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仮面ライダー本郷猛はバイオミメティクスによる改造人間である(妄想)|Episode

久しぶりに真夏に生まれ故郷に帰った。近くの普通河川に釣りに行った。昔はハヤ(地元じゃいろんなのひっくるめてハヤという)、ギンブナ、ヘラブナ、ドンコ、メダカ、タイワンドジョウ、アメリカザリガニ、ニホンザリガニ、タイコウチ、ゲンゴロウ、アメンボ、ヤマカガシ、マムシなど生命感にあふれていたが、3面コンクリート張りになって、オレたちのホームリバーはゆるやかな死を迎えた。

魚は釣れなかった。摂氏34℃の炎天下を往復3㌔歩いて釣れるポイントを探したがみつからなかった。「餌のミミズが昔いた場所にいてくれさえしたら」「風に邪魔されずにラインメンディングできていれば」「竿や仕掛けがDIYの総額¥300じゃなかったら」などのエクスキューズを抜きにしても、死はあの日以来いまも続いているようだ。

悔しいから次の日、濁りきった池がある市内の公園に行き、ブルーギルを釣って溜飲を下げた。殺生はしないはずだったが、針がエラにかかり血が出たので、首折りギルにして即死させ、この界隈を根城にしている斑の猫にあげた。猫は生魚が嫌いなのか、ちっともうれしくなさそうに口にくわえ、こちらを一瞥もせずに去っていった。

川でも池でもおにやんま君をぶらさげて釣りをした。蚊にさされた痒さがとても不愉快だからだ。おかげで一箇所もさされなかった。「さすがはおにやんま君!」と思いたいところだが、小川の34℃と湖畔の30℃(推定)はヒトスジシマカにとっても不快な温度らしい。去年も今年も蚊が少ないね、と家族(family of orientationのほうね)は言っていた。蚊は嫌いだがなんだか不気味だ。

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おにやんま君に話を戻すと(一緒に釣りをした甥の娘にあげたので写真はない)、「ハエ、蚊、アブ、スズメバチ等の天敵とされているトンボの王様『オニヤンマ』を模し、身につけるだけで捕食されることを恐れた虫が本能的に寄ってこない、アイデア商品です」と公式サイトで紹介されている。個人的には、バイオミメティクス商品にカウントしてあげたいところだが、どうも違うらしい。


ではバイオミメティクスをざっくり解説しよう。
バイオミメティクス(生物模倣、≒バイオミミクリー)とは、生物の構造や機能、生産プロセスなどから着想を得て、新しい材料設計や生産技術を開発しようとする科学技術のことだ。最近では分子系や機械系だけでなく、生物の生態系や行動に学ぼうとする研究開発も進み、分子レベルの材料設計から機械工学、建築、都市設計に至る総合的な技術体系となりつつある。

バイオミメティクスの開発例として以下がある。
ミツバチの巣の構造をした製品:正六角形のハニカム構造。軽くて頑丈で、音や衝撃を吸収。飛行機の翼や靴底などに応用。
競泳用水着:水着の表面に鮫肌リブレットと呼ばれる構造を採用。流体の抵抗摩擦が少なくなる。
新幹線のパンタグラフ:フクロウの翼の構造がヒント。この構造が騒音の原因の一つである気流の逆流を除去。
痛くない注射針:先端0.05mmほどの蚊の口がモデル。痛点への刺激は最小限に抑えられる。
ヤモリの指の接着テープ:自身の体重を指一本で支えるほど強力な接着力を持つヤモリの指を模倣。
トンボの羽の風力発電:トンボの羽から生まれた風力発電。台風に耐える強さがあり、低周波騒音を発しない。

バイオミメティクスを持続可能な総合的技術体系として実現するためには、異分野連携(学際領域)が不可欠である。生物多様性に関する生物学・博物学の知見を工学に技術移転するための連携のことだ。

そのためには、生物多様性の基礎研究が生むビッグデータから利用できる工学情報を抽出する「バイオミメティクス・インフォマティクス」が必要で、生物学データベースの整備と多様な情報検索システムが求められる。フランス国立自然史博物館、大英自然史博物館、ベルリン自然史博物館などでは、自然史博物館がバイオミメティクス・プロジェクトに深く関わっている。

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おにやんま君同様バイオミメティクスに入らないが、無法地帯の海洋ごみにささやかなアクションをしているオレがいま注目するのは、プラスチックを食べる菌類の研究である(英国ロンドンの王立植物園キューガーデンの研究発表による)。

2017年、パキスタン・イスラマバードの一般ゴミ捨て場の土壌から、ある菌が採取・分離された。「アスペルギルス・ツビンゲンシス」といい、ポリエステル系ポリエスタンの分解能力があることがわかった。通常ポリエスタンは分解されるまでに数年かかるが、この菌は数週間で分解することができる。また、プラスチックの分子と分子の間の化学結合を分解するため、プラスチックの表面で成長することができるそうだ。

基礎研究を応援することって、――それが役に立たないまま終わったとしても――とっても大事なことだと思う。

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