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人に話すまでもない話。

姉の誕生日プレゼントを買いに行くなら今日しかないのでは、と思い立ってこの間見つけた路面店の洒落た小さな店へと向かった。
姉は長女なだけあって誕生日やクリスマスには忘れずにちょっとしたプレゼントをくれる。
二番目の姉、または私のように自分のことだけを考えて生きてくれれば姉の誕生日やクリスマス前にやべぇ!と慌てることもないのに、などとズボラな私が少なからず思っていることは口が裂けても言えない。
よって毎年律儀にやって来る姉の誕生祭には姉のテンションの上がるものを献上しなければならなかった。

ヴィンテージ風に加工された白い木枠のガラス引き戸を開けると、コンクリートの床、同じカラーの壁面に木の飾り棚が作りつけられ、その上にフレグランスやソープ、ボディークリームがずらりと陳列されている。
店舗の真ん中にこれまたコンクリート風の大きな台があって洗面ボウルがはめ込まれ、横には化粧品やコスメが均等な距離感で並んでいた。

「いらっしゃいませ」
声をかけてきたのは黒いワンピースを着た、40代後半くらいの肌が艶々な女性だ。
頬骨の一番高い位置に光りが集まり、商品の説明をしつつ微笑みかけてくる度にその頬骨の艶に釘付けになる。
貴乃花の奥さんだった女性に似ているなと思った。

女性は商品の説明も上手く、私は勧められるままハンドソープとルームフレグランスの2点を選び、レジでまあまあのお値段にまあまあびっくりしながら会計を済ませた。これが頬骨マジックかと艶のある女のポテンシャルを思い知る。
私が見るべきは頬骨よりもプライスだったのに。

帰りのバスに揺られながら、私が手に持っていたのはあの女性が「こちらはプレゼントです」と手渡してくれた美容液だ。テスターをプレゼントと言う女性にたたみかけてくるやんと思う。プレゼントと言った方が特別感がある。しかしこのテスターを姉にプレゼントですと渡したら「舐めてんの?」と言われるのだろう。

なんでもこの美容液は肌にいる良い菌を育てるのだという。肌にいる良い菌がいるのなら悪い菌もいるのだろうか。良い菌が育つと悪い菌はどうなるのだろうか。良い菌が食べるのかしら、それとも消滅するのかしら。
妄想の中でいつの間にかカビるんるんとバイキンマンがはひふーへほーと山の向こうに飛んでいき、顔の中でまで戦うことはもうやめにしてほしいと思った。
ところで私の顔にも良い菌ていますか?
妄想が行き過ぎてバスを降りる頃にはすっかり疲れてしまった。北風が冷たい。

バス停の近くにあるド派手なアジア料理店で夕飯をテイクアウトする。
ここのところスパイスが食べたい週間に突入した私は、中国から攻め、韓国、スリランカの料理をせっせと胃袋へと運んでいた。次はタイだと目星を付けていたのだ。しかし店中に入ると思いっきりカレーの匂いが漂い、オレンジのポロシャツを着たネパール人らしき店主が顔を出した。あれ、ここってカレー屋さんなの?
メニューを見るとナンカレーの写真がずらりと並んだ下にタッパイ、ガパオと続き、韓国にありそうな揚げたチキンまである。
もうタイの口だったのでタッパイとチキンを注文する。
するとネパール人らしき店主がチキンをタンドリーチキンねと言うので違う違う、揚げる方のチキンだと言うと「唐揚げ?」と返してきたのでそうだと頷きつつ、脳内ゲシュタルト崩壊みたいなことになった。
ネパール人と踏んだ店主も実はインド人通り越して日本人だったりするのかもしれない。

とはいえ商品を渡してくれる時に彼が言った流暢な「待たせちゃってゴメンね☆」があまりにキュートだったのでもう何人であろうと構わなかった。
待たせちゃってゴメンねくらいの言葉は待たせてなかろうと可愛らしく言っておいた方がいい。その方が何かと帳消しになる気がする。
ここまで書いて気が付いたけど、やだ私パッタイのことタッパイって書いてる。どうりで変換しにくいと思った。
Windowsってバカなの?って思ってゴメンね☆
ほおら、帳消しだ (Windowsが私よりバカなんてことはどう考えてもない)

写真はスリランカのコットゥとバナナの葉に包まれたランプライス。
まだスパイス週間が終わりそうにないので、色々な国のスパイシーな料理が食べたい。スパイスに飽きたら、良い菌でも育ててみようか。

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