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[短編]幸運の架け橋

 「毎日15分外に出る」

私はこれを忠実に守っている。

それは何故か。

それは、単に幸運になりたいからに過ぎない。

受験勉強の英文で読んだ根拠もないその情報ではあったが、

一日中外に出ないと、その英文に呪われたように反芻してしまうのだ。

出歩く場所は決まっていた。

そう「幸運の架け橋」だ。

その橋は、「幸運の架け橋」という名前には似つかわしくないほど、古く廃れている歩道橋だった。

どこにも幸運の要素なんてない。

むしろ、その逆の要素だったら沢山見つかると思う。

歩道橋の上には一人もいない。

車通りも多くない。

誰もが、近くの横断歩道で道を渡る。

歩道橋をあえて渡るものもいない。

この歩道橋が、「幸運の架け橋」である。

小学校四年生の頃に私は書道の習い事をしていた。

その帰り道に、歩道橋の下を通る。

優也(仮名)は、その橋のことを「幸運の架け橋」と言った。

勿論、理由はある。

優也と私は、帰り道に必ずカードを買うことを趣味にしていた。

帰り道のコンビニに寄って、帰り道に少しずつ開封する。

その時間が僕らにとって、心を揺らし合った大切な時間だった。

欲しいカードを言い合ったり、中には無いカードのことを自分達で作って、妄想したりした。

ある日、コンビニでカードを買って
「あの橋の上で開けてみようぜ」
と優也が呟いた。

優也と私は、歩道橋の上に立った。

月が燦々と輝いている夜だった。

歩道橋の上には、蛍光灯など無かったが、寂しくもなかった。

彼が、カードの袋を開ける。

そこには一番レアリティが高いカードが月夜に輝いていた。

それから、彼はこの歩道橋を「幸運の架け橋」と呼ぶようになった。

橋の上の景色はあの頃と寸分も変わっていない。

橋の手すりに寄りかかり、暮れ行く街を見る。

いつの間にか、人生に迷ったらここに来るようになってしまった。

昔、優也は私に言った。

「皆、幸運の架け橋の下を通るけど、上を通らないと幸せにはなれない」

だから、私は上に登るのがめんどくさいなと思いながら、私を急かしながら元気よく登っていた彼の姿を思い返しながら、橋の上まで登った。

やはり、橋の下だったら確かに何も思わなかっただろうな、と思った。

橋の上に立っているだけで、気持ちが落ち着くのだ。

わずかではあるが、私たちの街の景色を美しく見せてくれるのだ。

今日も少しだけ頑張ってみるか。

そんなことを思って「幸運の架け橋」を渡った。

ある満月の日

私は久しぶりに、カードを買って「幸運の架け橋」の上で開けてみた。

輝くものは全く無かったが、私のこころは月に照らされて輝いていたと思う。

あの頃と同じように。


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