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国の支援は地方の書店を消滅から救うのか

減少する街の書店を国が支援する報道がありました。

経済産業省が「書店振興プロジェクトチーム」を設けて、支援に乗り出すそうです。
書店を地域文化を振興する拠点として、読書イベントやカフェギャラリーの運営など、個性ある取り組みを後押しする方策を検討すると記事にはあります。
これから書店員や出版社の方をヒアリングして、具体的な施策を決めていくとのことです。

「イベントの開催とか発想がずれている」「店が存続できるように直接補助しろ」などの意見もあるかと思いますが、書店減少に行政が危機感を抱いているのは出版業界にとって良いことだと思います。

よく報道されるとおり、書店数は減少しています。2007年度は約1万5000店あった書店は、2022年度には約8000件と15年の間に半減近くなっています。減少というより激減と言っていいでしょう。

書店が減少したのは、Amazonに代表されるインターネット通販、電子書籍、スマホとの競合、趣味の多様化、人口減少など多くの要因があると思います。
同じ期間で出版業界の売上は約25%減少していて、書店の数ほど影響を受けていません(それでも大きな減少幅ですが)。
出版全体の売上よりも書店数の減少率の方が大きく、電子書籍とインターネット通販の影響が大きいことがわかります。

書店が減るにつれて、売り場面積も減少しているのですが、一店舗当たりの売り場面積は急増しています。つまり個人経営の書店が減っていって、大型店舗は生き残っているということです。

大型書店がない地方で書店が激減し、書店が一軒もない自治体も増えていっています。
これは地方だけでの問題ではなく、大型商業施設がない街ではどこでも起きている問題です。僕の生まれた町は都内にありますが、書店が一軒もなくない時期が長く続いていました最近、個人経営の書店ができました)。
作家の今村翔吾さんが書店がなくなってしまった佐賀駅に店をオープンしたのも、こういった現実に危機感を抱いたからだと思います。

こういった取り組みは大事だと思いますが、地方の個人書店が経営していくのはなかなか難しいのが現実です。今村さんのような著名な作家が経営に参加してくれるなら良いですが、多くの地方書店では作家を呼ぶのも難しいでしょう(呼んでいただけるなら僕はどこへでも行きますが。自腹で)。

書店が減少している要因の一つに、漫画と雑誌の売上が激減していることがあります。書店の売上の多くを占めていた漫画と雑誌は、ネット通販や電子書籍の影響をもろに受けています。その流れを逆行するのはかなり難しいと思います。
そもそも地方では、商店街も消滅しかけているので、小型書店が出店できる場所が限られています。
郊外に店舗を設けるなら広い駐車場が必須で、小規模店舗が経営するのは難しいでしょう。
人口減少、地方の過疎化、どれも一朝一夕に解決しません。これらの課題は書店だけではなく地方の産業ほぼすべてに言えることです。

品揃えにも限界がある小型書店が本の売上だけで経営が成り立つのは難しい状況にあります。
そういった中で、地域の文化拠点として書店を支援するのはそこまで悪手ではないかもしれません。行政が個人商店の売上を直接支援するのは公平性の観点から難しいですし。

以前に話した書店の社長が、「本の商売というのは薄利だが集客力がある」と言っていました。だから、大型商業施設の上階には書店があるそうです。
全員が本を買ってくれるわけではないけど、人が集まるから他のグッズを販売することができるわけです。
本以外のものを売る多角経営に乗り出して売上が伸びている大型書店も出てきています。
最近では、文房具やグッズの売り場面積が大きく書店なのか一目でわからないような店舗もあります。
書店は、品揃えが豊富で新製品(新刊)が出るのも早く、いつ行っても目新しい売り場に並んでいる特徴があります。本を買わなくても見て楽しめる店舗だと思います(作者としては買ってくれると嬉しいですが)。

だけど、人口減少が続く地方での個人経営の書店では、売り場面積も小さく、仕入れも多くはできないので、そのような手法を実践するのは難しいものがあります。
このままでは、地方から書店が消滅する危険性があります(現実に書店ゼロ地域は増えています)。

そのような危機的状況の中で、文化的なイベントを開いて集客し、書店を地方の文化拠点していくのはひとつの手法としてありかなと思います。
書店の売上を伸ばすために、書店の取り分を増やすなどの抜本的な制度改革も必要だと思います。
ただ、それらの改革は出版業界全体に多く影響し、多くの調整と時間が必要です(それをやるべきという意見があるのは承知していますが、そこに言及するには、僕自身がもっと業界について学ばないといけません)。

まずは、できることから地方の書店を支援していくことには賛成です。


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