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TCP/IPの歴史

今回は、TCP/IPの詳細とその歴史について詳しく解説します。

TCP/IPとは?

まずTCP/IP(Transmission Control Protocol / Internet Protocol)とは何かから始めたいと思います。TCP/IPはインターネット環境で使用されるIPを用いる通信プロトコル群の総称です。ごくまれにTCPとIP、この2つのプロトコルを指してTCP/IPと呼ぶこともありますが、基本的にはTCPとIPだけでなく、IPを使用して通信するためのすべてのプロトコルを指す総称として使われることが多いです。ちなみにプロトコルは通信規約や手順を指す用語で、日本語では「通信規約」や「手順」と訳されることが多いです。

プロトコル、パケット、スタックの語源

プロトコルの語源

「プロトコル」は、ギリシャ語の「protokollon」に由来し、「最初の接着剤」という意味があります。これは古代において、公式文書に最初に貼り付けられる重要な書類を指していました。通信においては、異なるシステム間での共通のルールや手順を指します。

パケットの語源

「パケット」は、フランス語の「paquet」から来ており、「小包」という意味です。データ通信において、データを小さな断片に分けて送信する方式を指します。これにより、効率的なデータ転送が可能になります。

スタックの語源

「スタック」は、英語の「stack」から来ており、「積み重ねる」という意味です。プログラムやデータが順序通りに積み重ねられる様子を表しており、プロトコルスタックでは、通信プロトコルが階層的に積み重なって動作することを示しています。

TCP/IPの歴史

冷戦と技術開発

TCP/IPの歴史は1960年代に遡ります。当時、冷戦の影響下でアメリカとソ連の間で軍事技術の競争が激化していました。この背景の中で、アメリカは通信技術の研究を進めることを重要視しました。アメリカ国防総省の高等研究計画局(DARPA)は、軍事通信の信頼性を高めるための技術開発を推進しました。このプロジェクトには、MITのJ.C.R.リックライダー、スタンフォード大学のヴィントン・サーフ、ロバート・カーンなどが関与しました。

J.C.R.リックライダー
ヴィントン・サーフ
ロバート・カーン

通信の問題と解決策

当時の通信の問題は、通信が攻撃によって途絶えると通信を続けることができないことと、回線の利用効率が悪いことでした。従来の電話回線では回線交換方式を使用していたため、通信を開始するとその回線を独占してしまい、他のコンピュータはその回線を使用できませんでした。この問題を解決するために、パケット通信が注目されるようになりました。

パケット通信の導入

パケット通信は、大量のデータを小さな単位に分割し、それを相手に送信する方法です。パケット通信では、大きなデータを小さな単位に分割して送信するため、複数のユーザーが回線を共有して使用することができます。これにより回線の利用効率が向上し、回線コストが削減されました。回線コストが削減されると、迂回ルートを作成しやすくなります。

ARPANETの誕生と成功

ARPANET(Advanced Research Projects Agency Network)は、現代のインターネットの起源とされる重要なネットワークです。1969年、スタンフォード大学、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、UCサンタバーバラ(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)、ユタ大学の4つの大学を接続して構築されました。

スタンフォード大学
UCLA
UCサンタバーバラ
ユタ大学

このプロジェクトは、アメリカ国防総省の高等研究計画局(DARPA)の支援を受けて行われ、ロバート・カーンとヴィントン・サーフが中心となって開発されました。

ARPANETの初期段階

ARPANETの構築は、1969年10月29日に初めてのホスト間の接続が成功したことで大きな一歩を踏み出しました。この日、UCLAの研究チームがスタンフォード研究所(SRI)との間で「LOGIN」というメッセージを送ろうと試みました。最初の2文字「LO」まで成功しましたが、システムがクラッシュしてしまいました。それでも、この実験は歴史的な瞬間となりました。

プロジェクトの背景と目的

ARPANETの開発は、冷戦時代の軍事的緊張の中で行われました。アメリカは、核攻撃などの危機に対しても通信が途絶えないシステムの開発を目指していました。そのため、ネットワークが部分的に破壊されても生き残れるような耐障害性を持つシステムが求められました。

パケット通信の採用

従来の通信システムは、回線交換方式を採用しており、一度に一つの通信しか行えないため、非常に非効率でした。ARPANETはこの問題を解決するためにパケット通信を採用しました。パケット通信では、データを小さなパケットに分割し、それぞれのパケットが独立して送信され、受信側で再び組み立てられます。この方法により、同じ回線を複数の通信が共有できるようになり、効率が飛躍的に向上しました。

研究機関への拡大

ARPANETは、最初の4つのノードから急速に拡大し、1972年までに米国内の23の大学や研究機関が接続されました。ARPANETの初期のユーザーには、MIT、ハーバード大学、カーネギーメロン大学、スタンフォード大学、USC(南カリフォルニア大学)などが含まれていました。この拡大により、ネットワークの有用性が広く認識されるようになりました。

国際的な接続

ARPANETは1973年に国際的な接続を初めて実現しました。ノルウェーのNORSARとイギリスのUniversity College Londonが初の海外接続ノードとなり、ARPANETは初の国際ネットワークとなりました。これにより、パケット通信の概念が世界中に広がり、後のインターネットの基盤が築かれました。

TCP/IPの開発

ARPANETの成功により、パケット通信が信頼性の高い通信手段として実証されました。しかし、異なるネットワーク間の通信を円滑に行うためには共通のプロトコルが必要でした。ヴィントン・サーフとロバート・カーンは、1974年に「Transmission Control Protocol/Internet Protocol(TCP/IP)」を提案しました。TCP/IPは、データを信頼性をもって伝送するためのルールセットであり、データの分割、伝送、再構築を管理するものです。

TCP/IPの採用と普及

1983年1月1日、ARPANETは公式にTCP/IPをプロトコルとして採用しました。これは「フラッグデー」と呼ばれ、ネットワーク全体が一斉に新しいプロトコルに移行した日として記憶されています。この移行により、ARPANETは一層の発展を遂げ、インターネットの基盤が強固なものとなりました。

ARPANETの影響とその後

ARPANETは、1980年代を通じて研究機関や大学の間での情報交換を支え続けました。しかし、1980年代後半には、商業ネットワークの台頭やNSFNET(National Science Foundation Network)など新しいネットワークの出現により、ARPANETの役割は次第に縮小していきました。1990年、ARPANETは正式に運用を終了しましたが、その技術と思想はインターネットへと受け継がれ、今日の情報化社会の基盤を築きました。

ARPANETの初期のノード数は4つから始まり、1972年には23のノードに拡大しました。1973年には初の国際接続が実現し、1980年代には50以上のノードが接続されていました。TCP/IPの導入後、インターネットの普及は加速し、今日では数十億台のデバイスがインターネットに接続されています。

ARPANETの誕生と成功は、現代のインターネットの基盤を築く上で非常に重要な出来事でした。冷戦時代の軍事的背景、革新的なパケット通信の導入、国際的な拡大、そしてTCP/IPの開発と採用が、インターネットの発展を大きく推進しました。これらの歴史的な出来事と技術革新が、今日の高度に接続されたデジタル社会の礎を築いたのです。

TCP/IPプロトコルスタックの概要

TCP/IPプロトコルスタックは、OSI参照モデルとは異なり、実用的なネットワーク通信のために設計されました。TCP/IPプロトコルスタックは4つの層で構成されています。

  1. リンク層:ネットワークインターフェース層またはネットワークアクセス層とも呼ばれます。この層はOSI参照モデルの物理層とデータリンク層をサポートします。

  2. インターネット層:OSI参照モデルのネットワーク層に対応します。

  3. トランスポート層:OSI参照モデルのトランスポート層と同じです。

  4. アプリケーション層:OSI参照モデルのセッション層、プレゼンテーション層、アプリケーション層に対応します。

TCP/IPプロトコルスタックとOSI参照モデルの違い

TCP/IPプロトコルスタックとOSI参照モデルは完全に異なるものではありません。OSI参照モデルの中でTCP/IPプロトコルスタックを適用して考えることができます。例えば、リンク層はOSI参照モデルの物理層とデータリンク層をサポートし、インターネット層はネットワーク層に対応します。トランスポート層とアプリケーション層も同様に対応しています。

TCP/IPの迅速な開発と普及

TCP/IPは「仕様を考える前にプログラムを開発する」と言われるように、迅速な開発を可能にしました。技術革新の急速なスピードに対応してプロトコルを開発・改良することができ、世界中でますます使われるようになりました。

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