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あの夜、闇の咆哮に包まれたエコロッジで|Works

むかしむかし、ある旅行者がコスタリカという小さな国を旅したそうな。

その頃はエコツアーで使われるお宿には、「エコロジカル」「伝統的」「シンプル」「快適」という4つの約束事があったんじゃ。
キャンプサイトや山小屋から高級なホテル・ロッジまで、いろんなお宿があったそうじゃよ。

自然と仲良くなりたいエコツーリストたちは、豪華さよりも質素さを好んでいたんじゃが、清潔で快適というのもやっぱり大事でのう。
個人経営の小さなお宿では、花や貝殻のようなその地の自然の恵みで室内をエモくデコレートして、お客さんの心をわしづかみにしておったそうじゃ。
地元の家庭にお邪魔するホームステイなんかも、エコツアーでたいそう人気があったんじゃよ。

自然保護区の近くでは「エコロッジ」と呼ばれるお宿があってのう。これは、環境にやさしい技術でつくられ、廃棄物を減らしたり自然のエネルギーを使ったりしているお宿のことだったんじゃ。
観光ガイドブックやパンフレットには、エコロッジの特徴がようけ書かれていたそうじゃが、そのなかには次のような言葉があったんじゃと。

  1. 森の中にあって、お部屋がガラスで囲まれているから、周りの熱帯雨林を感じることができるよ。

  2. 敷地内にはお散歩用の小道があり、ハナグマやハチドリなどおやつをあげられる動物と触れ合うことができるよ。

  3. 海亀の卵を守るため、人工の明かりをできるだけ避け、ホテルの明かりが外に漏れないように熱帯植物を植えているよ。

  4. ヤシの葉や土壁、高い天井など、昔ながらの建材や建築の技術を使って、冷房やエネルギーを節約しているよ。

  5. 夜の森を観察するために木の上につくられたキャビンもあるよ。

ひとつ例をあげてみようかのう。
コスタリカのカリブ海側にあるガンドカ=マンサニーヨ野生生物避難区には、「Almonds and Corals」という、私設のエコツーリズムサイトがあったんじゃ。
そこは、旅行代理店で働いていた娘さんがつくったところでな。1991年頃になってエコツーリズムがはやりだすと、思い切って娘さんはそれまでの仕事を辞めてしまったんじゃと。

「爺さんや、あたしゃ同じ働くんじゃったら、自分で決めたいことを決められる仕事がしたいで」

娘さんは約3ヘクタールの熱帯雨林と湿地を手に入れてのう。
元々あった木々をなるべくそのままにして、受付やレストラン、20室の部屋などを心を込めてつくりあげたそうじゃ。

珍しいことになあ、木製のキャビンの中には、ミリタリー素材のテントキャンプが張られておってのう。ワイルドさと快適さを同時に求める現代人の嗜好をとらえた、それはそれは見事なものじゃった。
いまでこそ屋内にテントを張ったゲストハウス(直島のゲストハウス島小屋等)や室内キャンプ(ヒルトン東京お台場等)なんかは珍しくはのうなったけれどもな、その当時はほかに類はなかったんじゃ。


前の年の稼働率は50%ほどじゃとゆうておった。アクセスの不便さを考えれば、なかなかの人気じゃろうて。
キャビンには、環境にやさしい技術や下水の処理、省エネの仕組みについて説明したマニュアルもあったんじゃが、これはのう、お客さんに施設の理念を理解してもらおうと考えたからだそうじゃ。

そういえば、分散型のキャビンをつなぐ通路には電気照明はなくて、ロウソクの灯りのみじゃったなあ。
ホエザルの声が間近に聞こえておった。

朝のハイキングツアーでは、ガイドの若い衆が熱帯雨林の中を案内してくれてのう。たまたま森にいたイチゴヤドクガエルやパームピットバイパーなんかの珍しい動物や植物の生態を解説してくれたんじゃ。
わしらはそれを聞きながら、ふむふむと楽しく歩くことができたんじゃ。
めでたしめでたし。


解説

1999年にコスタリカに2ヵ月間滞在した。エコツーリズムの研修という名目で、現地の自然保護のNPOに受け入れてもらった。

事後にはもちろんレポートを提出した。だけどその内容が専門的すぎるのと、20何年も前の情報など時代遅れになっているのとで、そのまま報告することはしない。かといって記憶もあやふやなので、一応の参照点にしながら、断片的に思い出せることを小ネタで書いていく。

今回は、日本昔ばなし風の語り口で「エコロッジ」を取り上げてみた。

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