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海人に学べ! 沖縄の海の地名|Report

夏ですね。
SUP FISHINGが趣味のわたくしですが、SUPの話題は確か2回しか書いていません。これでは自称パドルボーダーの名折れだと思い、新記事を書きます。

SUPで上から覗くと、海の中はいろんな地形や生息するサンゴで変化に富んでいることがわかります。昔の海人(ウミンチュ)はこれらの地形を読みながら、漁労活動を行っていたのだと思います。海人や半農半漁のシマンチュがつけた海の地名は沖縄の沿岸域のいたるところにあったのでしょうが、きちんと記録される前に失われていく運命にあるようです。

わたくしたちのような海を歩く人(ウミアッチャー)にとって、海の地名やそこに込められている地形・海況・生態系の特徴をおさえておくことは生きるか死ぬかの問題といっても過言ではないでしょう。

そこでわずかに残された海の地名の資料から、SUPがよく行き来する場所の基本的な構造をご紹介しましょう。参照テキストは読谷村が昭和55年に刊行した『読谷村海岸線保全・利用計画調査報告書』です。㈱地域計画研究所というコンサルタントと、その下請けの㈱愛植物設計事務所が調査にあたっていますが、その丁寧な仕事ぶりには驚かされます。


(1)礁縁|ヒシ

  • 礁縁とは、発達したサンゴ礁によって海面近くまで石灰岩盤が形成された場所の縁のことです。

  • 沖縄では一般的にヒシ、ピシと呼ばれますが、読谷村都屋ではシーノクチというそうです。

  • 英語ではリーフエッジ leef edgeです。

  • 次のような地形に分かれます。

①縁脚|スニ、ユニ

  • 礁縁のサンゴ礁の塊を、学術用語で縁脚というそうです。

  • 縁脚が帯状に連続して礁縁を構成します。

  • 沖縄語のスニは曽根(ソネ)から来ています。

  • 地形に応じて、マガリ(曲がり)、トガイ(尖り)、ザチ(崎)とも呼ばれます。

  • また特徴に応じて、スーキズニ(潮の流れの早いスニ)、ヒチグァーズニ(スズメダイがいるスニ)などと呼ばれます。

②縁溝|ワリ、ンジュ、ガマ、カタマ

  • 礁縁はまっすぐ伸びているわけではなく、のこぎりの歯のようにギザギザになっています。

  • 縁脚が尖っているほうとするなら、縁溝はくぼんでいるほうです。

  • ワリ(割)、ンジュ(溝)といわれるように、俯瞰すると割れているようにも溝のようにも見えます。

  • クチ(フチ)ほどではないですが、外洋の波や潮が流れ込むところで、建干網や追込み漁などの漁場です。

  • 特徴に応じて、クルワリ(黒い割)、イラブチガタマ(イラブチャーがいるカタマ)と呼ばれます。

③礁斜面|サガイ

  • 礁縁から外側に向かう斜面のことで、読谷ではサガイといい、魚介類が豊富な場所です。

  • これが急斜面だとヤトウやスーラブカと呼ばれ、緩斜面だとヌンリになります。

  • 礁斜面が数段に及ぶサンゴ礁になっている場合は、浅いところはイーズニ、中間はナカズニ、深いところはシチャズニと分けられます。

④離礁|ファービシ、グー

  • 礁縁から少し離れたところにあるサンゴ礁の嶺のことで、魚がつく根になっています。

  • 間の海域は縁溝と同じように、ワリなどと呼ばれるようです。

(2)礁原|イノー

  • 礁原とは、礁縁の内側の穏やかな内海の部分です。

  • 広いところ(礁湖=ラグーン)も狭いところもどちらもイノーと呼ばれます。

  • イノーのなかは地形の変化が少なく、ミドリイシなどの造礁サンゴではなく、大きくなるものではハマサンゴ、ユビエダハマサンゴ、エダコモンサンゴなどが生息しています。

  • 地形・植生の変化が少ないこと、そのため魚類も少ないことから、固有の地名は礁縁よりも少ない傾向にあります。

  • 次のような地形に分かれます。

①潮だまり|クムイ

  • 礁原内で少し深くなって、干潮でも干上がらない場所のことで、英語ではタイドプール tide poolです。

  • 学術用語の礁池は礁湖の小さいバージョンなので、少し意味合いが異なります。

  • 読谷では、チチグムイ(魚がつくクムイ)やシチューグムイ(クロメジナ等がいるクムイ)などの地名があります。

②適訳なし|グーフ

  • グーフとは礁原内で盛り上がった場所のことで、沖縄語の語源は瘤です。

  • 追込み漁の尾根筋になるところで、建干網を仕掛けるポイントでもあります。

  • 南城市南側のイノーには尾根筋とは逆の谷筋である澪(ヌー)があり、これまた好漁場になっています。

  • これはかつての河川の名残りですが、読谷村の緩やかに西面する段丘では海に流れ込む河川が発達しなかったことがヌーという地名がない理由かもしれません。

(3)水道|クチ、フチ

  • 礁縁の大きな割れ目で、口という意味でクチやフチと呼ばれています。

  • 読谷には23ヵ所のクチが確認されており、ウフグチ(大きなクチ)、カチチグチ(シラヒゲウニがいるクチ)などの地名があります。

  • 船が出入りする場所であると同時に、上げ潮・引き潮時に潮が出入りする場所でもあります。

  • パドルボーダーにとっては、離岸流の源にもなるので要注意です。

(4)卓礁|イナン

  • 離礁とは異なり、礁縁から遠く離れたところにあるサンゴ礁の浅瀬のことです。

  • 糸満沖にあるルカン礁が有名ですが、那覇新港がある浦添市の伊奈武瀬もそうで、これは埋立前に卓礁があったことからの命名だと思われます。

  • 読谷の楚辺地先のソベイナンは好漁場になっています。

例として残波岬ロイヤルホテル~星のや沖縄あたりのイノーの地名図を載せておきます(p55)

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