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津堅島の年中行事 1月正月行事|Field-note

沖縄県の現うるま市津堅島で、1990〜1991年当時あるいはそれ以前に行なわれていた年間の行事や祭祀等の採集記録です。不定期に掲載します。


ショウガチ(旧暦1月1日)

グヮンタン(元旦)ともいう。早朝まだ暗いうちに、一家の主婦はワカミジ(若水)を汲みに行く。汲む井戸はアラカー(産井である)だけという人もいれば、シンジャーガー、ミーガーでも汲んでよいという人もいて一定していない。地区別に分けられているのかは確認できなかった。

この水でお茶を沸かして仏壇、神棚に供え、新年の挨拶をする(火の神には挨拶だけ)。残りは家の南東の軒下に置かれ、家族が洗面に用いた。ワカミジで顔を洗うと、年が若くなるといわれる。

男たちはオミヤ(中之御嶽)へ参拝に行き、一年間の家内安全を祈願する。その帰りに琉球松の枝と竹を刈ってきて、屋敷の門口に門松を一対設置する。同様に仏壇にも施す。

午前中に神人、村の役職者、村民(希望者だが、かつては各家庭から一人はでていた)が仲真次家に集まり、その神棚の前でヌル(村落の最高司祭者で津堅には津堅ヌル、神谷ヌルの2名がいる)を中心として島の繁栄と豊作・豊漁を祈願する。これをユーニゲー(世願い)という。

午後からは、兄弟、縁者が連れだって、年頭の挨拶にでかける。その範囲は主にイシムン(一門。門中とほぼ同意)であるが、それ以外のエーカ(個人を中心とした双方的親族)もかなり混じっており、また挨拶の対象となるのが当家の先祖(より直接的には血縁関係のあった故人)であることから、本来はイシムンには限定されずに、自己を中心とした系譜関係によって決定されていたのではないかと考えられる。

最初にムートゥドゥクル(一門の宗家)に集まり、次男バラ、三男バラの順で回るのが基本的であるが、最近では家が近いなどの理由でこの順序を無視する傾向にある。また、分家してまだ位牌を設けていない家は対象外である。

実際には全てのイシムンを網羅するのではなく、系譜関係が遠い、分枝グループが異なる、付き合いがないなどの理由で回らなかったり、ナカムートゥ(門中の下位分節集団の宗家)で代用したりするケースが多い。こどもたちもお年玉目当てに一緒についていく。なお、女性が最初に訪問することは避けられた。

この巡礼をニーントゥーウガミ、イシムンマーイ、ウシーマーシーなどと呼んでいる。これは2日、3日も続けられ、範囲は母方、妻方、娘方のエーカや友人知人にまで広がることもあった。

夜になると、集まった人たちで宴席となる。なお、この日から7日まではサンドゥヌムン(三度の食事)を仏前に供えた。

ハチウクシー(旧暦1月3日)

村落レベルで今年の農作物の豊作や村の発展、村民の一致協力、立身出世を祈願し、人間としての道徳、男女の心得を説く祭祀。

夕刻になると、村民が酒やご馳走を持ってシキルンチマー(津堅殿内庭。神アシャギがありアシビナーでもある)に集まり、男性はニッチュ(根人。男性神役で津堅には空位も含めて9名がいる)、区長を中心として東側に、女性はヌルを中心として西側にそれぞれ円座を設ける。男性数名が地謡となり、三線を演奏する。

持ち寄ったご馳走から男女双方で一人3品づつ集め、両ヌル所有の大きなお膳に山盛りにする。この作業は男性側は任意の者、女性側はサンナンマー(ヌルの補佐役。毎年交代する)が担当する。この膳をシンムイ(新盛)と称する。その上に松枝、竹、柴木(ヤブニッケイ)の枝、芋の葉、そてつの葉、菜の花、大根の花を飾り刺す。そして男女間でこれらの7つの草木の特徴に因んだ問答が繰り広げられる。

初めは女性側がお膳を手にしたヌルを先頭に男性側に押し寄せ、声を合わせて問いを発する。それに男性側が応じる。7つの問答が終わると女性たちは自席へ引き揚げるが、その際には、妊婦をまねて腹に物を詰め込み、頭上にたくさんの芋を入れたバーキをのせた女性(サンナンマーがその役割を担う)が、おどけて歩くうちにあまりの重さに転んでしまい、散乱した芋を女性全員で拾い集めるという所作が織り込まれている。これは豊作を意味するものらしい。次に男性側が女性席に赴き、同様の問答をやりとりする。

以前はこれらの問答の文句は全員が了解していたが、近年ではヌル、 ニーガン(根神。女性神役で津堅には2名がいる)、ニッチュなどごくわずかの人が暗唱できるのみである。

フナウマチー(旧暦1月3日)

昼を過ぎると、海人(漁師)たちはめいめいの船着き場に集合し、航海安全、大漁の祈願を行なう。これをフナウマチーという。漁業の仕事始めであるが、実際に船を出したりはしない。

船のウムティ(船首)とシム(船尾)に、門松、正月料理、スクガラス(アイゴの稚魚。3〜5匹)、酒を供える。祈願そのものは個々人で行なう。最近では、大型船には大漁旗や万国旗を飾るようになっている。

なお、現在はハチウクシーとの兼ね合いで、この儀礼は前日の2日に行なわれている。

ナンカヌスク(旧暦1月7日)

正月飾りや仏壇への供物などをウサンデー(線香を灯し、祖先にお断りしたのちに下げる)して片付ける。津堅ではこの日、豚肉雑炊は食べない。また、取り払った仏壇の赤・黄・白の紙でむかでを形どった旗を作り(これをンカジバタという)、次の日こどもたちが遊んだ。

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