょっと幻想的な話でした。ラストまで書いた2作目の小説でした。
今思い返すと、レベルが低く雰囲気重視の話でしたが、当時は結構自信がありました。

だけど、いざ満を持してFBUNGAKUに投稿すると、「面白かった」という感想を得ることはなく、逆に批判を受けることが多かったですね。
当時は、今のネットよりもずっと殺伐としていて、ネチケ(ネットエチケットの略。死語ですかね)も確立されていませんでした。
今でも覚えている批判は、「旧海軍の施設が戦後まで運営しているのがおかしい」というものでした。
もちろん、そんな施設が現存するわけがなく、完全なフィクションです。一応、歴史的背景を説明してありましたが、感想をくれた人はミリタリーオタクだったらしく、海軍がそんな研究機関を設けたわけがないことを長い文章で説明してくれました。

その感想から、僕が学んだことはいくつかあります。
ひとつは、「嘘をつくなら真剣につかないといけない」ということでした。小説はもちろん嘘っこの話なんですけど、「ああ、嘘だな」と思ってしまえば読者は醒めてしまいます。嘘の世界に浸れるように、背景をきっちり書き込むことが大事なんだと学びましたね。

もうひとつは、どんなことでも批判はあるということです。僕の技量も低すぎたというのもありますが(今でもまだまだかもしれませんが)、どんなに説明しても納得されない方はいるし、その人が過ごしてきた人生はそれぞれなんで、考え方も多種多様だし、他人の小説をひとつ読んだだけで人生観や考え方を変えるわけがありません。
そして、一定数の人は、自分と相反する作品について批判したくなるもののようです。

どんなに頑張って書いても、全員に理解されることはないという達観を得たのがFBUNGAKUでした。

フォーラム内で議論したり、感想を言い合ったりするのはとても面白かったし、勉強にもなりました。匿名なこともあり、みんなが本音で熱く語っているのが良かったですね。
当時のパソコン通信と比べると、現代のSNSは相当お上品に見えてしまいます。

あの頃のFBUNGAKUの人たちは今どこにいるんでしょうね。


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